第27話 火のヴァンパイア
「お、来たな。ノエル」
ダンジョンの入り口に現れた銀髪の青年に、管理者は作業の手を止める。
ノエルは部屋の中央まで進むと、スッと一点を見つめた。
「もうカメラ目線にはつっこまねぇぞ」
だいたいどうやってカメラの位置特定してんだよ、とブツクサ言っている。
「今日からソロで迷宮に挑む。よろしく頼む」
律儀なヤツだぜと笑っていると、フオンと音がして管理者室にドアが現れた。
「今日からソロで迷宮に挑む。よろしく頼む」
ドアからノエルがひょこっと顔を出す。
「わざわざ部屋まで来なくても、オイラには迷宮内の会話は全部聞こえてるんだわ!」
「……む、そうか」
ちょっと不満そうにそう言うと、ドアが消える。
「クッソ、さっそくツッコまされちまったぜ。やるな、アイツ」
ノエルは、1階から6階層あたりまでひたすら下層を目指し、地下7階あたりから探索に切り替えていく。
オーガストたちは、現在お金は返せそうもないが、ミラーシールドだけは返したいと申し出てくれた。
しかし、5階層より下に出現するリリスやデビルマジシャンは魔法攻撃が主体になる。
魔法反射効果のあるミラーシールドは、これからの彼らに必要なものだろうと説明して、ノエルは受け取らなかった。
「出たか」
虹色に光る宝箱から、2つ目のミラーシールドを拾いあげて、めぼしい武器をさらう。壁に鍵を突き刺してドアを開くと、管理者はまだ叫んでいるところだった。
「……だって言ってんだろー!」
「何だって?」
キョトンと聞き返したノエルの方へ、管理者が駆け寄ってくる。
「ミラーシールドは超レアドロだって言ってンだろ! 1人でバカスカ出すんじゃねぇよ」
「……すまん?」
どういうことだ、オイラの率の設定が間違ってる? と、管理者が画面の方をむいた隙に、ノエルは納得のいかない顔で、先程ドロップした剣と細身の槍を壁に立てかけて、またすぐに部屋を出ていく。
「ほら見ろ、千回戦闘して……って、なんだよもう行ったのか。ありゃ? 武器忘れていったぞ」
うっかりさんだなぁ、と羽飾りを揺らす管理者は、まだこのノエルという男のことを分かっていない。
残りの階層に用は無いと言わんばかりに、駆け足で踏破していくノエルを止められるモンスターは居ない。
いとも簡単に地下10階のボス部屋手前【キスしないと出られない部屋】まで到達したローグは、壁の鏡の前でミラーシールドを取り出した。
「んはっ! うはははっ! 考えたなぁ、でもそれで認識するかぁ?」
盾の鏡面に映した自分を使って、独り キスシーンを完成させようとする涙ぐましい努力が始まる。
「もうちょい、恥ずかしがらねぇで、ヒョットコ顔でいけっ」
自分で仕掛けておきながら、管理者は無責任な観客になってチャレンジを見守る。入り口からここまでにかかった時間の倍ほどをかけて、ついに画像認識システムがOKを出した。
音も無く上方へ持ち上がっていく扉の前で、耳を真っ赤にしたノエルは珍しく「クソッ」と悪態をついて、ミラーシールドを投げ捨て、奥へ進んでいった。
続く小部屋はセーフポイントになっていて、暖炉が燃えている。ここで充分に休息を取ってからボスに挑んでくれよという管理者の計らいだ。
しかしノエルは立ち止まる事も無く、赤い両開きの扉に手をかけると、一気に押し開けた。
火のヴァンパイアの部屋は、明かりが消えたダンスホールをイメージして作られていた。
赤い絨毯のしきつめられた床、壁には窓が並んでいて、雷雨の夜を演出している。
中央の一人掛けソファに座っていたヴァンパイアは、客人の到来に美しい顔を上げ、血のように赤い唇を開いた。
「ようこそ、冒険者よ……ぐふっ」
ノエルはヴァンパイアの隙に、全力で突っ込み、全力で斬った。
良く言えば電光石火、悪く言えば不意打ち。
口上の間と、変身シーンは武器を抜かない、などというお約束はならず者には通用しない。戦闘終了だ。
「アハハ。ノエルのやつ、マジかー。強えぇなぁ」
さすがの管理者もこれには引き笑いを隠せない。
ダンジョンの設計上、浅い層を担当しているモンスターは、力がセーブされる仕様になってはいるが、一太刀でヴァンパイアを沈める冒険者が現れるとは思ってもみなかった。
どんなレア武器で斬りつけたのか確認しようと、先程のシーンをスロー再生しても、早すぎて手元が判別できない。
「これじゃ、こっちも商売あがったりだ。まいったね」
言いながらも、管理者の声が弾んでいる。彼ほどの実力者がこれより下層で発揮する闘気は、どれほどのものだろうか。魔物の本能がうずいて、ガチリと骨の面が鳴った。
ボス戦のドロップアイテムは固定の金箱で、中身は【灯の鍵】となっている。
これを持つ者は、王都ラダトキアとダンジョンを繋ぐ扉を開くことができるのだが、鍵以外に武器が見当たらないことにノエルはやや不満そうだった。
ボスの間を出ると、ダンジョン入り口と同様、隙間から温かい光が漏れるドアがある部屋になっている。
少し押すと、向こうからたくさんの人の気配と声が聞こえてきて、銀髪の青年はボス部屋を開けるよりよほど慎重に、その扉を開いた。




