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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
2章 管理者とローグ
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第28話 王都ラダトキア(1)

「お疲れ様ですぅ」

 眩しい光に慣れるより前に、ノエルの横から声がかけられた。頭にちょこんと帽子を乗せた女性は、ゴンゴルノのギルドの受付嬢と色違いの制服を着ている。


「あら、初めてのパーティーですね? 全員揃ったら、説明がありますのであちらのカウンターまでお願いします」

 了解した、と目礼して指示通りカウンターに向かおうとすると、大声で呼び止められる。

「すいません! パーティー全員でお願いしますっ!」

 何で他のメンバーがダンジョンから出てくるのを、待ってあげないのよと言わんばかりの嬢の声に、周りの冒険者たちからの視線が集まる。


「……これで、全員だ」

「えっ? まさか、ソロで火のヴァンパイアを討伐したんですか!」

 目立つのが嫌いなローグは、うつむいて銀の前髪で顔を隠しながら「そうだ」とうなずく。そんな空気を全く読まず、「えーっ、うっそぉ、すごーい」と騒ぎ立てるので人だかりができはじめた。


「ちょっと、出入り口で立ち止まらせないでちょうだい。案内はどうしたの?」

 メガネをかけた背の高い女性が、ヒールの音も高く近寄ってくると、最初にノエルに声をかけた受付嬢がピョコンと飛び跳ねた。

「あっ、せんぱぁい! すごいんです、この人ソロで10階踏破ですって」

 報告を受けて、メガネの女性も一瞬驚いた顔をする。しかし、すぐに真顔に戻ってカウンターへ手の先を向けた。

「説明がありますので、城下に出られる前にカウンターまでお願いします」

「了解した」


 ノエルは指示された方向へ歩きながら、あたりを見回す。

 ぐるりと四方を囲むように階段状の観客席があり、この場所はすり鉢状のスタジアムの底部分にあたる。噂に聞いていた通り、闘技場の選手入場口がダンジョンと通じているのだ。


 もちろん現在は、ダンジョンに出入りする冒険者のために、この建物自体がギルド本部となっていて、闘技場としては使用されていない。

 反対側の選手入場口には救護室と書かれた看板がかかっており、元観客席には商人が簡易の露店をひらいて呼び込みをしている。


 そして、元は死闘の場であっただろう闘技場の床の上を埋め尽くすほどの冒険者たち。

 一様に装備品の質も良く、何故か雪中行軍のような装備のパーティーも散見される。

 ギルドの制服を着ている人数もゴンゴルノの比では無い。どこを見ても人、人、人の波に、ノエルは疲れた顔でカウンターにたどり着いた。


「10階層の踏破おめでとうございます。ギルド認識票の提示をお願いします」

 カウンターの受付嬢が、ノエルの後ろに他のメンバーが居ないので、不審そうな顔をすると、別の嬢が素早く耳打ちした。

 えっ、とこっちでも驚きの声が上がったが、4つのギフトが並んだ認識票を確認して少し納得し、称号【ローグ】を見てぼっち状態を深く納得した。


「では、王都ラダトキアからのダンジョン探索について、いくつかご説明をさせていただきます」

 受付嬢は慣れた調子で、手のひらくらいのサイズの木の板をカウンターに乗せる。

「ここラダトキアの入り口からは40階までの探索が可能となります、大変多くの冒険者様が出入りしていますので、迷宮に入る際は必ずこの木札にパーティー名と入室人数を書いて提出してください」


 ゴンゴルノには無かった面倒な手続きにさっそくノエルは顔をしかめる。

 木札は再利用するのでギルドで回収。1回ごとに購入すること。出し忘れて勝手に潜ったら罰金、全滅時の救護室の利用料は今までの3割増し。


「冒険者用の宿と酒場は、この建物を出てすぐの大通り両側とその裏通りにございます。それ以外は王都の市民権のある方しかご利用できませんので悪しからず。だいたいの料金目安はこちらの掲示板をご覧下さい」

 大通りに面した宿は銀貨30枚からなどと平気で書かれており、裏通りにひしめく安宿らしき場所でもゴンゴルノの価格の4倍はする。この場所でやっていける気がしないと、【浪費家】の額に冷たい汗がにじんだ。


「最後に、王の祝日には城前広場にて、子ども向けの観劇会を行います。寄付金をお納めくださるか、エキストラ俳優として参加してくださるかは冒険者にお任せしておりますので、お好きな方をお選び下さい。台本は当日朝には広場に掲示されますので、早目に読み込んで下さいね」

「……寄付金か、俳優か?」

 絶望的な二択に、ついにノエルのこめかみから汗のしずくが流れ落ちる。


「ええ、ラダトキアのギルドを利用する冒険者の義務となっております。寄付金なら、銀貨10枚くらいからでしょうかね。俳優といっても、もちろん主役はちゃんと役者がやります。チョイ役ですから気軽に参加できますよ」

 即座に金は無いだろうと判断されたのは、ノエルのくたびれた装束のせいだろう。見た目を裏切らない程度に財布も軽かった。


「説明は以上となります。何かご質問は?」

 アリマセン、と小さな声で返事をする青年に、受付嬢はコホンと咳払いをした。

「ここまではソロでやってこれたかもしれませんが、10階層以降は到底ムリです。パーティーに加入を希望される際は、窓口にご相談下さいね」

 

『パーティーマッチング料金は銀貨5枚から! あなたも必ず運命の仲間と出会える』という掲示物を横目に、ノエルは肩を落としてトボトボと出口へ向かう。


 大勢の冒険者が、あれが4ツ持ちのノエルか、と冷やかし半分に見送る中「あの! すいませーん通して」と女性の声が上がっていた。

 しかしウォーハンマーをたずさえた女戦士が、ようやく出口にたどり着いた時には、銀髪の青年の姿はもうどこにも無かった。

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