第七十一話 グラムソトーシス
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[真化]
素材に残る『遺子』への魔導経路を作り、魔力を流すことで活性化させる技術。
遺子の強い特定素材にのみ用いることが出来る。
また、遺子を持つ素材を分割して使う場合、真化させられるのは一つだけになる。
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あー……これ、ユニーク素材にだけ使えるやつかな。
素材に触れた瞬間に使えるようになったってことは[真化]を使うことのできる素材に触れることが解放の条件だろうし、これまで色々な素材を触ってきたのに解放されなかった以上、ユニーク素材が[真化]の条件と考えて間違いないはず。
問題は内容。進化ではなく真化なのはどういうことなんだろう。読みもアクティベートってなんか現代的というか、まあそもそもUNITが世界観と離れてる感じなのでそこは深く考えても仕方ないんだろうけど、全体的にちょっと想像がつかないし試してみるしかないかな。
統機の烟鏡鋼のUNITメニューを開いて[真化]の項目を確認すると[融解]の二文字が表示された。
説明は「UNIT作動中に触れたものを融かす」という極めて簡素なもので、それ以上の情報はないらしい。
融かすというのがゲーム的にどう扱われるのかわからないけど、敵の装甲を融かしたり出来そうだし実質防御デバフみたいなものなのかな。
まあ何にせよ素材自体には通常のものとあまり変化があるようには見えないし、この[融解]とやらがユニーク素材をユニークたらしめているんだろう。それなら[真化]を使うしかないし、あまり深く考える必要はない。
そんなわけでまずは形を作る。と言っても、さっき作った試作品をラーニングして使い回すだけだけど。
ラーニングでのコピペは普通に作るよりも若干消費する量が増えるものの、そもそも統機の烟鏡鋼はかなり大きな塊だ。分割しても真化できるのは一つだけのようだし、残しておく必要もなさそうなので贅沢に使ってしまおう。
「ラーニングして、この形で作成……っと」
これでガントレットを両腕分作ったものの、まだ装飾に使ってもお釣りが来るくらいの素材が残っている。
細部の形を整えつつ、折角なので装飾にもいつも以上に力を入れてみよう。
指の形をより正確にしたり、全体のシルエットを見て形を調整したり。甲の部分のデザインに関してはガルヴァドに意見を聞いてみる。
「そうだな……じゃあすうじの7をデザインに入れてくれるか? ローマすうじで、VIIってかんじに」
「なるほど。ちなみに、それって何の数字?」
「うちのクランはメンバーにばんごうがふられてるんだ。『セフィロトのき』ってあるだろ。あれになぞらえてる」
セフィロトで7番目……勝利かな。
武器のデザインとか名前を考えるときにその手のサイトを無限に漁っていたのでこう言うときにすぐに思いつけるようになってしまった。武器職人的には良いことだけど、女子高生的には……あまり考えないようにしよう。
燃え盛る炎とVIIを合わせたような模様を両手の甲部分に拵える。素材を薄くして切り取って重ねて貼るだけでそれっぽいものが出来るのでかなり簡単。
手の甲から溢れ出るような炎の模様を全体に描いて、ガントレットを眺める。うん……これで大丈夫なはず。
最後に[融解]のUNITを設定して完成だ。
「名前の希望とかはある?」
「いや、そっちできめてもらってかまわねーぜ」
「了解。じゃあ、『融鉄拳グラムソトーシス』で」
うまく作れた喜びを噛み締めつつ、ステータスを開いてみる。
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融鉄拳グラムソトーシス
武器種:ガントレット 必要STR:80
[融解]、成長装備、攻撃力強化+138、打撃強化+50、握撃強化+50、防御貫通+12
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「……これ強くない?」
『数値が凄い』
『成長装備って何?』
『確か熟練度に合わせて性能が上がるとかそういうやつだったと思う』
