第六十七話 フェイタリティ
FINISH HIM!!
配信の許可も得たので、早速始めて行こう。
一応作る前に軽く説明をしておく。
「今回はホラー要素のある剣を作るよ」
『楽しみ~』
『ホラーな武器?』
『武器にホラー要素??』
『なんか想像つかないな。チェンソーとかなら前に作ってたけど』
「多分、出来上がったのを見たらわかると思う」
まずは今回の武器のベースとなるものを作っていこうと思う。
横死竜骨を削っていき、短めの円柱のような形にする。それから円柱をラーニングでコピペし、それぞれ少しずつ削ったり増やしたりして形をばらつかせ、一列に連結。すこし歪な感じだけど、これが剣身の軸になる。
『なんだこれ』
『剣っぽくないな』
『蛇腹剣?』
「蛇腹剣ほど曲がったりはしないけど、若干しなるくらいはするかな」
次に別の横死竜骨を溶かして薄く固め、削って刃にして軸の左右に配置する。
軸と同じく刃も歪な形になっている。整っているよりかは、こういう風に歪んだりしている方がホラー感は出る気がするし。
少し突起のようになっている部分を増やし、それらしくしてから軸と刃を結合。これでひとまず剣身の形が完成した。
まだUNIT化の工程が残っているけど、先に柄の方を作っていく。といっても、やることも素材も大して変わらないんだけど。
今回のコンセプト的に全体の質感を統一したいので、柄に用いるのも横死竜骨。握る部分なので、流石にここは軸ほど歪にはしないでおく。
とは言え普段剣を作るときのような整っている状態にはしないけど。イメージとしては、人の骨みたいな感じ。というかもう言ってしまうけど今回は全部人の骨をモチーフにしている。
軸と垂直に交わる鍔の部分は鎖骨をイメージした作りにして柄と連結。続けて剣身と連結。いい感じ。
『ホラー要素のある武器って言ってたからまた怨嗟鉱使うのかって警戒してたわ』
『流石にもう懲りたんじゃね』
スッ、とインベントリからネルフラの怨嗟鉱を取り出す。
『ひえっ』
『嘘だろ』
『またやるのかよこれ!』
『懲りてなかったな』
なんて言われてるけど、私だって流石にもう懲りてる。
あの悲鳴を聞きながら作業するのは勘弁願いたい。だからこそ、今回は秘密兵器がある。
「これ、付けておいて」
シダとルイスに手渡したのは、使い捨ての耳栓だ。一昨日、NPCの道具屋が売っているのを見かけて買ってしまった。
まさか売ってるとは思わなかったけど、これさえあれば怨嗟鉱の悲鳴も無効化できるはず。試用とかしてないので普通に怨嗟鉱が耳栓の効果を上回ってくるかもしれないけど、その時はその時ということで。
『耳栓あるんだ』
『道具屋で買えるんだよね。使い捨てタイプだけど』
『あれ?』
『っていうか俺たちのは?』
「え、ないけど……」
制止してくるコメント達を後目に、私は怨嗟鉱の加工を始めた。
————
「よし、球体になった」
『地獄か』
『音どこ?』
『えぐ過ぎ』
『治りかけの鼓膜が!』
耳栓の効果は絶大だった。使い捨てとは言え、耐えられないレベルの騒音だったのがどこかで工事でもしてるのかな……くらいになるのは有能過ぎる。
店売りでこの効果なら、本職が作ったらどうなるんだろう。完全無音とかありそうだけど使う機会とかあるのかな。マンドラゴラモチーフのモンスターとかいてもおかしくないし、そういうときには戦闘職でも使ったりするのかも。
怨嗟鉱は中心部にコアみたいなものがあって、それに近づくほど聞こえる声が大きくなるらしい。つまり削るほど声が大きくなる。
コア付近まで削ったこの怨嗟鉱は指でつまめるほどのサイズだけど、振ればはっきりと聞こえる程度の声量を持っている。うるさすぎないくらいで丁度いい。
柄と鍔の交点に穴をあけて怨嗟鉱を埋め込み、これで見た目的にはほとんど完成した。
というわけで、ここから[振動]のUNIT化を施していく。
恐らくこのUNITはいわゆる『振動剣』を作るためのものなのだと思う。というかそれ以外にあまり使い道を思いつかないし。
ただ、そんな[振動]を今回は見た目だけに影響を及ぼすような形で使っていく。
剣身にスキルを使ってUNIT画面を呼び出し、[振動]を選択。
デフォルトでは小刻みに振動し続けるようになっているようで、ウィンドウの中で剣が細かくブレている。
