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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
1章 追放されし者
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第18話 想定外のエラー(1)

 いつも通りオーガスト隊の後ろを、静かについて歩いていたノエルは、ここ数日にないほど足早な一団の動きに眉をしかめる。明らかに探索より、下層へ潜ることを優先している様子だったからだ。


 4階から5階に降りる手前の部屋では、2匹のピクシーを倒しきれないまま階段を駆け下りていった。これでは5階から撤退してきてすぐ、この場でピクシーに迎撃される。今、倒せないものを、もっと追い詰められた状態で楽に討伐できるはずがない。

 ノエルがため息交じりにピクシーを倒すと、虹色の宝箱がドロップしたが、これはあくまでオーガストたちのためのダンジョンだ。蓋を開けることも無く、先を急ぐ。


 地下5階に降りると、通路は3つの部屋に分岐していた。

 向かって左の部屋で、戦闘が行われているが今のところ総崩れの気配は無いと判断して、ノエルは柱の影で身を潜める。

 しばらくすると、疲れ切った様子で3人が三叉路に姿を現した。

 

 右の部屋と正面の部屋のどちらに進むべきか相談している勇者と魔法使いに、ソフィアは細い声で言う。

「あの……もう5階です。勝ったじゃありませんか、今日はもう戻りましょう」

「いい加減にして。ここで戻ってどうなるっていうの? ソフィアが無駄打ちしてる回復のせいで、またポーション代がかかるのよ。前はちゃんと見極めて打てたし、杖の毒霧で補佐してくれたのに、どうしてできなくなったの?」

 詰め寄ったメイに、おろおろとソフィアはうつむく。


「だって、姉さまが怪我をするのが怖くて……」

「怪我より、またあの狭くてうるさい部屋で、お腹を空かせて寝るほうが怖いわよ! 何のために冒険者になったの? しっかりしてよ!」

「まあまあ……落ち着いて。ここまで順調に来てるよ、一度休んで次こそレアドロップを狙おう。虹色の箱さえ出れば一気にお金も稼げるよ」

 いつものごとくオーガストは二人の間に割って入る。


 そろそろセーフポイントがあってもいい頃だよと、オーガストが正面の部屋の扉に向かったので、ノエルは焦る。

 その向こうには、敵の気配。一旦休みたいなら、右の部屋に進むべきだ。ソフィアの疲れ具合から見るに、ここでの連続戦闘は、絶対に避けたほうがいい。

「……」

 少し迷った末にマキビシを取り出し、正面の扉のノブを狙って投げる。バチッと硬質な音がして、オーガストとメイは足をとめた。


「もしかして、この先の部屋、モンスターがいるんじゃない?」

「そうだね、向こうの部屋を先に開けよう」

 進行方向を変えた二人に、ホッと息を吐いてノエルは再び柱の影に身を預ける。こっちはセーフポイントだと喜ぶ少年たちに、マキビシを回収しながら、やれやれとこちらも一旦休憩だ。


 暖炉の上で、姉妹が干し肉を水で戻したスープを作る。その間にオーガストは床に毛皮の敷物を敷いて、休憩できるよう整えた。

 出来上がったスープは、肉の量が少なくて味が薄いけど、これがないと固いパンが飲み込めない。あまり食が進まない様子のソフィアに、勇者はしきりに話しかけて場を和ませようとした。


「敷物があっても、やっぱり石の上だわ。まぁ、最近固いベッドでしか寝てないからどっちもたいして変わらないけど」

 背中が痛い、とぼやくメイの隣に寝転んだソフィアが口をとがらせる。

「……どんなに固いベッドでも、魔物の出る部屋のすぐ横よりマシです」

 あんたね、とまたヒートアップしそうな姉を、オーガストはウーンと伸びをしながら遮った。

「どうせ床で寝るなら、無料のダンジョンの寝心地も悪くないよ。でも稼いだら、またお風呂のある部屋で、フカフカのベッドで眠ろう」

 ソフィアにそう言い聞かせると、彼女は「お風呂」と一瞬だけ目を輝かせた。


 ここまでの戦利品は、3階の戦闘でドロップしたありふれた片手剣と、青銅製の盾が1つ。酒場で聞いた話では、5階あたりから良質な武器防具が出始める。

 その分、魔物も強くなるらしいからハイリスクハイリターンだが、どうにかあの変な音がした部屋で勝利をおさめたい。


 何よりリリスを倒して、ソフィアのトラウマ級のおびえを取り除かなければ、10階層のボスに挑むなんて夢物語。

 今日もすでに残りのマジックポーションは2本。大半を回復術師が飲んでいるのは、魔物が姉の方を向いただけで、回復魔法を飛ばしてしまうからだ。

 だけどそれも、この層から帰還できれば克服できるはずだ。希望を燃やして、勇者はひと時の休息のために目を閉じた。


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