『まだ伸び代があるんか』
『すごいなこれ。さすがユニークだわ』
「なあ、ちょっとつかってみたいんだがそういうせつびってあるか?」
ガルヴァドの言葉に頷いて、地下空間へと案内する。
「どんな敵がいい?」
「ひとがたでたのむ。ふくすうたいでな」
人型のマネキンを十体、ガルヴァドを取り囲むように配置。強さは……まあかなり実力者っぽいし結構高めで良さそう。武器はランダム。
戦闘訓練の開始を告げるアナウンスが鳴って、まず十体のうちの三体がガルヴァドの方へと向かった。それぞれ剣、槍、棍を持っている。
まず最初に届いたのは槍の攻撃。私の目ではどのタイミングで来るのかよくわからなかったけど、ガルヴァドは未来でも見ていたんじゃないかというくらい簡単に攻撃を回避して槍を掴んでしまう。そしてそのまま槍を持ち上げて、反対方向へ叩きつける。槍を握り続けたマネキンは頭から地面に叩きつけられて塵になった。
「まずひとり」
そう呟いてから、即座に背後を向き、迫ってきていた棍持ちのマネキンを視界にとらえる。既に棍はガルヴァドの寸前まで迫っていたけど、彼女は裏拳で的確に手首を殴打し、動きが崩れたところに続けて攻撃を叩きこむ。がら空きの胴体に強烈な一撃をもらったマネキンは車に撥ねられたみたいに吹き飛んでいった。
残った剣持ちのマネキンに対しても前の二体と大体同じような感じで攻撃を回避し、腕を掴み、勢いよく振り回してからぶん投げる。……あ、二人巻き添えになった。
「さんにん……いや、ごにん? まあいいか」
残りのマネキンが一斉に襲い掛かるけど、やっぱりガルヴァドの相手ではなくどれも一瞬ではじけ飛んでいく。
殴って投げて殴って投げて、残った最後の一体の顔面を鷲掴みにし、地面に叩きつける。そしてそのままグラムソトーシスでマネキンの顔面を掴み続け……不意にガルヴァドが顔をしかめて手を離した。
解放されたマネキンはよろけながらも立ち上がってガルヴァドの方へ迫るが、辿り着く前に力尽きて消滅してしまう。なんか……結構強い設定だったはずなんだけど。
圧倒的な強さでマネキン達を蹂躙したガルヴァドが、両手を見ながら呟く。
「ぼうぎょりょくていか、けいぞくダメージ、ぶいはかいこうか……ってとこか? すげーなこれ」
「え、今のでそんなに分かったの?」
「まあな。ぼうぎょりょくがかわるとなぐったかんかくもすこしかわるし」
見てるだけだと部位破壊っぽいのが起きてるな、くらいにしか思わなかったけど、使ってる本人は結構わかるらしい。
『そこまで露骨には変わらなくない?』
『デバッファー複数人で防御下げまくってようやく分かる感じ』
『元からガチガチに防御力高いやつは多少わかりやすいけど……』
『大して変わらん』
シンプルにこの人がヤバいだけじゃん。
「ただ、ずっとはつどうしつづけるのはむりらしいな。どういうじょうけんかはわからねーが、さいごのほうできゅうにHPがけずれてた」
「強いけど、デメリットもあるってことなのかな」
「まあなんにせよ、ありがとうな! おかげであたらしいあいぼうができたぜ」
「こちらこそ、ユニーク素材なんて初めてだったからいい経験になったと思う」
ユニーク素材に関しては情報がゼロだから結構緊張したけど、よくよく考えたらこれまでも武器職人に関係する情報とかほとんどない状態でここまで来たわけだし、実は結構慣れてたのかもしれない。
どちらにせよ初めてユニーク素材を使った職人ということで結構自信もついたと思う。
「そういえば、つぎはうちのクランマスターがくるはずだからよろしくな!」
えっ、もう一人ってクラマスなの?
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融解拳グラムソトーシス
武器種:ガントレット 必要STR:80
[融解]、成長装備、攻撃力強化+138、打撃強化+51、握撃強化+34、防御貫通+12
古代金属で作られたガントレット。
その握撃は骨を折らず、肉を潰さず、皮膚を焼かず、しかしその全てを融かし盡す。
常軌を逸した融解の力は確実な勝利をもたらすが、時に装備者自身にも牙を剥くという。
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