第六十五話 魔法の銃
銃の知識が皆無なのでかなり時間がかかりました
これ以降銃は出さない……気がする
一発、二発――三発。
地下空間に乾いた音が反響し、人型のマネキンの胴体に二発、頭部に一発の弾丸が炸裂する。
「どう?」
「良い感じです! というか何の変哲もない銃ですね」
拳銃に弾を込めながら、シダが答える。
試用まで含めて私がやるつもりだったけど、《武器試用》を使ったうえで下手くそ過ぎてマネキンにかすりもしなかったのでシダに使ってもらっている。
まさか銃で使えるスキルが《リロード》以外ないとは思わなかった。いや、《武器試用》は全部のスキルを使えるわけではないので本当にスキルがないというわけではないと思うけど……どうなんだろう。現状銃をメイン武器にしている人が全くいないようなのでその辺のことはよくわからない。
『シンプルに銃だな』
『まあ銃だもんな』
『てかシダP上手くない?』
「確かに、銃使うのうまいよね」
「FPSは得意なんです!」
あの手のゲームはそんなにやったことないな。バトロワ的なものを何回かやったことはあるけど……ボコボコにされた記憶しかない。
「そういえばFPSって何の略なんだっけ」
『First Person Shooting』
『本人視点のシューティングゲームって感じ』
「へー。……ってことは本人視点じゃないものもあるの?」
『昔はあったんじゃよ』
『TPSってのがあったんじゃ』
『ああ、視聴者がおじいさんになってる……』
『昔の呼び方がいまだに残ってるみたいなのあるよね』
『ここが老人ホームですか』
視聴者の年齢層がよくわからない。
意外と幅広い層が見てる? いや、フルダイブって私が生まれたのと同じくらいに世に出た技術だったはずだし、20代くらいでもフルダイブ以前を知っている可能性は全然あるか。
というか私がフルダイブ以前について全く詳しくないだけかもしれない。
それはともかく、次に作る武器は何にしよう。
今日は珍しく依頼があまり入っていないので、時間には余裕がある。
もうちょっと銃の研究をしてみてもいいかもしれない。
出来そうなことは色々あるし、アサルトライフルとかショットガンとか作ってみたくもある。
ただ、せっかくならもっとファンタジーっぽいものを……それこそ[魔力装填]の方を試してみたい。
「次の武器は魔法銃かな」
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というわけで工房に戻って次の武器を作ることにした。
魔法銃。
銃とはいえ、魔法を扱う以上本質は杖に近い。そのため魔法の威力を高めるには魔導系素材を使う必要があるはず。
というわけで用意したのは純魔法銀。
アリフラでは地味に珍しい、既存の物質の名前を持つ素材だ。ミスリルがあるならオリハルコンとかアダマンタイトとかもあるのかな。あるなら使ってみたいところだけど。
さて、ハイミスリルは魔法の銀というだけあって魔法適性が高い。杖などには木のような素材を使うのでどちらかというと防具に使われることが多い素材だけど、今回は銃なのでこれが適している。
金属としては少し柔らかめに設定されているため加工はしやすいけど、銃に使う素材としてはどうなんだろう。
まあ、魔法銃に通常の銃と同じような反動があるかはわからないのでとりあえず平気だと信じておこう。
というわけで、握れる形状に整形したハイミスリルに[魔力装填]を試してみる。
「ん……思ったよりも項目は少ない?」
銃の時は[装填]の項目が多かったけど、魔法銃ではそこまででもない。まあそれでも説明を読まないとわからないような項目が多いわけだけど。
というか[射出]の方に項目が集中してるのか。
ざっと見てみてわかったのは、この[魔力装填]には自分自身のMPを消費するタイプと空気中の魔力を自動で吸収するタイプがあるということ。
魔法版の銃を作るためのものと思っていたけど、どうやら他にも使い方があるらしい。
MPを消費するタイプは想定していた通り魔法銃に使えそうだけど、魔力を自動で集めるタイプはMPを消費しない分一気にまとまった魔力を集めることはできないため、銃には合っていないように思える。その分溜め込めるMPの最大値が多いようなので、それはそれで使い道がありそう。
関連するUNITとして表示されているのは[射出]と[解放]の二つ。[解放]はチャージした魔力を一気に解き放つものらしく、自動収集タイプと組み合わせることができるらしい。時間経過で使える大技みたいになるのかな。
そっちも気になるけど、今回は銃を作ると決めたのでまたの機会に。
「色々あるけど、やってから考えればいいかな。魔力装填……っと」
切断面を設定して[魔力装填]のUNIT化を行うと、ハイミスリルから一枚の板が切り抜かれた。
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未完成カートリッジ
魔法銃における弾倉の役割を持つもの。
属性を与えることでカートリッジとして正しく扱えるようになる。
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あ、これが弾倉か。
説明によると、これを正しく使うためには属性を付与させる必要があるらしい。一瞬[属性付与]を使うのかと思ったけど、この場合は必要ないようでウィンドウには次の工程として付与する属性を選ぶという項目が表示されていた。
表示された属性は火や水などの基本属性。属性を与えないという選択肢はないらしい。何にしようかな。
純魔法銀はその名の通り銀のような見た目をしているものの、全体的に水色がかっている。銀の上に水色の薄い膜が張っているような感じで、膜は少しずつ揺れるように動いている。
ハイミスリルそのものに特定の属性を強化する効果はないものの、印象としては水属性が似合う見た目をしていると思う。
というわけで今回は水属性にしておこう。
選択肢から水属性を選ぶと、ウィンドウ上に滴型のマークが現れる。流れで承認すると、カートリッジにマークが刻印された。
見た目で属性を判断するためのものらしい。やっぱ付け替えが前提なのかな。
で、次は威力の設定……?
