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18話 黒き意思のままに

「魔王軍は大きく分けて『破軍隊(はぐんたい)』『蠱惑隊(こわくたい)』『焦土隊(しょうどたい)』『傀儡隊(くぐつたい)』の四つの部隊によって構成されています」


 ニルの説明を聞きながら手渡された小冊子(マニュアル)を開く。


 薄い冊子の中には魔王軍内での規律、罰則、階級説明等魔王軍で生活するのに必要な情報が簡潔に記されていた。


「破軍隊は基本的には実戦担当です。 偵察任務や斥候、侵攻時の先陣など基本的には戦闘行為や偵察などが主な仕事になります。」

「霊峰付近の関所も破軍隊の管轄なのですか?」

「ええ。特殊な任務以外は基本的に破軍隊から兵士を派遣します。 その為四つの部隊の中で最も出撃頻度が高く、人員も豊富です」


 思い返せば関所で見た魔物達は皆戦闘や偵察に適した肉体を持つ種族だった。


 母数の多さははそれだけ派遣出来る兵士の選択肢の多さを指す。

 偵察任務であれば移動や隠密に長けた者、戦闘であれば武力に長けた者といったように破軍隊にはある種オールラウンダーな役割が与えられているようだ。


「次に蠱惑隊、こちらは戦闘時の後方支援や土地の汚染などが主な任務です」

(破軍隊よりも支援と撹乱に特化した部隊って所か)

「蠱惑隊では肉体的な強度よりも魔力の強さが重視されます。破軍隊所属の兵士でも蠱惑隊へのより強い適性が確認されればそちらへ異動して貰うこともありますね」


 任務の内容だけを聞けば地味に見えるが、戦闘時に後方支援が有ると無いでは戦果に雲泥の差が生まれる。


 土地の汚染も確実な前線の押し上げになり、実質的な領地の拡大と見れば非常に重要な任務とも言える。


「三つ目は焦土隊。 その名の通り戦地を焦土に変えるような兵器や魔獣の管理、そして作戦実行時の実働として動く部隊です。基本的には大規模作戦時のみの出撃になりますが、それ以外の時は新装備、兵器の研究開発を行います」

「兵器……」

「気になりますか?」

「えぇ、まぁ」

「貴方が大規模作戦に参加するか、焦土隊への配属となれば好きなだけ見られますよ」


 戦地全てを焼き払う程の戦力、戦争においてそれがどれ程の切り札になるかは想像するまでもないだろう。


 しかし文字通り全てを焼き払うならば歩兵隊との連携は困難を極め、人族側の有用な資源すらも灰に帰してしまう。


 またそれ程強力な兵器、魔獣を運ぶなら通常時よりも遥かに多くの人員派遣が必要となると考えれば何時でも使えるような便利な物とは言えないだろう。


「最後に傀儡隊。 この部隊は他部隊と違い戦闘行為を想定していません。 人族領地への侵入と諜報や暗殺、そして内政撹乱を任務とする特殊部隊です」

「という事は既に人族側に潜入しているのですか」

「はい。 人族領地で自由に活動可能という条件がある為所属人数は極めて少ないですが、四部隊の中で最高位に位置していると言えるでしょうね」


 人族と魔族の戦争が始まってから幾つかの国で内乱が起こっていることは風の噂で聞いていた。


 人々は民衆の不安が高まったのが原因だと考えていたが、一体幾つがそうなのかはクロードには分からない。


 戦いにおいて一方的な情報漏洩はそれだけで自軍を壊滅に導きかねない。進軍場所が漏れれば待ち伏せされ、食料問題が漏れれば兵糧攻め、内政の乱れが漏れればその隙に攻め込まれる。


 魔族も人族もお互いの領地には深く踏み入れないという思い込みに漬け込み、一本の矢も放つこと無く魔王軍を勝利に導く事が出来るのが傀儡隊なのだ。


「魔王軍の構成部隊については以上です。何か質問は?」


 破軍隊、蠱惑隊、焦土隊、傀儡隊。

 どれもがクロードにとって魅力的だった。


 圧倒的な物量、溢れ出る魔力、絶対的な火力、国を操る内通者……全てがあの憎き勇者一行へ痛打を食らわせ得る可能性を持っている。


 しかし、一般兵ではそれらの歯車に過ぎない。自在にその力を操る為には、今現在の支配者を知る必要がある。


「その四部隊を率いているのは?」

「破軍隊大将『魔傑』ヴァーク、蠱惑隊大将『重奏』ムジカ、焦土隊大将『再編者』リサルカ、傀儡隊大将『偏在』オーデン……彼ら四人を合わせた『四柱将(しちゅうしょう)』がそれぞれの部隊を監督しています」

「そしてその全ての指揮権を持つのが……」

「えぇ、私です」


 事も無げに紅茶を啜りながらニルがそう答える。

 クロードは改めて確信する。


 目の前に座っている彼女こそ、莫大な数の兵士を抱える魔王軍で実質的な最高指揮権を持つ者であると。


「しかし私の指揮も全て我らが王……『魔王』ディアニス様の御心によるもの。 魔王軍とはディアニス様の手足に過ぎないのです」


 彼女の上に立つ唯一の存在。

 魔族という一大種族を総べる王の姿は容易に見られるものでは無い。


 人族にとっては滅すべき最大の敵、そしてクロードにとっては仕えるべき最大の主。


「さて、貴方には『破軍隊』……ヴァークの従える戦闘部隊に新兵として所属して貰います」


 万能部隊であり、最も母数の多い破軍隊。

 しかし言い換えれば多少数が減ったところで幾らでも替えが効くとも言える。

 キャリアもコネクションない新人が配属される場所としては納得である。


「ですが……貴方はただの一般兵で満足する気はありませんね」

「…………」

「貴方の目は更に上……四柱将、そしてこの私の地位すら見据えている」

「いけませんか」

「大いに結構。魔王軍は人族と違い年功序列ではなく地位に見合った実力と器がある者を取り立てます。貴方が上を目指すならば武功を積み、のし上がれば良いだけです」


 偉くなりたければ力を示せ、実に単純。


 しかしそのルールに従い、クロードと同じように上を目指す魔物も決して少なくないだろう。


「人族でありながら人族に反逆し、人間の身でありながら異形の力を得る者。実に興味深い」


 飲み終えたカップを残し、ニルが立ち上がる。


 例え魔王軍がどんな場所であろうと、クロードの目的はただ一つ。

 魔王軍を全力で駆け上がるのみ。


「活躍を期待していますよ、クロード」


 全てはあの外道を殺す為に。

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