第五十四話 オーダーメイド
四章開始です
武器生産は次回から
エボニーとのコラボから、ゲーム内時間で約二ヶ月。
配信の効果があったのか、はたまた生産職を増やそうという運営の涙ぐましい努力が実ったのか、武器職人を見かけることは以前に比べ多くなった。
それに伴って、武器を求めるプレイヤーにとっても私以外の選択肢ができたため、今までのような依頼はかなり分散しているように感じる。
なら、仕事は減ったのかというと……そんなことはなかったり。
数日前、アリフラのプレイヤーはついにある都市に到達した。
水の都アクアーリオから瘴気海域ウェルドロームを超え、辿り着いたのは神の島イクテュエス。
エアリーズから数えて12番目の、正真正銘最後の都市だった。
それを聞いたときは、ついにそこまで……と思ったけど、アリフラの世界は広い。これまで通ってきたルートから逸れれば、推奨レベルが現在の最高到達レベルの倍近くあるエリアやダンジョンがあったりするらしい。
イクテュエスまでたどり着いたプレイヤーはそういうエリアに挑戦していくのだろうけど、やはりメインとして設定されたエリアを行くのとは訳が違うようで。
これまでドロップ品やクエストで入手した装備で攻略していたプレイヤーたちは、ついに既製品から脱却し、オーダーメイドの装備を求め始めた。
そう、生産職の需要が爆発したのである。
これをきっかけに生産職を始める人が増えたのは、生産職の掲示板の流速が目に見えて速くなったことからも明らかで、いずれは供給も間に合うようになるはず。
ただ、魔剣を作るときに武器職人から武器匠に転職しないといけなかったことからもわかるように、強い武器を作るには相応に強い職人でないといけない。
そんなわけで、必然的にトップ層はレベルの高い武器職人に依頼し……結果、いち早く武器職人を始めていた私に依頼が集中しているのが現状だった。
そうなってしまっては、従来のスタイルでやっていくのは難しい。
そんなわけで、私は武器の生産を完全受注に絞ることにしたのだった。
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「よし、完成。名前は……煉極蓮斧にしようかな」
火属性の戦斧として依頼された本日6本目の武器を作り終え、私はソファに横になって少し休憩することにした。
寝っ転がった状態でウィンドウを操作して、メモ帳を開く。武器のアイデアをメモするというのを、最近は意識的に行うようにしている。
武器を作りながらでもアイデアは容赦なく思い浮かんでくるので、逐一メモしておかないといけない。
「次は何時だっけ」
「15時に一人です! ここの通りに最近『仙峰華』って名前のお店が出来たんですけど、依頼人はそこの店主さんですね」
「そっか。じゃあ、そんなにゆっくりしてる暇はないかな」
完全受注式にしたことに伴って、依頼も予約制となった。対応するのもレベル20以上のプレイヤーのみ。
ほとんどのジョブはレベル20で別のジョブになるので、そこを区切りとしている。それ以下なら私じゃなくても作れるし、今必要な人の分を優先するためには仕方ない。
まあ、そうしていても追いついていないのが現状なわけだけど。だれか後続の育成とかやってくれないかな。
「大変だったら、もっと減らしても問題ないと思いますよ?」
「大丈夫。忙しくはあるけど、楽しいし」
結局、自分としては武器を作れるだけで楽しいし、できる限りは作っていきたいと思ってる。
……と、ここでふと気になったことがあって、シダに聞いてみた。
「シダは、楽しい?」
自分の意思とは言え、私のパトロンという立場にいて、シダは楽しいのだろうか。
ゲームなんだから、他にできることはいくらでもあるし、楽しめることはたくさんある。
もしかしたら、楽しかったのは最初だけで、今はもう飽きているのかもしれない。
そんな考えが渦巻いて、徐々に大きくなっていく。
……明らかにネガティブになってるな。
良くないことだけど、こうなってしまうと中々元の調子に戻らないというのも、自分のことなので理解している。
どうしよう。
楽しいかどうかとか、聞かなければよかった。
そう後悔する私の前で、シダは底抜けに明るい笑顔で答えた。
「もちろんです! 先生が作る武器をこんなに間近で見れるなんて……楽しくないはずがありません! それに、先生と一緒にいれるのも楽しいですし」
「……っ。そっか。それなら良かった」
本当に楽しそうにそう言うから、そこで私はもう何も言えなくなった。
いつも通り、考えすぎで溜め込みすぎだったのだろう。それに、シダのことを信じられてもいなかった。
良くない思考を断ち切るために頭を振って、それから頬を軽く叩く。
「シダのためにも、頑張らないとね」
これも一種の依存関係ではあると思うけど、今はまだシダに寄りかかる形でいさせてほしい。
そんなことを考えているうちに時刻は15時を回り、それと同時に工房のドアが勢いよく開いて——
「よろしくアルー!」
妙な口調の少女がやってきたのだった。