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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
1章 追放されし者
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第19話 想定外のエラー(2)

 不審な音がした扉の前に立ち、オーガストは魔法使いと回復術師を見つめた。

「この先は、強敵がいるかもしれない。もしもリリスがいたら、集中……」

 リーダーの作戦説明を、メイの手のひらが止める。リリスと聞いただけで、ソフィアは見て分かるほどひざが震えていた。


「ごちゃごちゃ考えても仕方ないわ、全力でいく。それだけよ」

 キッパリとそう言うと、魔法使いが先頭に立って部屋の扉を開く。そこには、あの全滅の時と同じくピクシー3体と、リリスが待ち構えていた。

 部屋に飛び込むなり呪文の詠唱を始めたメイに、あわててオーガストがカバーに入り、ソフィアはすでに泣きそうな顔でおろおろしている。

 そこに、4人目の銀髪の青年は、すっと音も無く入り込んだ。メンバーはもちろん、モンスターさえも気付いていない。


 全力で行くと啖呵(たんか)を切っただけのことはあって、メイの連続詠唱は鬼気迫る速度でピクシーを追い詰める。双頭の竜の杖の効果で、同時に打てる火球は二つ。それを乱発することで、早々に一匹のピクシーを(ほふ)った。

 これにオーガストの士気も上がり、後衛の二人を上手にかばいながら、目の前に来たピクシーを一体切り捨てる。

「よし、いけるぞ!」


 声を出した勇者の前に、ふわ、とリリスが着地する。尾の攻撃の間合い内まで造作もなく詰められて、オーガストは一気に飛び退()いた。

「……っ! 下がって」

 いける、と思ったのも束の間、圧倒的なリリスのプレッシャーの前に、やっぱりいけないと少年は悟る。


「オース、退()いたら負けよ。炎よ、収束して敵を打て!」

 ボッと、真横をかすめて飛んだ火球を、リリスは軽く避ける。

 そして、いつか見たようにオーガストの目の前で指先をクルクルと回しはじめた。紫色のルージュがひかれた口元が、何か言っているのに、視線が釘付けになる。


 何? 何て言ってる? お、あ、か……? ジンと痛み始めた頭に、直接吹き込まれるような官能的な声が響いた。

「おばかさん」


 後衛の二人は、オーガストが剣を握ったままクルリと自分たちの方を向いたので、ひどく驚いた。

「な……何?」

 見慣れた少年の瞳が、光を失ったまま見開かれている異常さに、メイは声を上ずらせる。

「これは……リリスの魅了です! 姉さま、逃げましょう」

 姉の腕を引いて、一目散に部屋を飛び出そうとしたソフィアは、既にピクシーが退路に立ちふさがっているのを見て、歯の根が合わないほど震えはじめた。


「あーあ、再び絶体絶命かぁ」

 モニターで様子を見ていた管理者は、腕組みをしてぼやいた。

 リリスの魅了は、アクセサリや防具で防ぐことができるが、もちろん今の彼らにその耐性は無い。

 この後に控えているボス戦に向けての、ヒント的な要素でもあるのだが、今はそれどころでは無いだろう。


 ダンジョンの設計上、冒険者を同士討ちさせることには意味が無いから、魅了状態になったメンバーは、状態異常回復を受けるか戦闘が終わるまで、ぬぼっとその場に立ち尽くすだけになってしまう。

 それでも戦力的にはマイナスだし、今まで共に戦っていた仲間が魂を抜かれたような顔でその場に突っ立っている様子は、精神的にクるものがある。


 案の定、さっきまで好戦的だった魔法使いは、妹と共に青い顔で壁際に追い詰められはじめていた。

 管理者は、画面越しにも視認できないノエルに向かって、さてどうする? と挑戦的に笑う。


 ピクシーの繰り出す爪攻撃に、メイの頬や腕に細かい傷が走る。

「癒しよ! 癒しよぉ!」

 後ろでソフィアが涙声で必死に詠唱を続けるが、標的にされてからの魔法使いの詠唱は精度を欠く。さっきは簡単に当たったピクシーにさえ、火球はうまく飛んでいかない。

 そのうち、ゆったりとリリスが二人に接近してくると、回復術師はヒイィとひきつった声をあげた。


「絶対……負けないんだから、オース! 目を覚ましてよっ!」

 かつての死の恐怖を乗り越えて、メイは呪文を詠唱し続け、またいたぶるように振り上げたリリスの尾を、杖で必死に受け流した。

 妹がずっと「癒しよ」とかすれた声で叫んでいるのに、全く回復効果が無い。

「ソフィア! 魔力切れなら、ポーションを飲んでっ!」

「あ、あああ。癒しよぉ……」


 目の前のリリスが、同情したように瞳を陰らせたように錯覚した。

 その直後、魔物の指先にどす黒い魔力球が収束しているのが見えて、メイは再び訪れる死の予感に身をこわばらせる。

「……またダメなの? 悔しいっ……!」

 ぎゅっと目を閉じて、その瞬間が訪れるのを覚悟した魔法使いは、前髪を揺らした風に肩を震わせる。

 そして、しばらくしても自分に何の衝撃も無い事に、おそるおそる目を開いた。


 目の前にいたはずのリリスが、未だボンヤリと立っているオーガストより、さらに向こうの床で倒れている。

「……なん、で、あんたがここに」


 少し猫背なシルエットを包む黒衣と、顔にかかる長い銀糸の前髪。

 追放したはずの元リーダーは、かつてと同じく目にもとまらぬ速さでリリスを仕留め終わっていた。


 ゆら、と顔を上げたノエルが床を蹴ったので、メイも慌てて最後のピクシーを探す。杖を握りしめて尻もちをついているソフィアに襲い掛からんとしているところだった。

 しかしノエルほどの使い手ならば、ピクシー1匹くらい一瞬で(ほふ)れる。


 ピクシー1匹、ならば。

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