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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
1章 追放されし者
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第20話 想定外のエラー(3)

 床を跳ぶように駆けていたノエルの足が、不自然に急停止し、剣を抜いて後ろから振り下ろされた一撃を受け止めた。

 ガギンと鳴り響いた音に、メイは自分の目を疑う。

「オース! 何してんのよ、ノエルよ!」

 目を見開いたまま、剣を押し返されたオーガストは後ろへよろける。

 ノエルは、一瞬迷うように部屋を見渡したが、結局当初の目的通りピクシーからの攻撃を受けているソフィアの元へ走った。


「ちょ、ちょっと待って。何でオーガストがノエルに襲い掛かる?」

 この事態に、最も慌てふためいたのは管理者だった。ノエルたちの部屋以外の、全ての監視用の映像が消え、代わりに黒い画面に半角文字の並ぶ枠が現れる。

「冒険者同士のダメージはオフにしてるはずだぜ、ほら、ターゲットにも選べないようになってるし」

 ガチャガチャとボタンを叩きながら、再びノエルに向かって突進していくオーガストを見つめる。


「何でだよ! パーティー内のPKはできない、あっ……ぱーてぃー、じゃねぇのか」

 同一ダンジョン内にパーティー外の人間を入れることを、特例で許した。それが想定外のエラーを吐いてしまったのだ。


 魅了の状態異常になると、魔物側の味方となり、冒険者に全力のヘイトを向けるようになる。ただ、その対象にパーティーメンバーは含まれないというルールがあるから、冒険者はターゲットを失って立ち尽くす。

 だが、そこにパーティーメンバー以外の冒険者が現れたらどうなるかは、見ての通り。

 理性をとっぱらった狂戦士(バーサーカー)が、「敵」と認識して襲い掛かる。


 ノエルの【俊敏】に迫るほど、オーガストの追跡が早い。

 ただならぬ様子の少年が、メイやソフィアへ攻撃する可能性も視野に入れて動くノエルに対して、ただオーガストは全力でエモノを追うだけでいいからだ。

 一旦進路を逸らしても、オーガストがメイの方へは見向きもしなかったことを確認してから、ノエルはソフィアの元へ跳躍した。

「ひ、あ、ははは」

 焦点の合わない目で笑う回復術師は、来い、と伸ばしたノエルの腕に気付かない。その間に、背後まで来てしまったオーガストは、全力で打ちかかってくる。


「やべえ、やべぇ。これ、パーティーメンバーも巻き込むぞ」

 あわあわと、画面の前を右往左往する管理者の言う通り、ノエルのすぐ後ろにいる大切な仲間のことまで眼中に無く、オーガストは無心で剣撃をくりだす。

「ソフィア! こっちに来なさい、ノエルの邪魔になってるわ!」

 メイの必死の声にも、ソフィアが立ち上がる気配は無いのに、時々ぐにゃりと体を曲げて笑ったりするから予測が付かない。

 受け流す先の軌道まで制御しなければならないノエルは、さすがに眉を動かした。

「む……」

 足元のピクシーは、爪でソフィアの頬に傷をつけようとしている。


「オーガスト、すまん」

 小さく囁いて、ノエルは素早く少年の首の後ろへ手刀を叩き込んでから、ピクシーの息の根を止める。

「うっ……」

 うめいてグラリと体勢を崩したオーガストにも、もちろんパーティー外のノエルからの攻撃は通った。

「ソフィア、しっかりしろ。立てるか」

 ひざをついて少女の顔を覗き込んだノエルは、2つの殺気を同時に感じて目を見開いた。


 1つは自分の背後から、全体重を乗せて突き出された剣。

 オーガストを気絶させるだけのダメージを入れたつもりの手刀が、幻陽の鎧の効果で、半分しか通っていなかったのは誤算。

 いま1つは、「しね、しね、リリス」と暗い瞳でつぶやく少女から。毒蛇の杖の毒霧が溢れだす。


 「避ける」という選択肢は、ノエルの身体能力ならば実現可能で、恩知らずの少年たちを見返りもなく守るようなお人よしには、取りえない行動だった。

 ノエルが避ければ、オーガストの剣がソフィアを貫き、ソフィアの毒をオーガストが浴びる。二人が倒れれば、メイが単独で迷宮を脱出するのは不可能だ。


 背中から貫かれた切っ先が、それ以上前に飛び出さないように抑え、毒を浴びたならず者(ローグ)は、この刹那に果たしてそこまで計算しただろうか。


 無力化したノエルに、再びオーガストは動きを止め、ソフィアは細く笑い続ける。

「ノエル!」

 駆け寄ってきた魔法使いは、鬱陶(うっとう)しい前髪にうずもれている青い目を探した。

「3人で……地上に、戻れ」

 かすれた声で、青年は囁く。

「アタシたちを助けてくれたのに、置いていけるわけないでしょう!」

「いい、迷宮の死は、死では無い。また、上で……会おう」



 

 オーガストが自我を取り戻した時、メイが声をあげて泣いていて、ソフィアは傷だらけで笑っていた。

 そして何故か、かつて追放したリーダーが床で動かなくなっている。

 その背中に突き立った命の剣で、少年の体力は満タンに回復していた。


「もう、帰ろう、帰ろうよぉ」

 見たこともないほど泣きじゃくるメイの肩を抱き、(わら)い疲れて眠ったソフィアを背負う。

 ひどく重い足取りで上った地下4階の降り口には、見覚えの無いレア宝箱が落ちていたから、ぼんやりしたまま中身を根こそぎ荷袋に詰め込んだ。


 何か、とりかえしのつかないことを起こしてしまった。だけどそれが何で、どういうことなのか、オーガストに説明をしてくれる者は、ここには居ない。

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