第九話 炎揺剣イグニスプラーガ
本日二話めの更新です。
まだ読んでいない方は前話からどうぞ
使う素材を思案しながら放送していると、工房のドアが開いてシダがひょっこりと顔を覗かせた。
「精霊馬借りてきました!」
そういえば、この工房を動かす為の動力が必要だったんだっけ。仕事が早いな。
精霊馬というのが気になるので、とりあえずカメラを持って一旦外に出てみることにした。
『!?』
『これ馬車の中だったのか……』
『拡張馬車じゃん。結構高いやつ』
『シダPの財力、マジでなんなんだ』
『商人ってそんな稼げるの?』
「あ、そういえば見せてなかったっけ。実は馬車の中だったんだよね」
カメラを持ったまま馬車に出入りしてみる。
ゲーム的なシステムと分かってはいるけど、やっぱり不思議な構造だ。これ仮に馬車の一部分が壊れたりしたら内部はどういう状態になるんだろう。
精霊馬の方は半透明の黄緑色っぽい馬で、まさに精霊馬って感じだった。
関係ないけど精霊馬って字にすると精霊馬と似てるな。こっちは別にキュウリとかナスとかではない。
「これでレオーネまで行きますよ! 飛ばしますけどある程度時間はかかるので、馬車の中でごゆっくりどうぞ!」
「シダは?」
「御者やります! やってみたかったので!」
無垢だなぁ。
「あ、そうだ。レオーネに行くまでに一つ分岐があるんですけど、芸術の都と森の都だったらどっちがいいですか?」
「分岐?」
「どちらか一方行けば次に進めるって感じのところです!」
「なるほど。じゃあ、芸術の方かな」
「わかりました!」
笑顔で返事をして、シダは御者台に座った。
私の方はお言葉に甘えて工房で武器を作ることにしよう。
というわけで、カメラをセットし直して武器生産の方に移っていく。
「じゃあ今回の武器作って行こうか。さっき言った魔剣ヴィドランゼなんだけど、やっぱり作るからには強さも欲しくて。だから血を吸うって方向性で考えたときに、[出血]ってデバフがあると吸血が捗りそうなんだよね」
『確かに』
『そういうシナジーあるんだよなこのゲーム』
『デバフにシナジー乗せられると洒落にならん』
『姫よりデバッファーを囲うんだ』
「だから、今回はちょっと出血がつきそうな武器を作ってみようかな」
具体的に何を作るのかは既に決まっている。素材を漁ったときに目についたものがあるので、それを作っていくつもりだ。
というわけで、今回作る武器のキーとなるのはこの[波打つ大角]というアイテム。
キャパシティ値が高い代わりに単体で特殊効果を持たないという典型的なベース用アイテムだけど、名前の通りぐねぐねと波打っているため直剣などには使いにくいと思う。
しかし、当然剣には様々な種類がある。今回私が目をつけたのは、フランベルジュという種類の剣だ。
フランベルジュが何なのかというと、簡単に言えば刀身が波打っている剣のこと。
刃の形状のせいで、これで斬られると止血が難しくなるという、今の私が求めている[出血]効果を持っていそうな武器ナンバーワンだ。
作業台に波打つ大角を置き、ダイヤルを操作して出力を一気に上げていく。
『柄は置かないの?』
「火力高すぎて曲がっちゃうから、先に刀身を作っていこうかなって」
波打つ大角はそのままだと槍みたいな形状なので、叩いて平らにしていく必要がある。この段階ではそこまで形状を気にする必要もないので、出力を上げまくってガンガン叩いていくつもりだし、そうなると普通の素材がドロドロに変質してしまうので先に刀身を作ってしまおうという感じ。
重めのハンマーでガンガン叩いてある程度の形を作ってから、出力を下げつつ柄の位置にギドル鉄鋼を配置。
叩いて整形し、これでベースは完成だ。
ここから能力をつけていくわけだけど、今回は試作なので素材は必要最低限に。
攻撃力や斬撃強化の効果を持った一般的な素材をキャパ上限までくっ付けて第二段階は終了。
調整フェイズにフィール赤輝鋼で炎のような紋様を付けてから刃を研いで——
「よし、完成」
『かっこいい』
『シンプルなやつにするって言ってたけど普通にかっこいいやつ』
『名前は?』
「名前かあ……炎揺剣イグニスプラーガで」
『何でそんなポンポン名前出てくるんだ』
『いいと思う』
『もう武器のデザイナーとして就職するべき』
「そういう道もあるね。まあ、とりあえず今はステータス見てみよう」
[炎揺剣イグニスプラーガ]
必要STR:124
特殊効果:攻撃力+38、斬撃強化+6、出血付与
「出血付与は付いてる……けど……」
『STR重っ』
『124って現状のトップ層でギリ行けるくらい?』
『STR特化で何とか……って感じ。まあ時間が経てばこのくらいなら行けるようになるかもしれんけど』
「……まあアレかな。今回何も考えずに素材くっつけて行ったから、その辺り見直せば実用範囲内にはなる……と思う」
鉄系のアイテムは重いので、こうなってしまったのも仕方ないか。
魔剣にするなら見た目の金属感は普通の剣よりも抑えていけるし、後は禍々しさのある軽めな素材で誤魔化すというのもアリかもしれない。
「買ってくれる人いるかな、これ……」
『要求STRの割に効果がそこまで強くないからなあ』
『美術品としては欲しいかも』
『見た目かっこいいしお洒落装備としてはありじゃね?』
「なるほど。確かに戦闘に使うだけが武器じゃないか」
それなら、とりあえずこれは売ってみることにしよう。値段はよくわからないし、シダに一任ってことで。
何はともあれ、出血付与効果を無事に発見できて、これで魔剣ヴィドランゼに一歩近づいた感じだ。
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