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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
1章 追放されし者
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第16話 クズ石拾いの子どもたち(1)

 古宿の食堂横の部屋は、その日の客層次第で深夜までかなりやかましい上に、食べ物と酒の匂いがダイレクトに流れ込んでくる。

 もちろん宿に、食事つきの料金は払えないので、匂いだけでさんざん味わって、本当の料理は食べたことが無かった。


 元は食糧庫だったのではないかというような、妙に細長く窓の無い部屋に、ベッドが1つ。そのベッドも姉妹が並ぶと寝返りは難しいほど狭く、どこか一本の脚が短いのかガタガタとうるさい。

 ベッドと壁の隙間は、横向きにならないと通れないほどで、その細い場所でオーガストは毛皮の敷物にくるまって眠る。

 そこがオーガスト隊の定宿になっていた。一度目の全滅から、日々努力しているはずが、どうやっても生活は上向かない。


 その理由を、リーダーのオーガストは3人の気持ちがバラバラすぎるからだと分析していた。

 一日も早く優雅で華々しい冒険者生活に返り咲きたいメイは、とにかく深層に潜りたがり、ガンガン魔法を使う。

 これに対して、ソフィアは探索自体に乗り気で無く、極端に姉の怪我だけを恐れ、結果ガンガン魔法を使う。

 だからダンジョンでどんなにアイテムを拾って戻っても、戻ってからマジックポーションを購入する金額で相殺されてしまうのだ。


 そして自分は、そんな二人の逆方向に向いている気持ちを1つにまとめることができないまま、今日もミノムシのように眠り、死んだ目で屋台のボソボソした串焼きをかじっている。

 胸の中にモヤモヤとした嫌な感情ばかりが溜まっていくようだった。


「あー、冒険者のにいちゃーん!」

 手を振りながら駆けよってきたのが、以前頭を撫でたクズ石拾いの少年だと気付いて、オーガストはしょぼくれていた姿勢を正した。

 今日はガザの姿が無く、10歳くらいの同じ背格好の子ばかりが4人、無邪気な顔で勇者隊の周りを囲む。


「ね、山盛りの肉、食べに行く?」

「あ……ごめんな、兄ちゃんたちは、これから冒険の買い物をしに行かなきゃならなくて」

 子どもたちの夢を守るため、金が無いとは言えない。オーガストの苦しい言い訳に、子どもたちはニカッと笑った。

「そんなの肉の後でもいいじゃん! オゴるから行こうよ」


 ずいっと顔の前に出した革袋の財布は、ずいぶん重そうだったが、銅貨ばかりなのだろう。勇者は肩をすくめた。

「子どもに払えるような金額じゃ……」

 言いかけたオーガストの前で、馬鹿にされたと思った子どもたちは自分の財布を開いて見せる。中身がほとんど銀貨で、金貨が一枚混じっている子もいた。

 背後でメイとソフィアが息を呑んだ音が聞こえる。

「このお金、どうしたんだ!」

 驚いてベンチから立ち上がったオーガストを、子どもたちはポカンと口をあけて見上げた。


「どうって……給料だよ。今日、ボクたち給料日だもん」

「嘘はダメだよ、クズ石拾いの子どもがこんな大金を持ってるわけない。いますぐ全員でギルドへ行こう」

 こんな幼い子たちが、泥棒? オーガストが混乱しながら手首をつかむと、子どもたちからおびえたような目を向けられる。

「や、やめてよ。兄ちゃんどうしたの? 嘘なんか言わないよ」

 屋台の店主たちが、騒ぎに気付いてこちらを見ている。あまり知れ渡る前に、ギルドに引き渡さなければ……。


「オーガスト! なにしてんだよ!」

 子どもの一人をひきずるように歩き始めたオーガストの手が、ガッと乱暴に捕まれた。

「ガザ……悪いけど、ギルドに名を連ねる者として、泥棒を見過ごせない」

 駆け寄ってきたガザは、泥棒? と驚いた顔で手をつかまれている子どもを見つめ、その子は泣きそうになって首を横に振った。

「違うよ。前に、皿いっぱい肉を食おうって兄ちゃんが言ったから、一緒にって思って誘っただけだよ」

「騙されないで、あの財布の中身を見てよ。クズ石拾いが持ってる金額じゃない」

 オーガストの言葉に、ガザがぐっと奥歯を噛んだ。


「まずは手を離せ。誤解だ」

 顔をふせてガザが言う。

「誤解なわけ……」

 オーガスト、と聞いたことのないような低い声で呼ばれて、思わず手を離すと、子どもたちはパッとガザの足元にすがりついた。完全に悪者を見る目で勇者を見ている。

「何よ、アタシたちが悪いみたいな顔をして……」

 文句を言い始めたメイにも、冷たい一瞥(いちべつ)をくれて、ガザは子どもたちの前にひざをついた。


「女の子を誘う時は、先に約束が必要だって教えただろ? 急に言ったから、ビックリして怒られたんだぞ」

「えーっ、オーガスト兄ちゃんは女の子じゃないじゃん!」

 すぐに言い返してきた子の額を、ちょんと押してガザはぎこちなく笑う。

「そんなこと言って、オーガストを誘ったら、あのお姉ちゃんたちも一緒に来てくれるって期待したんだろ、ガザ様にはお見通しだ」

 違うよ! と顔を真っ赤にした子と、全然わかっていなかった子に分かれつつも、上手に論点をすり替えられたことには気付かない。

「とにかく、今日急にはダメ、おまえらだけで昼メシ食って来い。はい、解散!」

 ガザの号令に、子どもたちは酒場への道をとっとこ駆け始める。


 その場に取り残されたオーガストたちに、ガザは再び低い声で「ついて来いよ」と言って先に歩き始めた。

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