第32話 ユニーク武器が欲しい(1)
街中で寝たら罰金ならば、王都の外で野宿すればいいってことだ。野宿なら焚き火をして、鳥でも獲って焼き鳥にして……。フフフ。
食べることを考えていたノエルは、つい良い匂いにさそわれて大通りの酒場前を通りかかっていた。
夕刻の酒場は、テラス席まで満員。どのテーブルも豪勢な料理で溢れかえっていて目の毒だ。
なるべくそちらを見ないように城門の方へ向かっていたローグの足が、ゴンと重い金属の塊を蹴った。
「……っ、すまん」
自分の足が当たったのが、鋼鉄製のウォーハンマーだと気付いて持ち主を振り返る。
「わ、邪魔なところに置いててごめんね……あっ」
すぐに立ち上がった女性は、驚いて目をみはった。
ぶつかった視線の高さはほぼ同じだが、彼女の褐色の肢体の方が、明らかにガタイがいい。
露出の高い軽鎧に身を包んでいるものの、感じるのは色気より戦士のたくましさだ。
「4ツ持ちのノエル……」
明るいブラウンの髪はゆるくウエーブしていて肩までの長さ。
同じく茶の瞳がぱっちりと大きいので、女性というべきか、少女というべきか迷うような愛嬌のある顔をしていた。
「あの……とりあえず、食べる?」
問われてノエルは、自分がテーブルの上の丸鳥のローストを凝視していたことに気付いた。
「い、いや。食べない」
「でも、はらぺこ顔だよ。ここのロースト美味しいよ」
豪快に、むしっとモモ肉をはずして差し出してくる。鼻先に漂う香ばしい誘惑に、ノエルは目を閉じて耐えた。
「金が無い。城の外に出て寝ないと罰金をとられる」
わーぉ、さすが【浪費家】と小さく感嘆の声が上がり、それと同時に閉門を知らせる鐘が鳴り響いた。
「ちなみに、この鐘の後で出入りするなら、時間外通行料取られるよ。知ってた?」
「なにっ……むごっ、モグモグ……」
驚きに目と口を開いたノエルに、サッと肉がくわえさせられた。
座る? 座ろうか。お酒は? じゃあ水もらおうか。顔も拭いとこうか。
ノエルが夢中で鶏肉をムシャムシャする間に、褐色の女性はニコニコと周りを固める。
そして綺麗に骨だけ残して食べ終わった青年が、コップの水を一息に飲むところまで待って、顔の前で両手を合わせた。
「私を、パーティーに入れてくださいっ!」
これまでノエルのギフト【激運】を知って、直接パーティーに勧誘してくる者は数知れず、いつも即答で断っていた。
しかし今回ばかりは、そうもいかない。
何せ彼女の料理を食ってしまった後なのだから「お断りだ、ごちそうさん」というのは非道すぎる。
「見たところあんたも前衛職だと思うが、俺は息を合わせて戦うとか、そういうのが非常に苦手だ。パーティーには向かないからソロでやってる」
「いいの。戦闘は私がするから、後ろで見てて。あなたの【激運】で、どうしても欲しい武器があるの、それが手に入るまででいいから!」
これほど清々しくおまえのギフト狙いだと言ってくる相手も珍しい。
大抵は運命だとか、友情を育てたいとか、胡散臭い理由を掲げて組もうと言ってくるものだと思っていたノエルは、少しこの褐色の女に興味が沸いた。
ついでにもうひと塊、肉をちょうだいした。
「欲しい武器とは、何だ?」
「ユニーク武器が欲しいの!」
ユニーク、とオウム返しにノエルはつぶやく。
ダンジョンの宝箱から出る「ユニーク武器」は、ちょっと変わった独特なものが多い。
反りが大きすぎる曲刃や、やたら小さい強弓など、普通の使い手には「何これ」と投げ捨てられてしまいそうなものばかりだ。
ただ、体がやわらかい踊り子や、小柄だが剛腕のアーチャーが握れば、トリッキーな攻撃を繰り出せる唯一無二の武器となることもあって、武器屋でもそれなりの値で売れたりする。
それでも、レア武器と比較すれば、攻撃力で劣る場合がほとんどだから、わざわざユニーク武器を狙っているという冒険者は珍しい。
「ハンマーのユニーク武器狙いか?」
「ハンマーじゃなくてもいいけど、なるべくブオンって振り回せる系の武器だと嬉しいかな。とにかくね、【壊れない】属性のユニーク武器が欲しいの」
「……それは、珍しいな」
壊れない属性のユニーク武器が珍しいのでは無い、それをわざわざ探している冒険者の方が珍しいのだ。
「あまり性能は良くないと思うが」
激運持ちのノエルは、あらゆる武器種の【壊れない】属性のものを見てきたが、一様になまくらが多い。
しかも、壊れない属性のユニーク武器は、パーティーメンバーの誰か1人専用の【名入り武器】としなければならず、町に持ち帰っても他の人間には扱えないから、売ることができない。ここ最近は宝箱から拾い上げることすらしなくなっていたものだった。
「うん……ちょっとこのハンマー構えてみて」
ためらいがちに立てかけていたハンマーを示されて、柄に手をかける。
全く動かなかったので、フンと力をこめて握りなおすと、わずかに床から持ち上げることはできたが、到底構えるところまでは持ち上げられそうもない。
どういうことだ? と女性を見ると、褐色の手がすっと伸ばされ、片手でウォーハンマーを持ち上げた。
「少し曲がっちゃってるの、分かる?」
「なるほど? 全くわからん」




