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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
1章 追放されし者
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第2話 小さな追放劇(2)

 オーガスト一行は、鉄の町ゴンゴルノに繋がる扉を開くと、眩しい光に思わず目を覆った。

 地面から掘り下げられたこのクズ石捨て場でも、ダンジョンの薄暗がりから出ればかなり明るいのだ。


「よおオーガスト、戻ったのか。成果はどうだ? ノエルさん、こいつら足引っ張りませんでした?」

 手にしていたクズ石をその場に放り投げて、細身の少年が駆け寄ってくる。

 結局ダンジョン出口までノエルに付き添ってもらい、最後には地下1階層のモンスターまで蹴散らしてもらったオーガストは、やつ当たりするように少年に言った。

「ガザ。ノエルはもう、リーダーじゃない。オレがパーティーから追放した」

「は? おまえら最初の探索でボロクソになって、ノエルさんに弟子入りしたんだろ。追放って……」

 ガザと呼ばれた少年が戸惑うようにノエルを見上げると、銀髪の青年はすでに荷物を背負いなおして、地上への階段を登ろうとしているところだった。


 ふてくされて腕組みしていたオーガストは、メイに「お金」と耳元で囁かれ、しぶしぶノエルの後ろを歩き始める。

「なぁオーガスト考え直せよ。つーか、今なら謝ればワンチャンあるって、おまえらだけでこの先どうやってダンジョンに潜るんだよ」

 一緒に歩きながら、ガザが必死に説得する。


 15歳になって教会で能力(ギフト)をもらうなり、幼馴染の姉妹を伴ってダンジョンに飛び込んだ少年たちは、一階層でボコボコにやられて這うように迷宮から出てきた。

 ちょうどそこに、山ほどの戦利品を抱えたノエルが鉢合わせ、立てなくなったオーガストに施療院まで肩を貸してやり、そのまま懐かれて押しかけ弟子のような状態でパーティーを組むことになったのだ。

 その成り行きを良く知っているガザには、勇者たちがどの口で「追放した」などと言ってのけるのか信じられない気持ちなのである。


「もう最初の頃のオレたちじゃないよ。装備も揃ったし、ダンジョンにもかなり詳しくなった。これ以上あんな横暴なリーダーについてく必要は無いんだ」

 確かにオーガストたちは、経験に見合わないほどの超上級装備に身を固めていた。モンスターを倒すたびに、輝く宝箱が現れて、次々と装備品が更新されてきたからだ。

 毎度ノエルは限界までレア武器を荷袋に詰め込み、それでも持ちきれない分はダンジョンに置き去りにするハメになる。

 迷宮はどういう仕組みなのか、入り口から入るたびに部屋も通路も変わってしまうから、一度置いてきてしまったアイテムは二度と取りに戻れない。無表情なノエルが、くやしそうな顔をするのは、武器を持ちきれなくなった時だけだった。


「やぁ、ノエルさん! お戻りでしたか」

 ノエルが武器屋の店先に姿を現すと、奥から見習いも、鍛冶師も仕事をほっぽって駆け寄ってくる。

「これを、頼む」

 ガシャガシャと無造作に積まれていくレア武器を前に、武器屋の親父は目を輝かせながらソロバンをはじき始める。


「このショートソードはどこがお気に召さないんですか?」

「鞘が少しゆるい。走ると音がする」

「この大鎌は? 地属性付与なんて激レアじゃないですか」

「握りが少し細い。これでは力が逃げる」

 売り払われる武器を、総出で聞き取って詳細なメモを残す。全てが済むと武器屋の主人は金貨の入った袋をカウンターに置いた。

「毎度ありがとうございます。今後もごひいきに!」


 その金貨袋を、横からさっとオーガストがひったくっても、ノエルが彼らの面倒を見ていることは皆知っていたので、誰も咎めない。ノエルもゆったりと振り返っただけだった。

「これは、オレたちの分だ」

 胸の前で袋を握りしめて言ったオーガストに、さすがにガザが肩をつかむ。

「馬鹿、もうパーティーは解散したって言うなら、ダンジョンから持ち帰った物はその人のモンだろ」

「この宝箱が出た時の戦闘は、オレたちも参加してた」

 オーガストは言ってから、少しバツが悪そうに目を逸らした。自分が空振りを繰り返したあげく、すっころんで、お姫様抱っこでノエルに運んでもらったあの一戦だなと思い出したからだ。


「いいじゃない、ノエルはその残りを全部独り占めするつもりなんでしょ?」

 メイはあまり減ったように見えないノエルの荷袋をにらんで、尋ねる。

「……半分、とも言えない分け前です」

 ソフィアも小さな声で言い添えた。

 ノエルは大量の武器を抱えたまま、ふむ、とうなずいて、やはりいつも通り無表情に言った。

「わかった」

「じゃあ。もうついて来ないでよ」


 これで1カ月近く寝食を共にしたパーティーは本当に解散だった。商店の集まる中央市場から、オーガストたちはギルドのある西の方へ、ノエルは宿のある東の方へそれぞれ歩き出す。

「ああぁ、オーガストのやつ……もったいないなぁ」

 切れてしまった縁の真ん中に取り残されたガザは、3人の小さくなる背中を、哀れんだ目で見送った。

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