どうやら一発撃つ為にどのくらいのMPを消費するかを武器製作の段階で決めるらしい。
アリフラの魔法はMPを注いだ量に応じて威力が変わるというシステムなので魔法銃も同じだと思っていたけど……魔法銃だからこそのデメリットみたいなものかな。
結構使用感も変わってくるだろうし、依頼で作る時はあらかじめ聞いておかないといけない部分だ。
今回は依頼じゃないしとりあえず初期値でいいや。
これで魔力装填のパーツが出来た。前回作った拳銃と同様にグリップ部分をUNIT化しているので、あと作るべきなのは銃身部分だけ。
「銃身は結構長めにして、組み合わせると……こういうバランス」
『いい感じ』
『銃身長いな』
『見た目結構シンプル?』
『ハイミスリル、そのままでも見た目が魔法感あっていいな』
現実の銃のイメージから遠ざけた方がそれっぽくなりそうなので、銃身を長くすることでバランスを変えてみている。
あとは曲線をなるべく使わないようにしたり。何となくだけど、魔法銃は直線で構成する方がファンタジー感が出るような気がするし。
イメージとしては古代文明が作った謎の兵器みたいな感じ。……いや、アリフラの世界観だと古代文明が普通の銃作ってるのか。ややこしいな。
まあ形状は決まったので[射出]の設定を行なっていく。
設定項目は色々あるけど、全体の中心となっているのは射出タイプの設定。
射出口から魔法を生成して狙った方向へ飛ばす通常型、火炎放射器のような形になる放射型、着弾地点で一気に魔法が強くなる弾着型……などなど、色々と作れるらしい。
離れても威力が落ちにくい遠距離型や連続で魔法が発射される連射型などがあるし、通常の銃でいうところのアサルトライフルやスナイパーライフルのような下位カテゴリーにあたる部分を決められる……という認識でいいのかな。
今回は通常型にしよう。
他にも項目は色々あるけど、見た感じいわゆる『高度な設定』に分類されるような内容だったので割愛。
これで射出パーツが完成したので、あとは組み合わせて色々付け足すだけ。
魔力装填パーツと射出パーツの接続部には上から溶かしたハイミスリルを重ねて継ぎ目が見えないように。
銃身とグリップにはそれぞれ模様を彫り、銃身の方には青色の『海洋涙鉄』を、グリップの方には青みがかった黒色の『海底涅塊』を溶かして流し込み、模様の色付けと水属性強化を両立させる。
あとは細かいところを整えて……
「いい感じ。名前はPoisson-12にしようかな」
『88888888』
『なんかすごくそれっぽくなってる』
『こういうの好き』
『こういう魔法銃もありだな』
『魔法銃使えるジョブになりてえ』
名前はUNIT化能力の出所であるイクテュエスにあやかって、イクテュエスと同じく魚座を意味する「Poissons」に、12番目の都市ということでそのまま12をくっつけてPoisson-12とした。
『これならフレーバーテキストも思いつくわ』
『異星人の武器がエルセヴィータに流れ着いたもの的な感じでいこう』
『数年前に出土したオーパーツ』
『魔術的に説明のつかない構造をしている』
デザインがファンタジー寄りだからか今回はコメントがフレーバーテキストで盛り上がっている。
フレーバーテキストが思いつくってことは、その武器に背景を感じさせるだけの良さがあるということだし、今回は成功と言っていいと思う。
とは言え、銃系はちょっと鍛冶っぽくないし他にも作りたい武器種が色々あるので依頼されない限りは当分銃を作ることはなさそうだけど。
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Poissons-12
武器種:魔法銃 必要MP:364
カートリッジ:水属性
魔法強化+74、水属性強化+35、
妖しく輝く銀色の魔法銃。
形状や加工技術に謎が多く、古代人類が作ったものとも異星人が作ったものとも言われるが、未だにその出自は明らかになっていない。
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