第六十九話 天からの一報
残り作る武器は7割固まったのでペースを上げたいところ
ある日のこと。私はいつも通り武器を作る様子を配信していた。
今作っているのは、キュロスアダーというレアな蛇型モンスターから採れる「帝蛇竜の毒血」という素材を使った短剣。毒を始めとするデバフの付与を極めるというコンセプトで作っている。
今はベース部分を作り終えた段階で、ここから毒系の素材を使っていく感じ。
「というわけで、こんなものを用意したよ」
『なにこれ』
『色がやばい』
『毒?』
取り出したのは液体の入った少し大きめのバケツ。中に入っているのはキュロスアダーの下位モンスターの毒液だ。
この毒液に剣身を浸し、金床に移して熱し、毒液に浸し、熱し、浸して熱して浸して熱して……これを何度も繰り返すことで、刃が毒々しい紫色に変わった。
このままでも結構いい感じの見た目をしているけど、ここからさらに帝蛇竜の毒血を使う必要がある。
どのように使うかはもう既に決めてあって、そのために必要な素材を新たに一つ取り出す。
『葉っぱ?』
「ギシエの葉っていう素材。ちょっと面白い使い方を聞いたから、試してみようと思って」
ギシエの葉を剣身に乗せた状態で金床の出力を一気に上げると、葉は葉脈だけを残して消滅し、剣身には葉脈と同じ形状の溝ができる。最近知り合ったアクセサリー職人から教わった手法だ。
この溝に帝蛇竜の毒血を流し込み、出力を調整して固める。毒血は紫と赤の中間のような色で、網状の葉脈に沿って毒血が固められた様子はイメージ通り剣身に血管が浮き出ているような見た目になった。
毒血が短剣と一体化したのを確認してから最後にもう一度毒液に短剣を浸し、これで完成。
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蛇毒剣ツァリヒ
武器種:短剣 必要STR:41
特殊強化【帝毒】、攻撃力+33、毒付与+11、毒強化+6、弱体付与率+4
毒蛇に取り込まれたナイフが消化されずに長年残り続け、毒蛇の身体と同化したもの。
毒蛇は死に、ナイフは身体から切り離されたが、今でも毒蛇の血が刃の中を巡っている。
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良い感じ。
今日の依頼はまだあるのでそっちも作って行こう。
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巴飯綱
武器種:鎖鎌 必要STR:56
枷【習得難】、攻撃力+52、斬撃強化+31、風属性強化+5
かつて恐れられていた伝説的な野盗が襲撃の際に用いたという半透明の鎖鎌。
三つの刃は高速で回転し、鎌鼬の如く瞬時に敵を切り裂く。
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蛮族の熊伏し
武器種:槍 必要STR:75
攻撃力+91、貫通強化+38、火属性強化+17
巨人族が熊を食す時に使っていたという巨大な槍。
熱をよく通し、見かけの割に軽く、意外と脆い。
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雹焔剣カムタラウルガス
武器種:大剣 必要STR:70
分離武器、攻撃力+78、斬撃強化+21、火属性強化+15、氷属性強化+15
炎と氷。相反する性質を同時に宿す特殊な大剣。
炎が氷を食い、氷が炎を食うことでバランスが保たれており、分離することで双剣として運用することもできるが、一度分離させれば強制的な暴走状態となる。
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というわけで今日作ったのはこの四本。
UNITの扱いにもだいぶ慣れてきて、以前より速いペースで仕上げられるようになってきている。
「今日の依頼はこれで全部かな。じゃあ、せっかくだし今日はみんなのリクエストに……」
私がそう言おうとした瞬間、ガコン!……と大きな音が響き渡った。何か積んでたものでも崩れたかなと思って振り返ろうとしたところで、今度は声が聞こえてきた。
[プレイヤーの皆様にお知らせです]
運営からのアナウンスだった。
今までもメンテナンス告知とかの時に聞いたことがある。ただ、さっきの音は初めて聞いたけど。
緊急メンテナンスでもやるのかな。
[ユニークモンスター[統機]ウェルキンゲトリクスの初討伐が確認されました]
「へー、ユニークモンスター……ユニークモンスター?」
ユニークモンスターって確か倒した人いないんじゃなかったっけ……と思ってコメントを見てみる。
『!?』『えっ』『何今の』『ユニークモンスター』『マジで!?』『ウェルキンゲトリクスってなんだ』『?』『目撃情報出てるのって花螂と砂燼と半魂だけじゃなかった!?』『アナウンスされるのか』『おおおお落ち着けまだあわわわ』『鏡宴と砂塵もいるぞ。統機は知らん……』『ログインした』『今北産業』……
コメントもてんやわんやだった。
とんでもないことが起きたんだなぁ……なんて何処か他人事でその様子を眺めていると、続けてアナウンスが流れる。
[討伐者は『アイン=ソフォール』『ヘルメス=ヴィングレイス』『ガルヴァド=ガルヴァス』『カトレア=ルーハインド』『ノ=ラ』『ケルベラ=ロンド』…………]
次々に読み上げられていく名前には聞き覚えのあるものが多い……というかこれ全員【セフィロト】のメンバー?
聞いたことない名前があるけど、面識があるのは一部のメンバーだけだしそもそもセフィロトがどれくらいの規模のクランなのかも知らないのでよくわからない。
そういえばイクテュエスに連れて行ってもらった時に言ってたっけ。
……なんか私も渦中にいる気がしてきた。
そんな不安を裏付けるように、フレンドからの通知が鳴る。……ヘルメスからの通話だ。
念のため、配信に音声が乗らないようにしてから出る。
『やあ。アナウンスは全体に行っていたか?』
「うん。バッチリ」
『そうか……それなら手短に話すが、我々は先程ウェルキンゲトリクスに挑戦し、これを撃破した。撃破時に全体にアナウンスされるというのなら、きっとユニークモンスターの撃破はこれが初めてのことなのだろう』
確かにこれまでに討伐されていたらその時にアナウンスが流れているはずだし、誰かが既に倒しているということはない。
『今回ウェルキンゲトリクスからドロップしたのは全て素材だった。まだ何とも言えないが、ユニークモンスターは武器や防具を落とさない可能性がある。再戦は可能なようだから後々検証はするつもりだが……ともかく、素材で落ちるならそれを加工する人間が必要になる』
「……」
『ユーカリ=スターク。君にユニーク武器の製作を頼みたい』
まあ、そういうことになるよね。
……正直言って、不安は大きい。ユニークの名の通り、本当に唯一無二の素材である可能性もある。これまでに明確に失敗したことこそないけど、今回は本当に失敗はできない。
でも、だからこそ……不安以上の高揚感があった。
武器職人として、配信者として、期待には応えないといけない。
だから、私は自信たっぷりに言い切る。
「任せて。最高の武器を作るから」