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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
1章 追放されし者
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第21話 詫び鍵(1)

 カタカタカタ、カチ、カチ。薄暗い部屋で派手な羽根飾りがピョコピョコ揺れる。

「んー、これじゃドロップ渋いかなぁ」

 カタカタカタ。

 ブツブツ言いながら、ダンジョン内を映すモニターを見て、手元のマイクをオンにした。

「14階F部屋、聞こえますか。お客さん下の階に降りたので、一旦休憩でーす」

 ゾンビドッグたちが、ウィースと返事をしたのと同時に、管理者に誰かが問いかけた。


「これは10階以下のダンジョンか? ずいぶん様子が違うな」

「そうそう、目指すは『静寂の丘』と超有名『生物災害』を足して2で割ったみたいな世界観を……って、のわーっ!」

 管理者の座っていた椅子には車輪がついていたらしく、ピューと横移動していく。

 ベッドを貸してやっていたはずの、銀髪のローグが突然背後から話しかけてきたのだ。びっくりするにも程がある


「起きたんなら『オハヨウゴザイマス』とか、『眠って……いたのか』とか、何かリアクションしろよ!」

 ローブから突き出た骨の面の口が動くのを見て、ノエルは、ほうと息を吐く。

「……しゃべる魔物か? 驚いた」

「じゃあ、もっと心込めて驚け!」

 む、といつも通り青年は一文字に口を結んだ。これでも彼としては最大級に驚いているのだ。


 見渡した部屋は質素な石造りで、かなり広い。そう感じるのは、四角く光る映像が流れている壁側にだけ、見たことのない家具が密集していて、残りはがらんと何も置かれていないせいかもしれない。


「俺は死んだと思ったんだが……ここは何階だ?」

 ノエルの問いに、管理者はでっかくため息をついた。

「まぁ、説明すっからさ。そこに座れよ」

 指した先には、精巧な柄の敷物が敷かれ、その真ん中に妙に低いテーブルがある。


 管理者がティーポットに茶葉を入れ、小さな筒の上をぽちっとすると、お湯が流れ落ちてきた。なんという不思議な仕掛けだろうか。

「面倒だろうが、靴は脱いだ方がくつろげるぜ。ほらよ、座布団」

 立ったままのノエルは、紫の布地に金糸の縫い取りがある上等なクッションを受け取ると、ためらいながら靴を脱いで敷物に上がる。絨毯(じゅうたん)は足が沈み込むような、繊細な毛足だった。


粗茶(そちゃ)ですが、と言いたいとこだが名産の新茶だぜ。味わって飲みな」

 薄い白磁の器に注がれた飲み物は、翡翠色をしていて、キュアポーションでなければ毒薬だ。目の前の骨の面は、ずずっと美味しそうにすすっているが、人間が飲めるものなのかは……。


「ふむ、美味いな。だが、少し量が足りない」

 馥郁(ふくいく)たる味わいを楽しんだとは思えない様子で、茶を一気飲みしたノエルは口をぬぐってカラの器を差し出す。

「おまえさんのそういう図太いトコ、好きだぜぇ。だがな、座布団は尻の下に敷くもんだ」


 あぐらをかいたひざの上に、座布団を大事に抱えていたノエルにアドバイスすると、それには難色を示した。

「こんな上等な織物に座るなんてとんでもない。ひざの上に置くと、暖かくていい」

 そういや、コタツの季節よなぁと訳の分からないことを独り言ちて、二煎目の茶を注いだ管理者はようやく事情説明を始めた。


「オイラは、この迷宮(ダンジョン)の管理者だ。今回はオマエさんの要望にこたえて、特例でオーガスト隊のダンジョンに、ノエルをゲスト参加させてた」

 ハッとした後で、すぐに礼をした青年を、やはり管理者は好ましく思う。

「ダンジョン内で、あんたら外の人間が同士討ちすることは、全然望んで無い。だから、迷宮内ではそういうことができない仕組み(ルール)にしてた」

 ここまでオッケー? と問われて、ノエルはうなずく。


「ゲスト参加自体は、前例が無いわけじゃないんだが、魅了状態の冒険者の前に、別パーティーの冒険者がかちあうってのはお初でさぁ。こんな挙動になると思ってなかった。正直、スマン」

 長いローブの袖を合わせて、管理者が深く頭を下げると、ノエルの鼻先を派手な羽根飾りがくすぐった。


「いや、俺が無理を言って入れてもらって、うまくやれなかっただけだ。蘇生してくれたんだろう? 感謝する」

 自嘲気味に少しだけ口の端を上げたローグは、やはり管理者を責めない。

 いつも、誰のことも、ノエルは責めたりしない。しかしそれは、誰にも期待していないからなのだと気付いた者だけが、彼の深い孤独に歯がゆさを覚える。


「オイラが行った時、まだ生きてたから蘇生はしてねぇ。回復しただけだよ」

 すでに意識が無かったノエルには、どっちも変わらんだろうけどよ、と管理者は肩をすくめたが、青年は大きく首を横に振った。

「いや違う。俺が『死んだ』のと『怪我した』のでは、だいぶ違うと思う」

 ノエルがほうっと安堵したような息を吐いたのは、あの向こう見ずな少年たちを思ってのことだ。

「……お人よしが過ぎるぜ」

 ギルドマスターに続いて、管理者もまた、このひどくアンバランスな青年に心を寄せてしまっていた。

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