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第五十三話 白き撃盾



「で、ここからどうするの?」


「さあ? 私はてっきり、結晶を嵌めたら合体するものだと思っていたのだけど」


「えー」



 正直に言うと自分もそう思っていたんだけど、よくよく考えてみれば嵌めただけで合体してしまうと事故が起きかねないので、まあそういう感じなのだろう。



『なんだろうな』

『重ねてみるとか?』

『唇を?』

『剣で盾に斬りかかるとか』

『ここで誓いのキスをだな』

『なんか合体ボタンみたいなのないの』



 キスをさせたがる謎の勢力は放っておいて、とりあえず剣と盾を重ねてみることにした。



「えっと、こう?」


「変わらないわね」


『なんか紋章みたいな配置』

『剣と盾交わりし時、扉は開かれん』

『雰囲気でいこう』



 重ね方が悪いのかな、とか考えて向きを変えたりしてみるものの、特に変化する気配がない。

 他に方法も考えつかないしな……と考えながらカチャカチャやっていると、結晶部分が少し強めに当たってしまった。

 流石にそこまで脆くないとは思いつつも、欠けたりしていないかを確認する為に剣を裏返し——どろり、と。

 そんな効果音が聞こえてきそうな動きで剣が液状化したかと思うと、私の手から零れ落ちるよりも速く盾へと吸い込まれていった。



「うわっ」


『!?』

『おっ』

『急になんかきたww』

『!!!』



 予想外の動きに、思わず固まってしまう。



「なんか……出来たっぽい?」


「そうね……動きは予想外だったけど」


『流石に成功だよな?』

『なんかすごい』

『ぶっちゃけ動きがキモい』

『這い方がね……』



 酷い言われようだけど、私もちょっと気持ち悪いと思ってしまったので何も言えない。

 うわって言っちゃったし。


 ただ、この現象が起きた時点でほぼほぼ成功のように思えるし、そのまま動作確認に移る。

 今回はシダに任せようかと思ったけど、お金を消費して攻撃するスキルしか持っていないようなので、前と同様エリスが撃盾に攻撃することになった。


 撃盾をマネキンに装備させてから、エリスは手に持ったオリエントブルームを横一文字に振り、刃を露出させてから構え直す。


 そういえば、作った武器を実際に使っているところを見たことはほとんどない気がする。それこそ、聖剣ヴィドランゼくらいかも。

 結構貴重な機会なので、ちゃんと見ておこう。



「では、行きます」



 そう言って彼女は撃盾に狙いを定め、軽く息を吐いてから、大きく弧を描くようにオリエントブルームを振るった。

 鋭く風を切る音が、直後に響く金属の接触音にかき消される。

 目で追うのがやっとなくらいの速度で繰り出された斬撃が撃盾と五度かちあって、そこで結晶が光り輝いたので、エリスはくるりと得物を反転させ、軽く地面を叩いて刃を納めた。



『カッケー!!!』

『めいどつよい』

『バトルメイドって凄まじいな』

『メイドの姿か? これが……』

『ファンになった』



 コメントの反応が良い。人は皆メイドが好きなので当然と言えば当然ではある。



「ふふっ、みんな貴女のことを格好良いと言っているわよ」


「それは……ありがとうございます」



 エリスはいつも通り冷静でいようとしているようだったけど、お辞儀をする彼女の耳は真っ赤だった。隠しようがないくらい照れてる。



「さて、じゃあ撃盾は一旦ユーカリに装備してもらおうかしら。武器にも試用スキルはあるわよね?」


「うん。これに使えるかは分からないけど」



 実際に《武器試用》を試してみると、特に問題なく装備することができた。

 撃盾だからなのか、それとも普通の盾でもそうなのかは分からないけど、とりあえずよし。



「えっと……スキルを使えばいいのかな」



 チャージメーターなどの増えたUIを確認しつつ、スキルの説明に従って撃盾を展開させてみる。

 撃盾を高めに構え、それから一息に振り下ろすと、先ほどまで金属の塊であった盾は一瞬のうちに液体のようになり、振り下ろし終わる頃には、撃盾は先ほど私が作った剣へと変化していたのだった。



