第六十八話 嶽を廻りて
二話になる予定だったもののどこで分割するか悩んだ結果一話になりました。
いつもよりちょっと長いです
さて、今日も配信を始めよう。
今回の依頼人は出来上がり次第取りに来るということで今この場にはいないけど、既に具体的な武器の内容について話し合っているのでそれに関しての説明をしておく。
メイン武器種は刀で、サブ武器種は大太刀。
大太刀については読んで字の如く大きい太刀のことで、今回作るものも身の丈と同等の長さで作るつもり。
その上で、今回は更に[暴走]のUNITを使う。
このUNITは、一言で言うなら「デメリット付きの超火力」を実現するもの。引き金を引くとか解除コードを唱えるとかの行動をトリガーに発動し、一定時間武器が大幅に強化される。
その強化幅はかなりのものだけど、効果時間が切れると武器に一定時間の反動が来るというデメリットがある。
デメリットは二つ。武器の弱体化と、武器耐久力が徐々に減り続けるというもの。デメリットとしてはまあまあ重いけど、[冷却]のUNITで反動の継続時間を減らせるのでセットで適用すれば十分実用圏内だ。
ちなみに効果時間は自由に設定できて、強化幅は効果時間の長さに反比例する。つまり効果時間を短くするほど強化が強くなり、長くするほど強化が弱くなるわけだ。
厳密に計算したわけではないけど、常にダメージを与え続けられるという前提なら効果時間は長くしたほうが総ダメージが若干多くなる。
なら効果時間は常に長くしたほうがいいのかと言うとそんなことはなく、この辺は武器の運用方針に関わってくるところで、例えば大剣やハンマーなどのような攻撃と攻撃の間がどうしても空いてしまう武器種なら効果時間を削って威力を高めた方がいいし、逆に双剣のような手数で押す武器であれば効果時間を長くしたほうがいい。
「……って感じ。[暴走]は今までそんなに使ってないから一応詳しく説明したよ」
『なるほどなあ』
『助かる』
『効果時間どうなるの?』
「今回は大太刀だし、効果時間は短くするつもり。というか運用方針的には最短で良いくらいかな」
アリフラでの大太刀のポジションは、太刀よりもリーチが長く威力が高いが、鈍重で扱いにくいというもの。
まあ武器の扱いの難易度に関しては慣れとスキルの兼ね合いでどうとでもなるらしいしそこは置いておくとして、鈍重というのは覆しようがないので一撃に大きなダメージを乗せる方向でやるべきだと思う。
ちなみに[暴走]の効果時間は最短で一秒。短いといえば短いけど、そのくらいあれば問題はないはず。
大体どんなものを作るかは決まっているので、早速作っていく。
まずは刀身に使う金属に関してだけど、アリフラの……というかゲーム全般に言えるんだろうけど、素材として手に入る金属は後半のものになるほど硬くなっていく。
それはそれでいいんだけど、少し前にエボニーとおこなった検証の結果金属の柔らかさは一部武器の耐久力に作用することがわかっている。刀はまさにその一例で、必要な加工出力の高い素材で作ってしまうと耐久力が下がってしまう。
武器や防具は耐久力が0になっても破損状態になるだけで消滅はせず、修理することができる。しかし戦闘中に壊れてしまえばその戦闘では使えなくなるし、武器はインベントリの中でも別スロットに入れられるため大量に持ち歩くことはできないので、耐久力は高いほうがいい。[暴走]の反動で耐久力が削られてしまう今回の武器ではなおさらだ。
というわけで合金精錬釜を使っていい感じの金属を作る。
まず一つは海神鍛鉄。現状のアリフラで恒常的に入手できる素材の中では最も硬い金属で、正直普通に使おうとするとかなり使いにくい。
そこで、泥濘鉱石という金属を混ぜる。泥濘鉱石はもうあからさまに必要な加工出力が低く武器に使うのは難しいけど、合金を作るときに使えばもう一方の金属を問答無用で柔らかくできる。多分これが想定された使い方なのだろう。
