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第六十二話 イクテュエス



 mk3の名は伊達じゃなかった。

 空間魔法で拡張された馬車の中で、ふと外を見るとそのたびに様子が変わっていく。

 暗い森の中を走っていたかと思えば巨大な洋館の中にいたり、どこかの街を通り過ぎたと思ったら瘴気漂う荒野を進んでいたり。

 そんなこんなで1時間。目的地についたようなので馬車から降りると、門の先に綺麗な街並みが広がっていた。

 ファンタジー世界観のゲームでは港町みたいなエリアがよくあると思うけど、それを数倍大きくしたような感じだ。



「ここがイクテュエス?」


「いや、ここはその一つ前の都市アクアーリオだ。ちなみにあれがイクテュエス」



 ヘルメスが指さす先を見れば、鈍い銀色の島が海中から突き出すように存在していた。

 ここまでファンタジーな世界観だったアリフラに突如として現れた鉄の遺物は確かにSFの産物のように見えて、NPC達がこれを神の島と呼ぶのも納得がいく。


 アクアーリオの街並みを眺めながら海のある方向に歩いていきつつ、気になったことを聞いてみる。



「イクテュエスまでは船で?」


「いや、イクテュエスには海底から行く必要があるんだ。船で近づこうとすると、防衛システムが作動して沈められてしまう」



 そんな物騒なものが……。というか、海底からというのはどういうことなんだろう

 そう疑問に思っていると、シダが補足してくれた。



「この都市の守護神アクエル様の加護を受けると水中でも陸上と同じように動けるんです!」


「守護神……アリフラってそういうのもあるんだ」


「守護神は全ての都市にいるが、今のところアクエル以外はよくわかっていないからな。職業によっては他の守護神も関わってくるらしいが……と、見えてきたぞ」



 私たちが進む先にあったのは、大きな人型の像だった。

 大理石のような素材で作られているらしいその白い像は、流れる水のような髪をした美しい女性の姿で広場の中央に立ち、肩に担いだ水瓶からはとめどなく水が流れ出している。



「これがアクエル像だ。この水に触れることで、一定時間[水神の加護]が付く」


「なるほど……ちなみに、一定時間経ったら?」


「溺死か圧死だろう」



 えぇ……。

 まあ永続だと悪さできそうだし、多分この制限時間もステージギミックの一つ的な感じの調整がなされているのだろう。

 水を触ってみるとバフと同じ枠で加護が付いた。効果時間は6時間。意外と長いので余程の方向音痴でなければ溺死することはなさそう。


 全員が加護を受けてから、私たちは海中へ歩を進めたのだった。



 

――――



 瘴気海域ウェルドローム。

 イクテュエスから漏れ出ているらしい謎のエネルギーによって、生態系が既存のものからかけ離れたものとなっているらしいこの海域には、ゾンビのように動く人型の海藻や、トゲを飛ばすフグ、双頭のサメなど、海中に存在する生物が愉快に変化したようなモンスターが蔓延っていた。

 イクテュエスは最後の都市ということで、つまりこのエリアもメインで訪れる場所としては最後のエリアとなるのため相応に敵も強い……はずなのだけど。



「《ラプチャーアロー》」


「《螺旋衝攪》!」



 カトレアの放った矢が巨大なタコの側頭部に突き刺さって爆発し、直後に竜巻のような斬撃が飛来する。

 当たった場所を強制的に弱点にするラプチャーアローと、弱点ヒット時に倍率が跳ね上がる螺旋衝攪。この凶悪な組み合わせをもろに食らった巨大タコは吐血するかのように墨を吐くと、機械のように変化した八本の足を小刻みに振るわせ、それきり動かなくなった。

 戦闘を開始してから10分もかかっていない。このタコ、エリアボスなんだけど……。


 二人の戦闘力の高さに驚きつつ、ボスエリアから先に進むと、ウェルドロームの根元に着いた。

 海底から見ると島と言うよりも何か巨大な建造物のようにしか見えないな。海藻が絡みついていたり、人間の頭部ほどの大きさのフジツボが側面にびっしりとついていたりでその詳細はよくわからなかったけど、扉のようなものや窓のようなものがある。自然に生成されたようなものでないことだけは確かだ。


 ヘルメスが何やら操作盤のようなものに触れると、側面に存在していた扉がスライドするように開く。扉をくぐると、どういう理屈か内部には水がない。

 慣れた手つきで扉を閉め、先を進んでいくヘルメスについていくと、やがて巨大な空間に出た。

 一切モンスターと戦うことなくたどり着いた最後の都市イクテュエス。その内部の光景を目の当たりにして、思わずつぶやく。



「これ、本当にアリフラ……?」



 すべてが金属でできた地下空間は地面や壁面に埋め込まれた明かりによって外と同じくらいの明るさに保たれていて、自動で動く扉や、明滅するランプなど、もう別ゲーと言って差し支えないんじゃないかというほどに文明レベルの異なる空間だった。

 そんな空間の中をファンタジー装備のプレイヤーやNPCが歩いているのはなんか違和感がすごいな。


 ちなみに、イクテュエスには最初NPCが一人もいなかったらしい。まあ、海底ルートでしか行けないような場所にNPCがいるはずもないし当然ではあるけど、ではなぜ今それなりにNPCがいるのかというと、これは移住クエストというものを行った結果らしい。

 プレイヤーがイクテュエスに足を踏み入れて以降、各地でイクテュエスへの移住に興味を示すNPCが現れるようになった。

 そんなNPCを護衛し、無事にイクテュエスまで送り届けることで定住させることができるのだとか。



「……そういえば、銃に関係しそうな情報っていうのは?」


「ああ。この先にある」



 先に進めば進むほど、プレイヤーの数は少なくなる。

 まだ調査があまり進んでいないらしい区画で、安全が確保できていないためらしい。

 そんな区画の、とある部屋。体育館ほどの大きさのその部屋の中央には暗い青色の大きなモノリスが佇んでいて、それを取り囲むように様々な機械が並べられていた。



「モノリスに手をかざしてみてくれ」



 言われた通りモノリスに手を伸ばすと、触れる寸前でモノリスに青白い光がともった。

 光はモノリスの表面に刻まれていた溝を駆け巡っていくつかの線を描き、それから私の手をスキャンするかのように動いた。

 これは何をしているんだろう。疑問を口にするよりも早く、モノリスの表面に半透明の板のようなもの――というか仮想ウィンドウが浮かび上がってきた。

 


『データベース:アストラルへのアクセスが完了しました』

『ようこそ、アストラルへ』



 そんな言葉が現れたかと思うと、すぐに表示が切り替わって『脳波検索を開始します』という言葉に置き換わり、さまざまな情報が目では追い付かない速さで展開されていく。

 かろうじて『重火器』や『現代武器』などの文字は読めた。その他にも一瞬表示される図のようなものはやはり武器の作り方を示しているようで――



[鍛冶技術『UNIT化』が開放されました]



 情報の展開が止まったのと同時に、そんなメッセージが表示されたのだった。



移住クエストをやるたびにボスと戦うことになるので、何回も移住を成功させた二人の動きは完全に最適化されていました。

普通なら相当強敵です。

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