『うおっ』

『そうなるのかこれ!』

『面白いな』

『思ったよりもカッコ良かった』

『おおおおお』

『完成じゃん!』



 撃盾の動きに合わせて、コメント欄が追いきれないくらいの速度で盛り上がっている。

 もう一度剣から盾に変形させたりしつつコメントを見ていると、オリエントブルームを携えたままのエリスがやってきて、エボニーに告げた。



「あと1分程でネコミミの配信が始まります」


「あら……早く終わらせないといけないわね」


「ネコミミって?」


「今アリフラで一番人気のある配信者よ。多分、今いる視聴者を根こそぎ持っていかれるわ」


「えっ」


「時間がないわ、武器の名前を決めてしまいましょう。できれば貴女に決めて欲しいのだけど」



 武器の名前……全然考えてなかったな。

 良さげな言葉を調べる時間とかもなさそうなので、手早く造語で作ろう。



「じゃあ、名前は『白盾カリューエル』で。フレーバーテキストは……いつもの人たち、よろしく」


『よっしゃ出番だな!!』

『任せろーバリバリ』

『ヒャッハー!!!』



 高速で流れていくフレーバーテキストと本当に徐々に減りつつある視聴者数を見ながら、私たちは手短に締めの挨拶をした。


 そんな感じで大変慌ただしい締めになったけど、時間ごとのアリフラの配信ランキングで一位になっていたり、チャンネルの登録者数も大幅に増えていたりで、今回のコラボは大成功と言っていい結果で終わったのだった。



————

白盾カリューエル

武器種:撃盾 必要STR:59

撃盾変化『流動』

盾形態:防御力+54、闇属性耐性+6、弱体防御率+4、ダメージカット+3、吸光装備、吸光効果『闇耐性』

剣形態:攻撃力+54、斬撃強化+7、光属性強化+5、闇属性特攻、吸光装備、吸光効果『光属性』


陽光で形作られた聖なる盾。

光を吸収し、闇に対抗する性質を持つ。

また、その身に受けた傷を食らい真の力を解放すれば、盾は忽ちに変貌し、闇を斬り払う武器となる。

————


——





「これでよし、と」



 アーカイブを公開して、これでようやく今回のコラボが終わったという実感が出てきた。

 なんというか……配信の大変さが改めて分かった気がする。この規模の視聴者の前でいつも配信してるエボニーの凄さも。



「お疲れ様。そっちも終わったみたいね」


「うん。エボニーもお疲れ」



 カリューエルを店に展示してきたらしいエボニーが戻ってきて、金床を挟んで私の向かいに立った。


 ちなみにシダとエリスはここにはいない。

 何やら私とエボニーの知らないところで打ち上げのようなものを企画していたらしく、先に行ってその準備をしているらしい。

 私たち同様、あちらもサプライズを企画してたというわけだ。



「それにしても、良い相棒を持ったわね」


「それはお互い様」


「ふふっ、確かにそうね」



 エボニーは優しい顔で微笑んで、それから何やら懐から箱を取り出して、口を開いた。



「貴女に貰って欲しい物があるの」


「貰って欲しい物?」


「ええ、これなのだけど……」



 そう言いながら彼女はウィンドウを操作して箱を解除し、アイテムを手渡してきた。

 受け取って見てみると、濃い茶色のシックな手袋だった。



「鍛治用の手袋よ。似たようなものを作る機会があったのだけど、これは貴女にも必要な物だと思って作ったの」


「ありがたいけど……良いの? 私、何も準備してないけど」


「良いのよ、私が貰って欲しいって言ってるんだから……」



 エボニーは小さくため息をついて、再度口を開く。



「貴女って対等とか平等とか、そういう言葉に拘るタイプよね。その気持ちは分からなくもないけれど、こういうのは素直に貰っておくのが礼儀よ。私は見返りなんて求めていないわ」



 そう言われると、流石に受け取るしかない。

 装備してみると、シンプルに見えて意外と凝った作りになっているのがよくわかる。なんというか、エボニーらしい装備だった。



「鍛治に必要そうな能力は一通り揃ってるわよ。耐熱とか、絶縁とか」


「おー……丁度こういうの欲しかったんだよね」


「でしょうね。この前の配信で熱い素材に苦労してたもの。というか、それを見たから作ったのよ」



 熱い素材……というと、熱塊ガガルのときかな。

 確かにあの時はかなり苦労した記憶がある。この手袋があれば、ああいう素材を使うのも楽になりそうだ。



「ありがとう、エボニー」



 その言葉に続けて「今度ちゃんとお礼をする」と言いかけて、先程のエボニーの言葉を思い出し、一瞬考えてから一言「大事にする」と言ったのだった。

三章終わりです!

実生活が忙しくなりすぎて更新が滞っていましたが、どうにか整ってきたので徐々にペースを戻していきたいです。


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