第六十四話 Proto-1
『配信だー!』
『乗り込めー!!』
『うおおおお』
『今日は何すんのかな』
『ドドドドドドドドド』
威勢のいい視聴者たちが流れ込んでくる。
「前々から銃とか作れないかなって言ってたと思うんだけど、なんか作れそうになったから今日はそれ試していくよ」
『おお』
『このゲーム銃あんの!?』
『イクテュエス辺り別ゲーなんだよな』
『古代文明がどうこう』
『なんか二種類あるよな、古代』
「とりあえず、まずは新しく手に入れたUNIT化ってシステムを試してみようかな」
というわけで、今回は輕鋼合金に[装填]のUNIT化を施してみる。
正直言うと装填はこれ単体で動くようなものでもなさそうなので分かりやすそうな[回転]とか[振動]とかを試してみたかったけど、解放されていないので仕方ない。
「えっと……《UNIT STANDBY》」
ファンタジー感のないスキル名を唱えると、目の前にUNIT関連の情報が出たウインドウが現れた。
左側にスキルの対象とした輕鋼合金が表示され、右側にはUNIT効果の一覧が表示されている。
UNIT効果の名前のそばにはそれぞれ付与可能と書かれていて、どうやら素材によっては付与できない効果があるようだった。
ウィンドウを共有モードにし、カメラに近づける。
「こんな感じ。なんかデザインとか現代的だよね」
『へー』
『SF感が凄い』
『これどうやって習得したんだろう』
「UNIT化については秘密ってことで……場所は伏せるよ」
『場所?』
『場所ってことはなんか特定の場所でクエスト受けたりできるんかな』
『ほーう』
「……」
ヘルメスに「あのモノリスに関してはまだ隠しておいて欲しい」と言われたのでそうしているけど、我ながら隠すのが下手すぎる……自爆する前にとっとと製作に移ろう。
ウィンドウの右メニューから[装填]を選択すると、左側に表示された輕鋼合金の見た目が変化する。具体的には、インゴットの端の方をぐるりと回るように線が入っている。
気になってタップしてみると、輕鋼合金はその部分から分離して中から弾倉が出てきた。
「え、こんな物理的に作れるんだ」
なんかこう、銃のパーツに[装填]がついたやつがあったらリロードスキルで弾を込められる……くらいのものを想像していたので、普通にマガジンがそのまま作られるとは思わなかった。
へー……あ、弾の種類に規格とかあるんだ。まああるか。銃の下位カテゴリー毎に分かれているみたいなのでとりあえず拳銃弾に設定しておこう。
弾倉のタイプも回転弾倉や固定弾倉など指定できたり、単列だったり複列だったり……
「これだけで無限に遊べそう……配信の名前『私だけの最強の銃を作ろう!』にしようかな」
『ついに配信の正式名称が……』
『それはそれで興味はある』
『銃職人ユーカリだ』
『確かにずっと(仮)だけども』
ジョークです。
配信のタイトルはいつか変えるつもりで付けていたのに、なんかこれで浸透してる節があるので今更変えられない。
それはともかく、一旦実験として拳銃を作ってみようと思う。
弾倉はオーソドックスに着脱式。一般的な半自動式拳銃をイメージしているので、グリップに弾倉が収まる形にする。
となると、まず先にグリップの形を作るべきかな。
一旦ウィンドウを閉じ、インゴット状の輕鋼合金を加工していく。
ブラウザで資料を見つつ、握るには大きなインゴットから削り出すように形を作る。
握って太さを確認。大丈夫そう。
弾が入っていない状態でもまあまあ重いのが気になったけど、弾倉にするならその分中がくり抜かれるわけだし問題ないのかな。
流石に実銃は触ったことがないのでその辺りはよくわからない。多分もっと適した素材があるんだろうけど、まあ試作だしいいか。
出来上がったグリップを対象に再度スキルを使い、[装填]から諸々の設定を行う。
この大きさだと装填数は12発。拳銃ならこのくらいかな。どうやら装填数は空間魔法で増やせるようだけど、キャパシティ値を結構持っていかれる感じなのであまり実用的ではなさそう。
全ての設定を終えてウィンドウに表示された完了のボタンを押すと、グリップパーツにいくつか輝く線が表示され、それから選択した通りのものが出来上がった。
マガジンの内部を見てみると、弾は流石に入っていないらしい。弾はどうやって作るんだろう。武器職人って感じじゃないし、それ用の職業があるのかな。
さて、次は[射出]パーツを作る。
これは[装填]や[魔力装填]で装填したものを文字通り射出するためのもので、いくら装填してもこの機能を持ったパーツがないと意味がないらしい。
とりあえずこっちも輕鋼合金でいいか。先に銃らしい形を作っておいて、それからスキルを使う。ウィンドウには先ほどよりも多くの項目が表示されていた。
[装填]ほど決めることはなさそうだと思っていたけど……いや、[魔力装填]関連の項目が多いのか。実弾を消費するタイプの銃であれば、選択する部分はそう多くはないみたい。
口径は拳銃弾に設定し、位置を調整。
[装填]パーツと[射出]パーツをくっつけて、グリップやサイト部分にそれっぽく装飾を施し――完成。
「こんな感じかな」
『銃だ』
『銃だなあ』
『大丈夫? 世界観壊れてない?』
『名前は?』
「名前考えてなかったな。……試作機だし、Proto-1で」
――――
Proto-1
武器種:銃/拳銃 必要DEX:73 必要STR:40
攻撃力+93、射撃強化+23、貫通力+6、
――――
名実ともに銃の完成だ。ステータスはなんか微妙な感じだけど、銃を作れることが分かっただけで良し。
この前シダに見せてもらったAlpha-Regaloはもっとゲーム的に馴染んでいた気がしたんだけど……デザイン元に選んだのが現実の銃だったからか浮いてる感じがする。
次作るときはSFの銃を参考にしてみよう。もっとプラスチックみたいな質感がほしいし、まずは素材から探さないと。
「あー……ちなみにフレーバーテキストの案とかってある?」
『うーん……』
『えー』
『銃のフレーバーテキスト、無理じゃない?』
『まず根本的に量産されるものだからな』
『性能解説みたいになるよな。なんかの部隊が採用してる的な』
『この世界としてはオーパーツみたいなものだしそういうのも難しいよな』
『かつて王国の騎士がこの銃で竜を倒したという』
『拳銃で竜を屠るファンタジー』
『騎士が銃を持つな』
少し粘ってみたけど、結局それっぽいフレーバーテキストは出てこなかったのだった。
正直銃に関しては扱いを決めあぐねているところがあるというか、具体的に言うと攻撃力を弾丸依存にしたほうがいいかもしれない
銃そのものにつく強化は反動軽減とかそういうものが主になる感じで……設定が固まったらステータスが書き直されるでしょう。
まあ次一本作ったらそれ以降は銃出てきませんけど。
ちなみに武器職人の派生に銃職人というのがあります。