両方を合金製錬釜にセットし、出力を調整。製錬釜が動作を始めて一分ほどで合金が出来上がった。固有の名がある合金ではないものの、海神鍛鉄が質の良い金属だからか合金の質も良くみえる。
「量も問題ないかな」
金属を並べて量を確認。少し多めに作ったつもりだったけど並べてみるとそこまでの余裕はないように見えた。とは言え足りなくなることもないだろうし、出力を過剰に高めた状態で大まかに形を整えて、それから出力を下げつつ叩いて加工していく。
刀系武器というのはとにかくこの工程に一番時間がかかる。まあ他の武器と比べると工程が少ないので太刀くらいなら一つ作るのにかかる時間はあまり変わらないんだろうけど、今回は大太刀なのでどうしても時間がかかってしまう。
コメントに返答しつつ、ある程度無心で金属を叩き続け、数十分かかってようやく満足のいく形に仕上がった。
肉体的な疲労はないけれど、単調な作業内容では精神的に疲弊する。まあ出来上がったものを見たらまた作りたくなるわけなんだけど。
さて、少し休憩してから、今度は柄に取り掛かる。
軽く耐久性に優れるカブロという樹木の枝を加工して柄の形にしたのち、ギシロザメの皮を干したものを巻き付ける。それから装飾用の糸を巻き付けていって、刀特有のあの菱形の模様を作る。
刀身と柄を結合し、バランスを確認。いい感じ。念のためにもう少し確認しておこうということで、大太刀を手に持っ……手に持って……手に…………
「いや持てないなこれ」
『諦めたwww』
『流石に無理でしょ』
『STR最低値のウィスドールに持てる代物じゃありませんわね』
武器職人には鍛冶神の加護によって自分が作った武器を持つときは重さが軽減されるという仕様があるけど、それでもなお重い。もしかして要求STRとんでもないことになってない? 一応依頼人のSTRは100近くあるようなので余程のことがない限り平気だとは思うけど……。
仕方ないので刀を持ち上げるのは諦めて鞘を作る。構造はまあ大きささえ合っていればシステム的にどうにかなるのでいいとして、見た目はちょっと凝っておきたい。
そんなわけで取り出したのは、夜光海岸エーレインで採ることのできるクオイラ貝という貝の殻。クオイラ貝は中身がかなり美味しいらしく梓萱が料理によく使うようで、時折余った貝殻を分けてくれる。
特に武器の素材として優れている部分はないものの、この貝殻は見た目がいい。表面には鱗のような層があり、青色や紫色の濃淡が夜空をテーマとしたステンドグラスのような模様を形作っている。そのままアクセサリーに使われることが多いというのも納得の見た目だ。
今回はこれを使って鞘の装飾を行う。
ノミのような道具でクオイラ貝を薄く削ると表面の層はぽろぽろと簡単に落ちていくので、その欠片を集めて、軽く溶かした鞘の表面に並べる。
『なんかおしゃれ』
『螺鈿ってやつか』
「うん。まあ作り方は全然違うから螺鈿風って感じだけど」
流石に職人技なので工程まで再現はできないけど、ゲームなので見た目の再現だけならできる。できあがった鞘を光にかざすと、揺れる波のようにきらめいて見えた。
鞘はこれで良し。最後の仕上げとしてUNIT化を施していく。
[暴走]の選択項目は効果時間と発動方法の指定。効果時間は最短の一秒に、起動方法は解除コードの詠唱に設定し、UNIT化を行う。次いで[冷却]のUNIT化も行うが、これは設定することもないのでメニューから選択するとすぐにUNIT化が完了した。
最後に刀を鞘に納めて、これで完成。あとは名前と解除コードは武器の名前と同じにしてほしいと言うことで、既に名前を決めてある。
「名前は廻嶽。由来は特にないけど、かっこよさ重視で」
『88888888』
『デカいなこれ。俺には使えなそう』
『鞘のデザイン好き』
『これ使ってるとこみたいな』
『フレーバーテキストの時間だ!!』
