第15話 空回りするリスタート(3)
全滅の恐怖を味わったオーガスト隊は、おっかなびっくり探索を進めていた。
1階で出現するピクシー1体くらいなら、メイの魔法攻撃から、オーガストの一撃で無傷で倒せる。
ノエルはそのすぐ後ろを、完全に気配を消して尾行しているので、少年たちは全く気付かなかった。
「これで1階は全部だけど……宝箱が出ないね。地下2階へ降りようか」
イヤイヤと首を振るソフィアを黙らせるように、メイがため息をつく。
「収穫が無きゃ馬小屋泊まりよ、アタシ嫌だからね。それにしても、このドロップの渋さが普通だとすると、もしかしてノエルのギフト【激運】ってすごい効果だったんじゃない?」
魔法使いの言葉に、オーガストはギクリと身をこわばらせる。言われるまでもなく分かっていたことだ。戦闘終了時に必ず出現すると思っていた宝箱を、ノエルを追放した後から見ていない。
姉妹から向けられる視線に、明らかな非難の意思を感じて、勇者は無駄に元気な声を張り上げた。
「さぁ、2階までなら楽勝だ。行こう」
地下2階に降りて、ピクシーの数が2、3匹になった時点で、パーティーの足並みが乱れはじめる。
魔法使いの方にターゲットが向くと、ソフィアが途端に浮足立って、メイに回復魔法を乱発してしまう。
「オースを回復して!」
火球を飛ばしながらメイが怒鳴った。
しかし今回は、残りのピクシーの動きがやたらと鈍い。
柱の影からノエルが【影縫い】を放ったせいなのだが、もちろんそんなことには、気付くわけがない。
あっさりと切り伏せたオーガストは、ポコンと宝箱がドロップしたのを見てその場でジャンプした。
「やった! 宝箱だよ」
喜んで後ろを振り返ると、メイがソフィアに詰め寄っているところだった。
「ソフィア、アタシはまだ体力満タンよ、そんな風に使ってたらポーションがいくらあっても足りなくなるわ」
「……でも、姉さまが怪我をしたらと思うと」
「だから、ケガしてないんだって!」
まあまあ、と慌ててオーガストが間に入る。
「いいよ、この前もメイが倒れたら、結局総崩れになったんだ。優先的に回復してあげて」
走ってもいないのに、ハッハッと肩で呼吸しているソフィアが心配で、つとめて優しく声をかける。
「オース、アンタがそうやって甘やかすからいけないのよ!」
メイのきついお言葉を、今日もオーガストは聞き流した。
だが、この時ばかりはメイの言い分が正しい。リーダーは私情抜きにパーティー全体のバランスを見て、適切な指示を出す必要がある。それを怠れば、結局そこからほころびが生じ、再びの全滅を招くのだ。
「そんなことより見て、宝箱が出たよ。中身を回収して今日はもう地上に戻ろう」
戻るという言葉に反応して、パッとソフィアの頬に喜色がのぼる。メイも箱の方を向いて、仕方ないわねとうなずいてくれた。
出現した宝箱は、見たことのない質素な木箱だ。そっと蓋を開けると、中に鉄製の手斧が一本と、石の矢じりがついた矢束が入っていた。
「なによ、これだけ?」
がっかりしたメイの声に、カラッポの箱を持ち上げてみたがもちろんこれ以上何も入っていない。
「矢は誰も使わないし、斧は命の剣と比べるまでもないから、全部売っちゃって良さそう。でも、これじゃあ足りないかな」
「足りないわよ!」
すぐにメイはそう言ったが、すでにソフィアは元来た通路へ歩き始めていた。
「さあ、戻りましょう」
蘇生後初めて見せる嬉しそうな笑みに、今日のところはとりあえず地上へ戻ることにした。
手斧と矢束を武器屋に持ち込むと、主人は「ウチの薪割にでも使おうかな」と苦笑しながら、カウンターに代金を並べる。
ノエルが売る時の価格と比べれば、今度こそ「なによ、これだけ?」という金額だが、その程度の品なのは分かっているから、黙って受け取るしかない。
今朝まで泊まっていた宿からは「昨晩やかましかったから」と断られ、続けて2件断られた後で、先払いの約束で一泊引き受けてくれる宿を見つけた。
手元に残ったお金では、今日も酒場へは行けない。屋台で串焼きとパンを買ってモソモソと食べ、口数少なく宿へ戻る。今日も姉妹はシングルベッドを二人で分け合い、オーガストは床に寝た。
数日前の羽振りの良さから、一気に赤貧に転落した3人の冒険者が宿の明かりを消すまで、ノエルは通りから見守り、今日も寝かせてくれる馬小屋を探して歩いて行った。
次の日も朝早くから迷宮に挑もうとした3人は、太い鎖で封鎖された入り口を見て足を止めた。
「しまった、今日は王の祝日か」
迷宮は7日に1度その入り口を閉ざし、内部にいる冒険者は外へ出される仕組みになっている。
強制ワープで外に出されると、その回の戦利品は全て失われてしまうので、アイテムをかき集めて、深層のセーフポイントで時間をつぶして強制排出で戻るなんてズルはできない。
昨日の時点で「明日は王の祝日ですよ」という目印に、扉に緑の葉のリースがかけられていたはずだが見落としていた。
今日はわら束をネジネジと編んで、紅白の折り紙がついた飾りがぶらさげられている。ギルドが扉を封鎖しているという印だ。
「じゃあ今日は収穫ナシで、また宿に泊まらなきゃいけないってことじゃない?」
もう本当にお金が無いわとわめく魔法使いと、明らかにホッとした顔の回復術師の前で、オーガストは深くため息をついた。




