第七話 ミルキーウェイ
「まずは設備を確認しようかな」
とりあえず、炉の方を確認してみる。炉自体は職人ギルドにあったものと大差無いけど、金床の方はかなり形状が違う。
一般的に金床と聞いて想像するようなものとは異なって、机みたいな大きさになっていた。
このゲームにおける金床の役割は現実と違うので、広ければ広いほど良いともいえる。あとは高さとかも変えられるらしい。
あとは、金床のそばから手の届く場所にハンマーなどいろいろなものが置いてある。
並べられたハンマーは多種多様で、頭の形やサイズが異なるものなど、合計で十本以上あるようだ。
「ハンマーだけでも結構あるね。あんまり使い分け方とかよくわからないけど、まあ慣れるかな。そのうち」
『武器職人やったことないからよくわからないな。普通の金床じゃないのか』
『アイテムに魔力を流して形を変えやすくするためのものらしい』
『はえー』
『ハンマーって変形式のやつなかったっけ』
「変形式?」
「あー、最近見つかった奴ですね。レオーネの先のエリアのレアドロで入手できるみたいなんですけど、まだ数が少なすぎて流通してないんです。この手のアイテムは一つ先のエリアが解放されると入手しやすくなるので安定して市場に並ぶようになるんですけど、それまではちょっと難しそうです」
「なるほど。まあ初心者だしこういうのから始めるべきだよね」
『それ初心者が買える代物じゃないけどな。全部現状の最高級モデルよ』
「まじか」
『まじです』
『パトロン強いなあ』
『俺にもパトロンほしいんだが』
『お前がパトロンになるんだよ』
工房内には他にものこぎりとかやすりとか色々なものがあった。コメントによると結構限定的な場面で使うようなものもあるらしく、ここにはそういうものまであるらしかった。
まさに至れり尽くせりって感じ。
あとはこの素材ボックス。部屋の壁にくっつけられた状態で置かれたコンビニのアイスケースのような大きさのそれの中には、様々な素材が収められていた。
「とりあえず使いそうなものを入れておきました! それ以外で欲しい素材があったらいつでも私に言ってくださいね!」
そういう契約ではあるんだけど、流石に本当にいいのかなって気分になってくる。
まあ、それだけ期待されてるってことだと考えよう。その期待には作った武器で応えればいい。
というわけで、ここからようやく武器の作成へと移っていく。
この素材の中から何を使えばいいのか正直よくわからないけど、そこはコメントの出番。集合知の力で一応の方針を立てていこう。
「どんな素材が人気とかあるかな」
聞いてみると、すぐにコメントが流れてくる。
どうやらフォラエラというエリアで手に入るフィール輝鋼というものが人気らしい。
色のついている鋼で、色によって赤輝鋼、青輝鋼、黄輝鋼、緑輝鋼というような風に分けられるみたいだ。
加工出力(形状を変質させられるようになる出力)は一様に500。同程度の素材と比較すると低く、ベースとしては使いにくいものの、後から効果を付与したり外見を整えたりするなどには使いやすいのだとか。
となると今度はベースを決める必要があるけど……蒼黒骨って素材がキャパシティ的にもよさそうだ。
一先ず素材台に一通りのアイテムを並べてみて、そこから何を作るのかを思索する。
この環境では初めて作るわけで、ちょっと簡単なものから作りたいし、ここはダガーかな。ダガーなら使用する素材の量も抑えられるし。
「よし、じゃあ作っていくよ」
まずは蒼黒骨を配置し、金床のダイヤルを調整。
加工出力の情報がなかったので、少しずつ状態を確認するように出力を上げていくと、1000を超えたあたりで若干変質したのが見て取れた。
一番使いやすそうなハンマーを手に取り、一度叩いてみると、高い音と共に打ち負けたような反応が手に伝わってきた。
『もう少し出力上げてみても良いかも』
「そうだね」
ハンマーで叩いて反応を見つつ、ダイヤルを回す。
430が一番ちょうど良さそうなので、そこで固定して形を整える作業に入っていこう。
さて、ダガーと言えば、個人的には諸刃の印象がある。
一般的なナイフよりは長く、剣よりは短く。斬る事も当然できるけど、どちらかというと刺す方が得意。
柄も左右対称にしておくべきかな。
なんて考えながら、ハンマーを使い分けつつ大まかな形を作っていく。
別の金属を合わせる工程があるので、あくまでも大まかな形に。叩けば叩くほど良いってものでもないし。
「こんな感じかな」
『いい感じ』
『形整えるの上手いなあ』
『鍛治良くわからないけどこれで完成でもいいレベル』
結構好評みたい。
そしたら、次はベースに肉付けをしていく段階だ。
今回は刃部分に白輝鋼を、柄の部分に黄輝鋼を使うことにしよう。
ベースを金床から移し、出力を下げ、ベースと同じような形に輝鋼を並べていく。
その後出力を600まで一気に上げて強い変質を促し、ベースを重ねて整形。
出力は場所ごとに若干変えつつ、気に入った形になるまで整形を繰り返し——
「……うん、完成」
『すげえ』
『888888』
『完全人力でここまで出来るのか』
乳白色に輝く刀身と、落ち着いた金色の柄。
それぞれがうまく調和して、戦闘用というよりも儀式用っぽいダガーに仕上がった。
装飾フェイズでしっかりと研いでおいたのも上手く作用したらしい。やらなくても武器としては問題ないけど、やっぱりその方が見た目的にもいい感じになるよね。
『名前はどうするの?』
「名前? これって自動でつくんじゃなかったっけ。ショートソードの時はショートソードだったけど」
『最初のチュートリアルの時は勝手に名前つくよ。あとはオート作成の時とかもつくけど、マニュアル作成の時は基本全部名前つけられる』
「なるほど……というかこれマニュアルだったんだ。みんなこれでやってるんだと思ってたけど」
『みんな大体オートじゃね? マニュアルもいるにはいるけど』
『あんまり生産に時間かけられないんでしょ』
『生産職しか作れない装備を作りたいって戦闘職はオートしか使わないし、生産職もそれで生計立てようって思うと大量生産が基本になってくるしな』
「へー。うちが特殊なんだね」
『それはそう』
『ただデザイン重視の武器って今後絶対需要出てくるよね』
『オシャレ装備勢とかな』
まあ、何はともあれ名前をつけてしまおう。
あまり凝った名前は付けられそうにないし、ここは直感で付けようかな。
「じゃあ……[ミルキーウェイ]で行こう。理由は特になし」
『ええやん』
『色から考えたのかな』
『ちなみにおいくら?』
「いや、これは売るつもりないんだよね。シダ、ちょっとこっち来てくれる?」
「? どうしたんですか?」
「はい、これ」
そう言って、私は寄ってきたシダにミルキーウェイを手渡した。
「……えっ? え!?」
「私が一から作った初めての武器だし、シダに受け取ってほしくて。確か、ダガーなら商人も使えたよね。貰ってくれる?」
「…………きゅ、求婚……???」
「違うよ?」
『いやほとんどプロポーズでしょ』
『急にイチャつき始めたな』
『いいぞもっとやれ』
『寿命が延びた……』
なんかコメントの量が一気に増えたんですけど。
「国宝にします……!!」
「せめて家宝までにしておいて?」
「いや、国宝でも足りないレベルです……!!」
なんというか、予想以上に感謝されて正直少し困惑したけれど。
「本当にありがとうございます! 一生大切に使い続けますねっ!」
そんなシダの笑顔を見て、やってよかったなって気持ちになったのだった。