第14話 空回りするリスタート(2)
休養のため、宿の宿泊者に許されるギリギリの時間まで居座った3人は、宿の主人に嫌な顔をされながら見送られ、まっすぐダンジョンの入り口を目指した。
クズ石拾いの少年が、少し離れた場所にいるのを確認して、オーガストは蒼白な顔のソフィアを気遣う。
「今日はまだみんな本調子じゃないから、浅い階でアイテムドロップを狙って、すぐに引き返すことにしよう。いいね?」
文句を言いたそうなメイも、ソフィアの杖が地面をカチカチと鳴らすほど震えていると気付いて、それでいいわと同意した。
「さ、行くわよ。お姉ちゃんが手をつないであげるから、大丈夫」
小さな子どもにするように手を差し出すと、回復術師は泣きそうな顔でそれにすがって、ダンジョンへの扉をくぐっていった。
「お、この石、結構いい音……おわぁっ!」
クズ石をハンマーで割っていた少年は、石の山の影からぬっと沸いて出た人物に飛び上がって驚いた。
「む……すまん。ずっとここに居たんだが」
「ノエルー。気配消しすぎだよ、全然気づかなかったよ」
ノエルもこれから潜るのかい? と尋ねられて、青年はふぅと息を吐く。
「面倒を見るなら、最後まで見てこいとギルマスに言われた。行ってみる」
「お人よしー」
ヒュウと少年が吹いた口笛に、気を悪くした様子も無く、彼もまたダンジョンの入り口の扉を押す。
常に内部の構造を変える迷宮だが、入ってすぐのこの小部屋は固定だ。必ず空き部屋と決まっていてトラップも無い。だから入るなりモンスターに待ち伏せされて即死なんてことにはならない。
一度次の部屋に繋がる扉の前まで進んだノエルは、天井を見上げながら数歩下がり、スッとある一点を見つめた。
「うぉっ、カメラ目線すんな! ビビるだろうがよ」
モニターを眺めていた管理者は、椅子の上で飛び跳ねる。ノエルの青い瞳が、まるで管理者に直接話しかけているかのようにまっすぐ注がれ、骨の面はゴクリと喉を鳴らした。
「迷宮よ……いや、ダンジョンの主……よ?」
堂々たるたたずまいと対照的に、ノエルの声に戸惑いが浮かびまくっている。
「いや、そこは自信ないんかいっ!」
華麗にツッコんでおくところまでは、礼儀だ。
「俺の行く先を、オーガストたちと同じダンジョンに繋げてほしいと言ったら、叶うだろうか」
ツッコミポーズから、スッと姿勢を戻した管理者は「ほぅ」と低く声をあげた。
「ボンヤリ顔のクセに、ダンジョンの仕組みに気付いてたとは、やるねぇ、ノエル」
このダンジョンは非常に広大だから、どんなに多くの冒険者が入っても、内部で出会うことはまず無い。と、多くの冒険者は思っている。
その上1パーティーは5人が上限。これを超えた人数で挑もうとしてもダンジョン入り口の扉が開かない。
また、前のパーティーに続いてすぐに入ろうとしても、手前の一団が最初の部屋を抜けて扉を閉めるまでは、やはりダンジョンの扉が開かない。
冒険者の間では、複数パーティーが待ち合わせて、レイド戦よろしくボス部屋になだれ込ませない仕組みなんじゃないか、と噂されているがそうではない。
迷宮はパーティーごとに、入るたび、個別に生成されているのだ。だから、自分のパーティー以外の冒険者とダンジョン内で出会うことは絶対に無い。
ノエルがこれに気付いたのは、ぼっちを貫くために、人一倍他人の気配に敏感だったからだ。
自分よりほんの少し前に入ったはずのパーティーの気配が、完全に消え失せてしまうのはおかしいし、ダンジョン内に他の冒険者の痕跡が一切無いのもおかしい。
それと同時にノエルは、見られていることを勘付いていた。
何かが自分を見ていて、このダンジョンの奥深くまで誘おうとしてきている。そういう迷宮の意志のようなものを感じ取っていたのだ。
「オイラさぁ、モブの取り合いとか、横殴りからのルート権奪取とか、ギスギス要素嫌いなんだよ。町では楽しくコミュニケーションしたいけど、戦場では無言で狩りたい派なんだよ」
訳のわからないことをつぶやきながら、管理者は楽しそうにテーブルの上のカチャカチャいう板を叩き、最後にツッターン! と曲がった矢印の書かれたボタンを押した。
「でもさ、ノエル。オマエはそんなプレイヤーじゃねぇってこと知ってるからよ、特別ゲストでご案内だぜ」
ノエルの目の前の扉が、願いに応えるようにポウ、ポウと緑色に光り、カシャンと何かが嚙み合うような音がした。
ドアの向こうに3人の若い冒険者が、ひどく慎重に動く気配を感知して、ノエルは再び天井の一点を見上げる。
「……感謝する」
「だから、カメラ目線やめいって」
苦笑いしながら、腰がひけた姿勢で歩いているオーガストの方のモニターを見つめる。
「オメーらも、感謝を忘れちゃなんねぇぜ」
言ってから、自分で「年よりくせぇ」とジタバタし、テーブルに頬杖をついた。
「まぁ、若いからこそ聞けねぇ忠告もあるけどよ、他人が本気で親身になってくれるチャンスはそう多くないんだぜ。つかめよ、少年たち」




