第六話 ユーカリ、初配信
VR日間五位ありがとうございます!!
配信のコメントについてなんですけど、「ゲーム専門配信サイトという一種の閉鎖的空間ではかなり前のネットスラングが未だに根付いている場合がある」という設定のもと、ある程度今風の表現が多く出てきます。ご了承ください。
最初は「www」とか「草」みたいなものの代替表現まで考えようとしてたんですけど、わかりにくいですからね。
金床の前の椅子に座り、角度を調整。
こほんと咳払いをしてから、映像と音声を接続するボタンをタップする。
「えーっと、聞こえてる? 配信って初めてだからよくわからないんだけど……」
『聞こえとるよ』
『わこつ』
『聞こえてる』
『生産職が放送? 珍しいな』
『がんばえー』
「おー、一気にコメントが来た。大丈夫そうだね」
配置した位置固定カメラの向こう側で、シダが配信を確認しながらぐっと親指を突き立てた。
とりあえず配信面での不備はなさそう。とは言っても、私としては問題だらけなんだけど。
正直あまり配信とか見るほうではないので、何を話したらいいのか。というか「わこつ」って何?
「ねえ、これ何話したらいいの?」
『俺らに聞かれても』
『初心者っぽくていいねえ』
『好きなタイプは?』
「好きなタイプ? 全然考えたことないけど、うーん……趣味の合う人? いや、あまり干渉してこない人かも」
『真面目に答えるのか……』
『ネット初心者っぽい?』
『まずは服を脱ぎますとか言うなよ』
思ったよりもコメントの流れが速いな。
助けを求めてシダの方に目を向けると、何やらフリップのようなものにさらさらと字を書いてこちらに見せてきた。
[自然体でOKです!]
その自然体が難しいんだって。カンペはありがたいけど。
配信って難しいんだな……なんて考えつつ、私はここに至るまでの経緯を振り返ってみた。
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シダの支援を受けることにした私は、早速この後のことについて聞いてみることにした。
「ところで、なにか契約書とか書いたりするの?」
「そうですねー……一応そういうアイテムもあるんですけど、あまり融通が利かないんですよね。必要ならゲーム外の手段で作りますよ」
「そっか。ゲーム内での関係だし、私は別になくても気にしないかな。契約を破るような人には見えないし」
「もしかして口説かれてます!?」
「口説いてない。どこをどう解釈したの」
相変わらずと言えば相変わらずだけど、だからこその安心感があるのも確かだ。
「とりあえず、今後の方針なんですけど……まずは場所を移動したいですね。ここは最初のエリアなので人は多いですけど、バリバリやってる人はみんな最前線にいますから。初心者は大抵店売りの武器で事足りますからね」
「なるほど、確かに。最前戦ってどんな場所なの?」
「現状の最前線は首都レオーネってとこですね。始まりの都エアリーズ、石の都シュティーア、森の都ツヴィリング、芸術の都カンセールときて、五つ目の都市です」
「へえ……もしかして十二星座モチーフ?」
エアリーズは牡羊座(Aries)っぽいし、カンセールは蟹座(cancer)っぽいし、レオーネはそのまま獅子座(leone)だし。
「鋭いですね。今のところ主要な都市はいずれも十二星座の名前を使ったものになっています。都市が十二個あるとすると、まだ全体の半分にも満たない感じですね」
「ちなみにレオーネまで徒歩でどれくらいかかるの?」
「最短距離でも一日ですね。基本的には都市と都市の間に小さな街があって、そこをテレポート地点として登録しつつ進んでいく感じなので。あと強制的にエリアボス戦が入るので、それを考えるともう少しかかります」
「結構かかるね」
「そんなわけで用意したのがこれです!!」
バーン! と効果音でもつきそうな動きでシダが指さしたのは、一台の馬車。馬はいないけど、結構しっかりとした作りになっているように見える。
「これで行くってこと?」
「はい! 精霊馬を借りれば一瞬で行けちゃいますよ! エリアボス戦はどうしても発生しちゃうのでそこはどうにかしないといけませんが、途中までなら私一人でも倒せますし、無理そうだったら人を雇いますのでご安心を!」
馬車って一度乗ってみたかったんだよね。精霊馬は実際の馬とは違いそうだけど。
というかシダって強いのかな。職業は大商人らしいんだけど、商人って戦闘職っぽくないし、それで一人でボス倒せるってことは結構強いのかも。
「ちなみにこの馬車、ただの馬車じゃないんですよ!」
「通販番組みたいになってきたな……入ってみてもいい?」
「どうぞ!」
ガチャっと扉を開けて馬車の内部に入ると、そこに広がっていたのは大きな工房だった。
「……ん?」
一旦外に出て、馬車の大きさを見てみる。
もう一度馬車の中に入る。広い工房。明らかに馬車よりでかい。
「これどういうこと?」
「空間拡張の魔法がかかってるんです! ちょっと値段は高かったですけど、内部を工房にすれば移動と生産を同時に行えますし、必要な出費です!」
「空間拡張……便利だね。え、じゃあもうこの中で武器作れるってこと?」
「はい!」
「じゃあ早速作ってみようかな」
「あ、それでしたら配信のテストもやってみましょう! カメラとかはもう用意してあるんで!」
「準備が早い……」
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……と、こんな感じに急遽テスト配信をしてみることになったのだ。
正直心の準備とかできてない。タイトル名を考える時間もなかったので、とりあえず【ユーカリの武器製作生配信(仮)】としておいた。
かなり雑だけど、テスト配信だし、タイトルは後からどうとでも変えられるから別にいいかな。
なんて考えていると、不意に良さげなコメントが流れてきた。
『なんで配信を始めようと思ったのかとか、今後どんな活動をしたいのかとか話してみたら?』
「あ、ナイス助け舟」
そういうこと話せばいいのか。それなら私にも出来るぞ。
「配信を始めたきっかけは……なんだろう、これどう説明するのがいいのかな」
『詳しく!』
『聞くも涙語るも涙の物語が……』
「武器職人のチュートリアルでショートソード作ったんだけど、それが美しいからって理由でパトロンが付いたんだよね。資金援助とか場所の提供とかしてくれるやつ。で、援助の代わりに配信とか始めてみませんかって感じ」
『パトロン?』
『そういうイベントじゃなくてプレイヤーが?』
『すげーな』
『詐欺じゃないの?』
「ねえやっぱ詐欺って言われるんだけど……」
「視聴者の言葉も真に受けちゃダメです!!」
『!?』
『誰だ今の。彼女?』
『件のパトロンかな』
『コメントを真に受けたやつから死んでいく』
「えっと、今のが私のパトロン。シダっていう人です」
「わ、私の説明はいいですって!」
『面白いことするんだなあ』
『プロデューサーみたいな感じ?』
『シダPだな』
『シダP(atron)』
『シダPwww』
「シダPだって。私より先にあだ名ついたね」
「先生の配信なんですから、先生が目立ってください!」
「まあ、そうだね。それじゃあ折角だし、武器作っていこうか」
『待ってました!』
『期待』
『どんな感じなのかな』
そんなわけで、私は新たな設備の確認も兼ねて武器を作ってみることにしたのだった。