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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
2章 管理者とローグ
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第24話 巣立ち(2)

 3人の食事の手が止まる頃を見計らって、ノエルは慎重に切り出した。

「長くゴンゴルノに滞在したが、俺も10階に挑もうと思う」

「……1人で?」

 メイが小さな声で尋ねてくる。 

「ああ、ソロで行く。そうしたら王都ラダトキアに拠点を移すことになる」


 話の意図をつかみかねているのか、オーガストは不審そうな顔でノエルを見つめていた。

「王都へ行けば、もうしばらく会うことも無くなるだろう。その前に、伝えておきたいことがある」

 びくっとして肩をこわばらせたオーガストの代わりに、メイが身を乗り出した。

「伝えたいことって、何?」


 とにかくこのメイという少女は気が強く、思ったことを手加減無く言葉にする。先輩だの年上だの、そういうことも一切お構いなしにモノを言う魔法使いに、常にノエルはタジタジだった。

 しかし、全滅後からの立ち直りに、その気の強さと負けん気が存分に生かされた。施療院から出てすぐにダンジョンに挑めるガッツは素晴らしい。

 気が強いというのは、冒険者にとって非常に重要な素養なのだ。


「リリス戦での、序盤の連続詠唱は非常に良かった。双頭の竜の杖から飛ばす火球を、軌道を変えて飛ばしたのは、あれが初めてだったと思うが、感覚を覚えているか?」

 その言葉が、あまりに予想外だったのだろう。オーガストとソフィアはポカンと口をあけた。

 純粋にノエルがこれほど続けてしゃべるのを初めて聞いた、という驚きでもある。


「覚えてる。左右に降ると1発目がかわされても、2発目が当たるのも分かった」

 やはりメイだけが、ノエルの話しに食らいついていく。

「では、次に心がけるべきは立ち位置だな。魔法使いが先陣を切るのは悪手だ。必ずオーガストの後ろに立ち、ターゲットにされている時は、防御優先だ」

「それだと結局負けちゃわない?」


 唯一正気を保っていたメイは、ピンチに駆け付けたノエルがいかにして、3人を同時に守りながら戦い、その命を投げ打ってオーガストとソフィアの命を救ったかを目の当たりにしていた。

 だからこの町を去ろうとする彼が、心から自分たちのためを思って最後のアドバイスを与えてくれていることを、すんなりと受け入れていたのだ。


「確かに魔法使いが前に出て、戦況をひっくり返すこともあるだろう。だがそれに、オーガストが戸惑っているようではダメだ」

 確かに、とメイは唇を噛む。

「もう少し連携が馴染(なじ)んできたら、自然に前に出ていいタイミングが見えてくる。それまでは、常にオーガストから守られやすい位置に立ち、チャンスに確実に魔法を叩き込めるように待ち構えることだ」

「わかった」

 しっかりとメイがうなずく。

「立ち位置については、回復術師も同様だ」

 ソフィアに顔を向けると、彼女はさっと目を逸らしたので、後回しにする。


「……オレは、どう立ち回ったらいい……ですか」

 絞り出したようなオーガストの声に、ノエルは静かに向き直る。

 うつむき加減の顔を真っ赤にして、なかば睨むようになっている少年の胸中は、恥ずかしさと情けなさでグチャグチャだった。


 パーティーを組んでいた頃だって、駆け出しの3人に時折ノエルはアドバイスをくれようとしていたのに、自分たちも簡単にダンジョンの敵に勝てるようになったと思い込んだ少年たちはそれを真面目に聞こうとしなかった。

 何ならノエルの言葉をさえぎって、「お金の使い方も知らない人に言われてもね」と小馬鹿にしていた。


 オーガストを見つめたまま、何も言ってくれないノエルに、少年の瞳から再び涙が溢れる。

「今まで生意気言って、恩知らずで……本当に、ごめんなさい」

 思い切り頭を下げると、テーブルの上にボタボタ涙が落ちて染みを作った。

「それなのに、たすけで……くれて、ありがと、ございます」


「……オーガスト、やめてくれ。俺は、謝られたり泣かれたりするのが苦手だ」

 普段一本調子のノエルの声音に、ずいぶん弱った雰囲気を感じて少年は泣きはらした目を上げる。すると非常に気まずそうな青い瞳がオーガストを見つめていた。


 泣かせたり怒らせたりするくらいなら、自分が(ゆず)ればいい。そしてなるべく他者と関わらずにいればいい。そういう生き方を選んで来た。

 でも、一度は結んだ仲間 (パーティー)の縁だから、最後くらいは、この少年の泣き顔から逃げずに伝えたい。

「だから冒険者の先輩として、言うべき時におまえたちにちゃんと言えなかった。悪いのは俺だ、泣かないでくれ」


「そんなことない、悪いのはアタシだよ。お金も、ミラーシールドも、ノエルがギルドに訴えれば私たちが罰を受ける話だって、受付のお姉さんに聞いたもの」

 メイが立ち上がると、ソフィアもその横へ並ぶ。

「母の形見も……沢山ある指輪の1つを売っただけで、それも私が上等な宿に泊まりたかっただけです。ワガママでした。ごめんなさい」


 姉妹にまで頭を下げられたノエルは、青白い顔をして首を横に振った。

「ほんとにやめてくれ、分かったから顔をあげてくれ。これからの話しをしよう。あれだ、あとは、みんな……頑張れ」

「はいっ、頑張りますっ!」

 そろって返された涙声に、ノエルは「もう嫌だ帰りたい」と胸中で叫びながらも、まだだと足を踏ん張る。今までのどの戦闘より、過酷だと思った。

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