第七十六話 賊で無く、族で在れ
東リべいいですよね。去年ぐらいにラジオでお勧めされてるのを聞いて読んでハマりました。
今回の話とは一切関係がありませんが……。
「で、えっと……族長さん?」
「普通にライアでいい。流石に俺のロールプレイに巻き込むわけにも行かないしな……」
既に巻き込まれているような気はするけど……とりあえず店の中に入ってからはライアは普通の口調になった。正直武器について聞くときに夜露死苦って感じの口調だと応対に困るのでありがたい。
「一応まず初めに聞いておきたいんだけど、ユニーク素材を持ってるっていうのは本当?」
「ああ。これだ」
そう言って、彼はインベントリから大きなアイテムを取り出して机の上に置いた。
なんというか、細長い金属だ。
長さは大体1メートルくらいで、厚みは腕より少し厚いくらいの四角柱。
表面は黒いけど、一部削れている部分から見える内部は金色に輝いている。
「ジギラ隕鉄鋼。正真正銘のユニーク素材だ」
「確かにユニークみたい……だけど、これってどうやって入手したの?」
「これを取ってきたのはうちの採取職だったんだ。普通は金策で触るくらいの採取職をほとんどメインジョブとして使ってるような変なやつでな……詳しいことは言えないが、これは採取職を極めた人間にしか取れないらしい」
採取職と言えば、採掘師とか植物学者とかそういう特定のアイテムの採取に特化したジョブのこと。
採取職にしか採れないレア素材も多いので、ライアの言う通り金策で使う人は多いらしい。
それをメインで使い続けるって結構な変人……いや、ブーメランになる気がしたのでやめておこう。
それにしても、採取職にしか採れないユニークか……確かにそう言うものがあってもおかしくない。
「本当はそいつに使ってもらいたかったんだが、三日三晩懇願されて流石に折れちまった。俺はそいつの覚悟に応えてやりたい……だから、最高の武器を頼むぜ」
「もちろん、そのための私だから。……ちなみに、武器を作っている様子を配信したりって……」
「ああ、別に気にしないから自由にやってくれ。ユニークなのも言って構わないが、一応採取職にしか採れないってのは伏せておいてくれると助かる」
「了解」
それくらいなら全然問題ない。
というわけで早速配信を開始した。
『わこつ〜』
『おつ』
『新鮮な配信だー!』
『乗り込めー!』
「どうも。今日はユニーク素材を使うので是非見ていってね」
『えっ』
『またユニーク!?』
『またセフィロトかな』
カメラを移動させてライアを画角に収める。
「……おう、これ映ってるのか?」
『族長だー!』
『族長ー!』
『当たり前だけど依頼主も毎回凄いな』
「おー……凄い人気」
まああんな感じでいつも活動しているのならだいぶ目立つだろうし、プレイヤーの間では結構な認知度なんだろうな。
私は外に全然出ないから知らなかったけど。
さて、武器種に関しては事前にハンマーやガントレット、棍などの打撃系の武器と話を聞いているのでその方向で行こうと思う。
なんなら釘バットとかでもいいんじゃないかなとか思ったけど、釘バットって打撃というより刺す方の攻撃な気がするし、今回は金属の塊が素材なので適していない。
ちなみに今の装備はメリケンサックだった。一応ガントレットに分類されるらしい……というか普通にゲーム内に存在する武器としてあるんだ。
まあ、まずはジギラ隕鉄鋼を選択し、[真化]のUNIT化を行っていく。今回の特殊効果の説明はどうなんだろう。どちらかというとガルヴァドが持ってきた素材に近いし、結構短いのかもしれない。
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[撃滅]
全ての敵を破壊する。
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短いとか言うレベルじゃなかった。
『短っ』
『なんだこれwwww』
『全体除去カードの説明文?』
『分かりやすいけど短すぎる』
シンプルイズベストって感じ。シンプルに装甲破壊とかそういう感じなのかな。
まあこれならどう使おうと問題ないだろうし、少し加工しながら完成形を模索していこう。
ライアに手伝ってもらってジギラ隕鉄鋼を金床へ運ぶ。
「かなり硬い金属みたいだけど、ユニーク素材だし最初は低い出力から始めていこうかな」
まずは50。当然のように何の反応も示さない。
100、200、300、400、500……全然変わらないな。まあまだ上はあるしどんどん上げて行こう。
600、700、800……え? まだダメ?