まず、初期状態では魔力を流している間振動し続けるような設定になっているけど、ここを特定条件で必要な分だけ魔力を吸収して動くような設定にする。
具体的には抜刀してから一秒後。これで大体剣を構えた時くらいに動くようになるはず。動かすのはここだけだから消費MPもほぼ無い。
次に、振動の仕方を変えていく。
ここはもう具体的に資料を見ながら調整をしていくことにした。参考資料はまな板の上でビチビチと動く活きの良い魚。
少し時間をかけて調整していき、最終的にはかなり満足のいく動きに仕上がった。
UNIT化はこれで良し。
仕上げとして『眷属の血』という素材を使って所々を立体的に赤黒く塗り、これでようやく形が出来上がった。
最後に、これを禍剣にするための呪術的加工をルイスに施してもらう。
「最後の仕上げ、よろしく」
「うん、任せてほしい」
ルイスは私が作った剣を机に置くと、今まで使っていた剣を手にとって何やら呪文を唱え始めた。
そうして手に持った剣を三度振り、机の上の剣にゆっくり触れさせて――次の瞬間、手に持っていた剣にひびが入り、机上の剣がゆらりと怪しく煌めいた。
反応は徐々に激しさを増していき、やがてルイスが今まで使っていた剣が跡形もなく崩れ去ると、闇が爆発するようなエフェクトとともに剣身の一部に紋様が刻まれた。
呪術的加工はこれでできたらしい。
「これって古い武器を消費しないとできないの?」
「これ以外の方法もあるけど、こうすると武器の経験値みたいなものも引き継げるから便利なんだ。レアな武器でもなかったしね。それに今回は最初から禍剣として作られてたから崩れたけど、この剣みたいに後付けで禍剣になったものは呪いが抜けるだけになる」
なるほど。古い武器を消費しないといけないとしたらまあまあコスパが悪いように思えたけど、そういうシステムなら問題ないのか。
『完成かな?』
『確かにホラー感ある』
『なんか殺人鬼が犠牲者の骨を組み合わせて作ったみたいな感じ』
「武器としてはこれで完成だけど、真の実力はここからだから」
この武器のホラー要素は装備して初めて完成する。というわけでルイスに武器を装備してもらい、良い感じの位置になるように後ろから調整する。
背負うタイプの剣なら大抵は左右どちらかに偏らせる。しかし、この剣は縦一直線になるように背負うのを想定して作られている。
現実的に考えると抜きにくいことこの上ないけど、この世界ではどうとでもなる。そもそもどの武器も納刀すると磁石みたいな謎パワーで体にくっつくようになってるし。
背中に沿うような形で背負えたのを確認し、カメラの後に移動する。
「じゃあ、カメラに向かって抜刀してみて」
「ああ、分かった」
ルイスは髑髏の頭装備を装着してからカメラの方に向き直り、右手を頭の後あたりに持っていく。そうして背負った剣の柄を握りしめると、もう一方の手も使って引き上げるように剣を抜いた。
怨嗟鉱の悲鳴が上がり、光に照らされて赤黒い血がぬらりと光る。ルイスが剣を構えると、同時に剣身が二度三度と不気味に暴れた。
その一連の流れを見て、私は成功を確信した。
想定通り、この抜刀を前から見れば自分の背骨を引き抜いているように見える。
『!?』
『うわっ』
『背骨引き抜いてるみたいになってるwww』
『これそうなるのか!』
『動きがキモい』
『セルフフェイタリティじゃん』
『ホラーというかスプラッタでは!?』
「ホラーとスプラッタって違うの?」
その辺詳しくないのでよくわからないんだけど。ゴアとかもあるよね。
コメントの反応を見る私の横で、ルイスは同じ動きを鏡に向けて再度行い、満足そうに頷いた。
「まさかこうなるとは思わなかったよ……本当に驚いた。勿論良い意味でね。ありがとう。クランのメンバーにもお勧めしておこうかな」
そう言って、彼は笑顔を浮かべ――え、その頭蓋骨表情変わるの?
――――
脊剣バックボーン
武器種:直剣/禍剣 必要STR:56 必要MP:245
攻撃力+58、斬撃強化+16、呪力強化+15、闇属性強化+6、血属性強化+4
西方の村に語り継がれる伝承に、人の脊椎を引きずり出して武器として加工する狂気の武器職人の話がある。
この剣はその伝承をもとに作られたものであり、無論素材に人の骨は使われていない。
にも拘らず、この剣からは存在しないはずの犠牲者の悲鳴が夜な夜な聞こえてくるという……。
――――
フェイタリティ!
映画見に行きたいですね