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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
1章 追放されし者
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第17話 クズ石拾いの子どもたち(2)

 商店街の路地裏まで入り込んだガザは、ようやく足を止めるとオーガストを振り返った。

「まず、一発殴らせろ」

「えっ?」

 驚いている間に、その頬に重い拳がゴッと当たって、油断していたオーガストはよろけて横の建物の壁に手をつく。

 実際のダメージは幻陽の鎧の効果で半減していて、たいしたことは無いが、ガザに殴られたというショックで、しばらくその姿勢から動けないでいた。


「何するのよ!」

 メイが目を吊り上げて叫ぶと、ガザも怒気を含んだ声で怒鳴り返す。

「こっちのセリフだ、ウチのチビたちに何するんだよ! お前らをメシに誘っただけだろうが!」

「クズ石拾いの子どもたちに、お肉を食べるほどのお金があるとは思えなかったのです」

 普段温和なガザの剣幕に、ソフィアも戸惑いながら反論する。


「あんたらが俺たちを下に見てたのは気付いてたけど、まさかここまでとはな。オーガスト、おまえもそう思ったから、チビたちをギルドに突き出そうとしたんだよなぁ?」

 返事ができないでいるのを、肯定と取ったようだ。ガザは悲しそうに一度目を伏せた。

「あのな、俺たちは浮浪児じゃないんだ。ゴンゴルノ鉱山協同組合のれっきとした正社員なんだよ」

 すぐにその言葉の意味を理解できなかったオーガストたちに、ガザは説明を重ねる。

「どの子も仕事が終わったら、丘の上の屋敷に戻って、母ちゃんや妹にたらふく高級肉を食わせてやれるくらいの給料をもらってる」


「バカ言わないで……あんな石ころ拾いで、どうしてそんなに稼げるって言うのよ」

 震えるメイの声に、ガザの口の端が馬鹿にしたように上がる。

「その石ころの中に、宝石が眠っているからさ。坑道に入るのは危険なチビたちにも安全な仕事だし、時々大当てすると、大人の給料を超える時もあるんだぜ」

「……だけど、いつも宝石が出るわけではありませんよね? その時には、お給料は無いのでは?」

 毎度一等先に、ダンジョンから転がり出てくるソフィアの姿を見ていたガザは、こちらにも少し軽蔑したような眼差しを投げた。

「違うね。クズ石拾いのほうが副業で、大事な本業があるから常に基本給は一定だ。何の仕事だと思う?」

 まっすぐに視線を向けられても、オーガスト隊に答えられる者は居ない。


「あんたら冒険者が、死に戻りした時、一番先に見つけて施療院とギルドに通報する仕事さ」

 3人は同時に息をのむ。全滅したパーティーは、瀕死の状態でダンジョン前に置かれる。それを、誰が見つけて、施療院まで運んでくれるのか考えたことが無かったからだ。


 ダンジョンが発見されてからすぐは、我先にと無茶な潜り方をして、連日死に戻りする冒険者が絶えず、ギルドはクズ石捨て場を封鎖して常時監視下に置いていた。

 だが一通り、迷宮のルールが冒険者たちの間で理解されると、セーフポイントを上手に活用したり、モンスターの再沸きを判断しながら帰路を考えるようになって、全滅するパーティーはぐっと減る。

 頃合いを見た鉱山組合から、クズ石捨て場の利用再開の打診と共に、若手による現場監視をもちかけたのだ。


「給料は、鉱山組合とギルドから半分ずつ出てる。だから、言ってみればオーガストたちもお客様だ。多少馬鹿にされようが、見下してようが給料のウチだよ。でもさ、俺、おまえのことは友達だって思っていたから……」

 うつむいたガザの肩に、オーガストが手を伸ばすと、すぐさま振り払われた。

「自分たちの探索が上手くいかないからって、チビたちに当たるなんて最低だ。見損なったよ」

「そんな……ガザ、違うよ」


 いいや、違わないねと強くガザは言い返す。

「次、同じことをしてみろ。ギルドに民への暴行だと報告して、冒険者資格をはく奪してもらうからな」

 その言葉に、オーガストは再びのばしかけていた手をひっこめた。冒険者から町人への手出しはご法度で、すぐさまギルドが動き、ダンジョンに潜るための資格は簡単に取り消される。

 黙った3人をぐるりと見回して、ガザは忌々しそうに積まれていた木箱を蹴ると、路地から去って行った。



 

 重苦しい空気のまま、宿の部屋に戻ると、メイが苛立つ口調で言った。

「ねぇ、明日は前に全滅した5階を目指しましょう。いつまでも2、3階をうろついたって、この生活を抜け出せないわ」

「5階! そんなの、そんなの無理です。あのリリスとかいう悪魔がまた出たら……」

 すぐにソフィアが反対するが、メイはオーガストの方を見つめる。

「オースはどう? このままでいいの?」

「確かにこのままじゃジリ貧なのは分かってるよ。でも、リリスの攻略法もまだ……」

「そうじゃなくて!」

 魔法使いが出した大声に、隣の食堂からどっと笑いが返ってきた。


「そうじゃなくて、オースは……くやしくないの?」

 メイがひそめた声はかすれて、泣きそうに響いた。

「あんな風にガザに言われて、みじめな生活をして、くやしくないの?」

 まっすぐに問われてオーガストはようやく、ここ数日自分の胸にくすぶっていたのが「みじめで、くやしい」という思いだと自覚した。

 ここで勇気を振り絞らなければ、もう、深層に潜る力は沸いてこないかもしれない。

「うん。明日は、5階を目指そう」

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