『七つの険山を巡る修行の果てに手にすることのできる秘伝の大太刀』
フレーバーテキストはどうしようかと考えつつ、武器を受け取りに来てもらうために依頼人に連絡しようとしたところで来客を告げるベルが鳴った。
目の前に頭蓋骨が現れたのが軽いトラウマになっているようで、シダが心なしかゆっくりとドアを開けて出迎える。
「どうも! 用事が終わって配信を見たら完成間近だったので来ちゃいました!」
現れたのは、濃い青色の髪を高めのポニーテールにまとめ、紫と桃色の入り乱れる着物を纏った色鮮やかな少女……というか今回の依頼人であるミタケだった。
「呼ぶ手間が省けたね。あ、もう出来てるよ」
「おおー! これが廻嶽ですか!!」
彼女は興奮した様子で金床の上の廻嶽をひょいと持ち上げた。力強いなあ。
「折角だし試し斬りとかする?」
「是非!!」
というわけで彼女を地下に案内する。
メニューからレベルに適した強さのマネキンを配置するとすぐに彼女の周りに小型の動物系モンスターを模したマネキンが現れて、早速ミタケは戦闘を開始した。
背負った廻嶽を肩にのせるような形で引き抜き、すぐに目の前のマネキンに一撃を浴びせる。その勢いのまま反転し、背後に迫る二匹を攻撃。
一対多の戦いであっても流れるような動きで少しずつ敵にダメージを与え、徐々に数を減らす。戦闘のことはあまりよくわからない自分にも、彼女の動きが綺麗なのはわかった。
『スキル使ってなくね?』
『よく動けるなあ』
『聞いたことない名前だけど有名なのかな』
『どうなんだろ』
『このゲーム、大太刀とかは必要STR超えてても重いんだよな』
このゲームでは同じ値のSTRを要求される武器でも武器種が違うとあからさまに重さが違っている。ナイフみたいな武器は軽々扱えるくらいの筋力がないとまともに使えないけど、大太刀みたいな武器は重さを前提とした立ち回りで扱うから、要求されるSTRが変わってくる……みたいな感じなのかな。
当然必要STRを大きく上回ればその辺関係ないのでわざと要求STRの低い大剣を持ってぶん回すタイプの人もいるらしい。
まあ重い武器は重い武器なりにそれを補うスキルがあったりするわけだけど、大太刀はそれが少ないようで結構扱うのは難しいのだとか。
さて、最初に出現したマネキンが全て倒されると、今度はさらに多くのマネキンが出現した。
ミタケは四方八方を取り囲むように現れたマネキンを見据えて深く腰を落とし、そして手に持った廻嶽の先を地面に軽く擦らせながら、体ごとぐるりと一回転して唱える。
「《渦潮封月》!!」
初めてのスキルの宣言によって彼女の体の回転は加速し、遠心力で浮き上がった廻嶽が並んだマネキンの悉くを両断する。
そしてその勢いを殺しつつ、彼女は何らかの歩法でもって一瞬で大型のマネキンに接近し、刀の名を叫んだ。
「廻、嶽!!!」
彼女の声に呼応して、刀身が赤く燃え上がるような光を放つ。
時間にして僅か1秒。その刹那に凝縮された[暴走]の閃光、廻嶽の一閃は、大型マネキンの腹部の中程に達し――爆ぜた。
「じゃじゃ馬ですね。すごく好きです!」
崩れた端から半透明になって消えていくマネキンを背に刀を鞘に納め、彼女はにっこりと笑ったのだった。
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廻嶽
武器種:刀/大太刀 必要STR:85
[暴走]、[冷却]、攻撃力強化+108、斬撃強化+43、範囲攻撃強化+9、破壊属性強化+2
身の丈ほどもある巨大な大太刀。研ぎ澄まされた刃はその力を秘めることなく、対峙した相手を威圧する。
廻嶽という名は山間を飛び回る鳥のような刀として名づけられたものだが、その鈍重さと破壊力はむしろ山そのものが暴れまわっている様子に近い。
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