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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
2章 管理者とローグ
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第25話 巣立ち(3)

「オーガストは今まで通り、後衛を守ることを最優先にしていくスタイルでいい。無理に攻撃のために動き回らず、向かってきた敵だけを相手にするようにして、頭数を減らすと楽になるはずだ」

 メイもむやみにターゲットを分散させないように、オーガストと同じ敵を狙うといいと言い添える。

 ようやく泣き止んだ3人は、真剣な表情でノエルの助言に耳を傾けていた。

「火力が出ない分、戦闘は長引くが安定しやすい。無茶をせずに1階層ごと自分たちの実力を試すような気持ちで進んで行けば、必ずリリスにも勝てるようになる」


 リリスの単語が出た瞬間、固い表情で口を結んでいたソフィアが青ざめる。メイがそれに気付いて、ノエルに問いかけた。

「死の恐怖に打ち勝つ、強い心を持つにはどうしたらいいの? もしかして、乗り越えられない人もいる?」

 当然自分のことを言われているのだと気付いて、回復術師は強く肩に力を入れた。


「メイは、怪我をするのが怖くは無いのか?」

 ノエルは質問に答えず、質問を返す。

「怖くないわけじゃないけど……戦っているうちに夢中になるから、それほど気にならないかな。ねぇ、オース?」

「うん、オレもそんなに。怪我してるって事自体に気付いてないこともある」

 そうだな、とノエルは震える妹を見つめた。


「2人が気付いていない分の怪我を、ソフィアが1人で『見ている』からな」

 ローグの声に、ひうっとソフィアが息を呑んだ。

 オーガストとメイはしばらくその意味を考え、やがて誰が自分たちも気付かないような速度で癒してくれているのかに思い至って、目を見開いた。


「彼女が全員の傷を見ている。おまえたちは同郷で、結びつきも特別強い。ソフィアが、大事な友人と姉の分まで、3人分傷ついているんだと、思ってみてくれ」


 顔を覆ってしまった妹を、メイは「ごめんね」と抱き寄せた。

「治しても、治しても、もっと強い敵がいるところに行くならキリがないわ。どうして姉さまが迷宮に挑みたがるのか、分からないんです。ダンジョンなんか無ければいいのに!」

 初めてこぼされたソフィアの本音に、オーガストは胸が痛かった。


 メイの強い要望に引っ張られる形で、3人は冒険者になったが、ソフィアをこれ以上ダンジョンに潜らせるのは無理強いでしか無い。

 いや、むしろ一度全滅して町へ戻った時点で、あんなに嫌がっていた回復術師を連れて行ったのが悪かったのだ。


「ねぇ、ソフィア。テペロノの町がモンスターに襲われた時のこと、覚えてる?」

 唐突なメイの問いかけに、ソフィアは涙に濡れた顔を上げる。オーガストの記憶にもそれはおぼろげな話しだった。

「アタシが8つだったから、2人は6歳か。覚えてないかな」

 憂いをたたえた魔法使いは、幼い日をまぶたの裏にうかべる。


 テペロノの町を挟む2本の川にはサハギンが生息していて、時折通過する人を襲うことがあった。

 近年その巣が大きくなりすぎていて、このままでは危険だと王都へ救援要請を送った直後、ついにサハギンが群れをなして陸に上がり、町を襲撃したのだ。


「このままじゃ全滅する、こっちからも打って出るしかないって決まった時にね、町には何にも武器が無かったの。だから、父さんたちはみんなナタとかクワとか粗末な農具をにぎって出かけて行って、そして、ずいぶんたくさんの人が亡くなったわ」

 オーガストの父もその時の怪我で、左目が見えず、片足をひきずって歩く。それでも、友達の父ちゃんやじいさんは、帰ってこなかったのだから、自分の父は幸運な方だったのだ。


 折れた(すき)を握りしめて、門を守ろうと必死だった男衆の前に、ようやく王都のギルドから救援が駆け付けた。

 彼らの鋭い剣は、なますのようにサハギンを切り刻み、彼らの鋼鉄の鎧には、モンスターの爪も歯もまるで通用しない。そのことに、幼いメイは何よりの衝撃を受けた。


「町にもっとお金があれば、装備を買って備えられる。良い武器が手に入れば、きっとあんなにたくさんの人は死ななくて済んだのに、って」

 ゆらめくソフィアの瞳に、メイは囁くように優しく言う。

「それが、最初にダンジョンに挑もうと思ったきっかけ。実際冒険者になって、もっと欲も出て、美味しいものも食べたいし、贅沢な部屋で寝たいけど、最後は全部テペロノの町に持って帰りたいと思ってるよ」

「メイ……」

「姉さま」

 年下の二人からよせられた尊敬の眼差しに、メイは一度深く息を吐いた。


「だから、最初にノエルが山ほどレア武器を抱えてるのを見て、パーティーに入れてもらおうって言い出したのもアタシなの。それなのに強そうな大剣や斧は全部売っちゃうし、残した武器は独り占めして部屋に隠しちゃうから、だんだん不満に思うようになってた。アタシたちも一緒に戦ってるのにって思ってたから」


 う、と返す言葉も無いローグに、魔法使いの少女は首を振りながら言葉を続ける。

「でも離れてみて分かった。全部ノエルが一人で戦ってて、アタシたちは守られて、教えられてただけだったこと。取り分なんて言える立場じゃなかったのに、生活の面倒まで見てもらってたんだってこと」

 今まで見守っていてくれてありがとう、と真摯なまなざしを受け止めて、ノエルは「礼には及ばない」と苦笑した。

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