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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
2章 管理者とローグ
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第23話 巣立ち(1)

 ダンジョン出口の扉を開くと、ゴンゴルノは土砂降りの雨だった。クズ石捨て場に直接雨は当たらないが、ざあざあと雨音がやかましいくらいの降りだ。

「ノエルさん! 無事だったんですか?」

 出口近くに、今日はやたらと子どもが多い。ガザがすぐに駆け寄って来て、後ろの子どもに合図すると、そのうち2人がパッと駆けだした。

「この通り、無事だ。……オーガストたちが戻っているか分かるか?」

「ノエルさんが逃がしてくれたんですよね、ちゃんと戻ってます。多分、今もそのへんに……」

 ガザの視線の先を追うと、町に続く階段の上から、ずぶ濡れのオーガストが幽霊でも見たかのような顔でこちらを見ている。


「ダンジョンから戻ってから、ずっとあそこで待ってたんです」

 そうか、とノエルは少し目をすがめる。

「オーガストからノエルさんが、死んで戻るはずだと聞いて、俺たちも待ち構えていたんです。ギルドと施療院には連絡の使いを走らせました。今日はまっすぐ宿に戻って、明日にでもギルマスに詳しく報告していただければと思います」

「いつもすまない。助かる」

 ノエルがスッと頭を下げると、ガザは気さくに笑った。

「ノエルさんは、いつもそう言ってくれるから、今回は俺が担いで施療院まで走りたかったのにな」

 相変わらず強いんだから、と言うガザに、あいまいな表情でうなずいて階段を上る。


 進路を塞ぐように立っていたオーガストは、ノエルが近づくほどにジリジリと後退して、ひさしから滝のように流れる雨を頭から浴びた。

「メイとソフィアは、無事か?」

 自分も容赦無い雨に打たれながら、ノエルが問いかける。少年はブルブル震えながら、黙って首肯した。

「酒場の向かいに宿を取る。話しがあるから、できれば3人で来てくれ」

 なるべく穏やかに伝わるように、言葉を選んだつもりだが、オーガストは死刑宣告を受けたような顔でこくりとうなずくと、ふらふらその場を離れていった。


 ノエルは宿屋の武器庫から火属性付与の槍を持ち出し、これは重すぎるから売るんだと、自分に百回くらい言い聞かせて武器屋に買い取ってもらった。

 その金で、普段は寄り付きもしない一等地の宿の4人部屋を取る。

「やっとウチにも来てくれたんだね、夕飯を部屋で食べられるサービスもあるよ」

 どうだい、と揉み手する宿のおかみに、夕飯を付けて、4人分の宿泊費を先払いさせてもらった。今日ばかりは【浪費家】に振り回されるわけにはいかない。


 やけに広く感じる部屋に、落ち着かない気分でノエルが待ち構えていると、間もなく少年たちは揃って姿を現した。

 一様にびしょ濡れで、憔悴した顔をならべている。目を合わせただけで、メイはぶわっと涙をうかべた。

「……話を聞きに、来ました」


 張りつめたオーガストの声に「俺なら大したことは無かったから、気にするな。以上、解散」と言いたくなるのを、必死で我慢する。

「共用だが、広い風呂がある。先に行ってくるといい」

 えっ、と姉妹が声をあげる。

「今日はちゃんと支払いも済んでいる。温まったら、話をしよう」

 ありがとうございます、と戸惑いながら部屋を出た足音が、廊下を進むほどにどんどん早くなるのを聞いて、ノエルは少し頬をゆるめた。


 風呂を済ませた3人は、湯上りにぽっと血色がいい。少し生気が戻ったように見えるだけでも、ノエルの精神衛生上、とてもよろしかった。

 いざ、と口火を切ろうとした時、ノックの音がして夕飯が運び込まれはじめる。高級宿に恥じない量と質の料理は、部屋のテーブルに乗り切らず、補助テーブルにまで持ち込んで4人分が並べられた。

 どう見ても自分たちの分まであることに気付いた3人は、交互に顔を見合わせながらも、チラチラとテーブルの上のご馳走に目が奪われるのを隠せない。


「今日はちゃんと支払いも済んでいる。食べたら、話をしよう」

 今度はさすがに、誰も席につかない。仕方なくノエルは、厚い肉をナイフで切り分けて、ガブリと噛みついた。

「……とても美味い。が、俺一人では食べきれない。手伝ってくれ」

 3人から穴があくほど見つめられていては、味など全く分からない。それでも青年はそう言って、黙々と食事を続ける。

 最初にメイが席につき、つられるようにソフィアが座り、二人がそっとスープに口をつけた後で、やっとオーガストが座った。


 カチャカチャとスプーンが食器に当たる音に、次第に嗚咽が混じりはじめる。

「ふ……うぅ……。美味しいよぉ……」

「あったかい、です……」

「…………」

 サラダの器に、ポタポタとオーガストの涙が落ちる。


 彼らは、もう何も言わなくても理解したのではないかとノエルは思った。

 だったら「腹がいっぱいになったら、解散、あとは頑張れよ」でいいのでは無いか。何でもいいからこの葬式のような空気から、逃げ出したい。

 食べ慣れない贅沢な料理に、重くなった胃をさすると、首から下げたギルドの認識票と、管理者からもらった鍵が手に触れた。

 

 良くない。それじゃあ良くなかったから、この子たちは泣いているのだ。


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