第34話 仲間(1)
スイッチを押したら、まずは北の通路。歩く屍を出てくる順に速やかに排除し、レバーを倒す。
中央へ駆け戻る最中に、東西から押し寄せるゾンビドッグは全てマリモが獄炎の槍の力で、灰燼と化す。
「西に行く」
「おっけい!」
すれ違いざま短く言うと、マリモもやや西へ立ち入りをずらす。次のゾンビドッグが現れる前に、西のレバーも倒し、今度は全力で東へ。背後から犬の狂ったような吠え声が迫ってくる。
「後ろからのは任せて! 北のレバーが戻るまで、あとこのくらい」
せっかくのハンドサインはさっぱり分からなかったが、自信を持ってうなずく。
「行ける」
東側から再沸きした腐犬は、相手にせず跳躍。スライディングしながら東側の最後のレバーに手をかけて、思い切り引いた。
ゴゴゴと仕掛けの動く音が響きはじめても、ゾンビラッシュは止まらない。中央に合流した歩く屍と、西からのゾンビドッグに挟まれたマリモが、力ずくで槍を振り回すと、案の定真ん中あたりからボキリと折れた。
「うぁー、レア武器がー」
「気にするな、また出る」
一匹ずつを確実に仕留めながら、マリモに近づくと、武器の破壊者は、慣れた様子で折れた槍を両手に分けて戦っていた。
ゴゴゴ……。ネタバレ通り、中央の台座が床に吸い込まれ、代わりに下り階段が現れると、ようやくゾンビたちの沸きが止まる。
北と東西にそれぞれ光る宝箱が現れたのを見て、マリモは目を丸くした。
「なにこれ、3個も出るの?」
普通は出ねぇよ、と管理者がぼやいたのは、二人には聞こえない。
「お、ブオンと振り回せる感じの武器とは、こんな感じか?」
ノエルがしゃがみ込んでいた宝箱の前を譲ると、すっとんできたマリモが歓声をあげた。
「やったぁ! すごい【壊れない】戦斧だぁ」
無骨な戦斧を、宝物のようにマリモは掲げる。
「武器屋で、マリモと名を入れてもらってからでないと、ユニーク効果は発現しない。まだ振り回せないぞ」
うん、うん、分かってると、湿った声で彼女はうなずいた。どれほどこの武器が欲しかったのかと思うほど、感激している。
「帰り道用に、壊れるハルバードも出た。とりあえず10階まで戻ろう」
ノエルが差し出したハルバードも戦士垂涎のレア武器で、もったいないなぁと笑いながらマリモは受け取る。そして、途中でもちろん壊した。
ラダトキアの元闘技場へ続く扉の前で、ノエルは別れの挨拶のために手を差し出す。
「ユニーク武器取得のためと言いつつ、結局こちらが19階の攻略を手伝ってもらってしまってすまない。助かった」
「……こちらこそ、ありがとう」
握り返されなかった手を、さほど気にした様子も無くノエルはひっこめる。
「ノエルはこれから、どうするの?」
どうと言われても、と困りながら青年は答えた。
「40階を目指し、この迷宮の最奥に到達する」
「……!」
シンプルな回答に、マリモは目をみはる。
できればそれに伴って、武器コレクションを増やしたいし、見たことのない武器も扱ってみたいし……。長くなりそうだからそこは端折った。
黙っているマリモを、いつまでも引き留めるのも悪いと思い、ノエルは再び口をひらく。
「パーティー解散は、メンバーからでもできる。急ぐなら、ラダトキアに戻ったら手続きをしておいてくれ」
かつてメンバーから追放されたリーダーは、解散の手続きに関してはお手の物なのだ。
さあどうぞ出てくれと言わんばかりにしているのに、自分はダンジョンから出る気配が無いノエルに、戸惑った声が上がった。
「ねぇ、ノエルは戻らないの? まさかこのまま40階に挑むつもり?」
いや、さすがにそれは無いとノエルは首を振る。
「ゴンゴルノに戻る。色々とがめつい王都は【浪費家】には住みにくすぎる。どこからでも詰む拠点には居られない」
詰むってどういうこと? と尋ねたマリモに1つずつ指折り解説する。
「木札を買えないと、ダンジョンに潜れなくなるというのが最恐だ。俺の所持金は平気で銀貨3枚を下回る。馬小屋に無料で泊まれないのも厳しいし、王の祝日の劇は……思い出したくもない」
その点がゴンゴルノを拠点にしていれば、全てが解消される。
「じゃあ、毎回ダンジョン探索を1階から始めるってこと?」
「そういうことになるな」
ぱちぱちっと瞬きしたマリモは、笑いだした。
「すごーい、おもしろいね!」
別に面白くはない、やむにやまれぬだけだ。
「まぁ、その前に宿にため込んだ武器を少し売却して、大道具を壊した分の借金を清算したい。だからこのまま一度ゴンゴルノへ行って来る」
「じゃあ、私もゴンゴルノまで一緒に行ってもいい? 最初に馬車で行ったきりだから懐かしいな」
さっき武器を壊したんじゃなかったか、とノエルが言うと10階層までならコレがあるよと拳を突き出す。
「うわ、思い出した! このマリモ、初見で10階踏破したパーティーの子だ。拳ひとつで進んできて、顔をボコボコにぶん殴られたもんで、ヴァンパイアのヤツもう辞めるって大騒ぎになったんだよなぁ……」
マリモの右ストレートに、ボコーン、キュウ、と壁に吹っ飛ばされるピクシーがひたすらに哀れだった。