850、900、950……ここで若干変質の兆候が見えてきた、けど……
「これ上限999なんだけど……」
この金床で出せる最大出力である999にダイヤルを合わせるも、ジギラ隕鉄鋼は若干変質しているようなしていないような、そのくらいの反応しか示さない。
試しに叩いてみても僅かにへこんだくらいの変化しかない。表面を削ろうにも薄皮くらいしか削れない。
「ええ……」
『硬過ぎだろこれww』
『流石ユニーク素材』
『なんなんだこれ』
『これ武器にできるんか』
「設備、全部最新のものなんだけどなあ」
何となく考えていた完成図が全てガラガラと音を立てて崩れていく。
少しずつなら形を変えることはできるけど、ガントレットのように複雑な形状にするのはかなりしんどい。合金にすれば加工しやすくなるかもしれないけど、それをするには形状が問題だ。普通に合金錬成釜に入らないし、切り出すのもかなり時間がかかる。
グラムソトーシスを作ったときと同様にラーニングから形を作るというのもできるけど、その方法でやると通常よりも多くの素材を消費するため少なくともガントレットを作るには材料が足りない。
……うん、正直言ってもうこれ完成形一択しかないのでは?
「よし、とにかく作っていこう」
まず、表面を根気よく削り取っていって大まかな形を作る。
元の形状が角柱なので、これをひとまず円柱形にしていきたい。
ただ、普通に人力で削り取ろうとすると日が暮れてしまう。そこで使うのがこの魔導式円盤研削機……つまりディスクグラインダーだ。
つい最近購入したものの、出力が高すぎて使いにくかったため道具保管庫で眠っていてもらっていたけど、まさかこのタイミングで使うことになるとは。
裏で武器匠のジョブクエストを進めたおかげで炉本体の出力もかなり上がっている。
そのため金床を最大値で使いつつ他の工具を使うこともできるので、今回は思う存分その馬鹿力を活かしていただこう。
「というわけでヴァルザリウム研削ディスクをセットして……研削開始」
ギュイイイイインともの凄い音を立てながらジギラ隕鉄鋼が削れていく。この威力で考えればやはりこの素材はあり得ないほど硬いのだけど、それでも着々と円柱に変化していってる。
いつしか表面の黒色は完全に消え去って、最終的に内側の金色だけが残った。
さあ、これでいい感じに円形に削り取れたので、今度は片方の端に行くにつれてなだらかに細くなっていくように削っていく。
資料を見ながら形が崩れないように慎重に。もうこの時点でコメント欄には何を作っているのかバレていたけど、正直これしかないので仕方ない。
全体の形が出来たらディスクを研磨用のものに変えて全体を磨いていく。これは結構便利なので、出力の調整さえできれば今後も使っていきたいな。
……と、これでほぼすべてが完成したので、持ち手の部分に黒い皮を巻いて、剣で言う柄頭に相当する部分に銀色の金属を結合させる。
そして最後にライアがデザインしたらしい【滅腐威棲疾】のマークを表面に装飾で再現し――
「……よし。ようやくできた……!」
『8888888』
『やっと完成した!』
『よくやったなこれ……』
『音ヤバくて途中ミュートにしてたけど無事完成してよかった』
『というかこれ金属バットじゃねーか!』
『めちゃくちゃ金属バットだ』
『なんかロゴが入ってるだけでそれっぽくなるな』
『族長に金属バットの組み合わせはヤバすぎる』
コメントに書いてある通り、今回作ったのはまさに金属バットそのものの武器だ。
工程自体が少ないのでかなり簡単なように思えるかもしれないけど、削る作業で数十分使っている。ユニーク素材を使う緊張感の中でそれだけの長い単純作業をする苦しみは実際にやった人間にしかわかるまい。
ちなみに少しそれっぽくなるように装飾で表面が削れているような描写を足したりしているけど、どう考えても本体より先に装飾部分が削れていくので使えば使うほど本来の輝きを取り戻すヤバい武器になってたりする。まあもうそれも合わせてってこの武器ってことで。
名前は……『禁賊罰屠』で。もう振り切ってしまおう。バットだけに。
「イカしてるじゃねーか……!」
目をキラキラさせながら、ライアは禁賊罰屠を担ぐ。
当たり前だけどめちゃくちゃ様になってるな。まあこの組み合わせで違和感が出るほうがおかしいか。
「【滅腐威棲疾】族長、沸血霧 雷亞! この御恩は一生忘れません!!」
その声に合わせて外に待機していたらしいクランメンバー全員が工房に入ってきて私に頭を下げてくるというなんかとんでもない絵面になったりしたけど、とにかくこうして私は無事にユニーク武器を作り終えたのだった。
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禁賊罰屠
武器種:棍棒 必要STR:91
[撃滅]、成長装備、攻撃力強化+101、打撃強化+71、防御貫通+31
かつて最強の軍団として名を馳せた族の長が担いでいたという伝説の武器。
無辜の民を傷つける賊を相手に幾度となく振るわれてきた。
千の戦いを経てなおその形には一切の変化がなく、所有者の歪み無き金色の精神を表していると言われている。
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面白いと思っていただけたら評価やブクマなど夜露死苦!
ちなみにちょっとした実験もかねて新作を投稿していたりします。ユーカリにもアリフラにも全く関係ないですが、一応VRMMOなので書いておきます。
同時に色々連載してますがユーカリの投稿頻度は変わりません。元から遅いので……




