第五十一話 攻防一体
一話投稿して力尽きる動きから脱却する為にすこし書き溜めてきました。
寝過ごさなければ次の話が今日中に出ます。
寝過ごしたら明日出ます。
「じゃあ、次が最後かな」
「ええ。コラボの締めにふさわしい物を作るわよ」
サプライズとなったプレゼント企画を終え、私たちは今回最後の製作に移る。
先ほどまでは、武器と防具、それぞれが担当するものを作っていた。
しかし、これから作るものはそうではない。
「撃盾という装備を知っているかしら」
エボニーの視聴者への解説を聞きながら、私は打ち合わせの時のことを思い出していた。
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「ゲキジュン? 聞いたことないけど……漢字?」
「ええ。撃破の撃に、盾ね」
エボニーの工房にて。テーブルを挟んで向かいに座るエボニーの言葉に、私は首を傾げた。
撃盾……盾ということは防具? 撃と付いているところは武器のようにも思えるけど。
「装備としては盾に分類されるけど、同時に武器としての性質も併せ持つ装備よ。私も深く理解しているわけではないけれど……実物があるからそれで説明するわ」
そう言って、エボニーはインベントリから大きな盾を取り出した。
黒を基調とした、上半身を覆い隠せるほどの大きさの盾だ。中央には、淡く光る赤い結晶が据えられている。
シンプルでかっこいいけど、普通の盾との違いは特に見つからない。
「普通の盾に見えるけど」
「ええ、見た目はただの盾だもの。エリス、この盾に攻撃してもらえるかしら」
エボニーがマネキンに盾をセットすると、エリスが何処からか取り出した薙刀を持ってその前に立つ。
メイド服に薙刀というのは少しアンバランスではあったけど、これはこれでかっこいい。
「では、失礼します。——《磔閃》」
彼女の体が一瞬動いたかと思うと、次の瞬間には鉄の打ち合う高い音がうねる様に響き、払い下ろされるように弧を描く金色のエフェクトが舞った。
「もう一撃ね」
「承知いたしました。——《掠溂》」
再度、同じ光景が繰り返される。
動きが速すぎてよくわからないけど、何かのスキルを使っている……のかな。
戦闘には疎いのでよくわからない。ただ、薙刀を振るうメイドというのはかなり様になっていた。
……と、エリスの動きに見惚れていて気付くのが遅れてしまったけど、攻撃を受けた盾の方を見てみれば、なにやら中央に収められた赤い結晶が輝きを増しているように見えた。
その様子を見て、エボニーが頷く。
「問題なくチャージされているわね。ありがとう、もう大丈夫よ」
「恐れ入ります」
深く礼をして、それからエリスは流れるような動作で薙刀をインベントリに収めた。
今更だけど、メイドって薙刀も使えるんだ……。
「さあ、見ていて頂戴。撃盾がどういうものなのか、きっとすぐに理解できるはずよ」
エボニーは両手で盾を持ち、その状態で何やら操作をして——次の瞬間、盾に幾つかの線が走った。
線は全て真っ直ぐで、ヒビが入ったというわけではないように見える。
この変化が何によるものなのかを私が考えるよりも早く、矢継ぎ早に変化が訪れる。
線の部分から水蒸気のようなものが吹き出したかと思うと、中央の結晶が一瞬強く光り輝き、重機のような音を立てながら盾が変形を始めた。
分離し、回転し、重なり合う。複雑な変化が一瞬のうちに行われ、瞬く間に盾は巨大な剣へ形を変えた。
既存の武器からは大きく外れたその機械的なあり様に、思わず言葉を失う。
そんな私の様子を見て、エボニーが笑う。
「受けたダメージを蓄え、なんらかの形で出力する装備……それがこの撃盾よ。凄いでしょう? 正直言って、こんなものがあるとは思ってなかったわ」
再度、エボニーが操作する。
先ほどとは逆のプロセスで変形が行われ、ものの二秒で剣は元の盾に戻った。
コラボ配信でこれを作るとなれば、話題性は十分だと思う。実際に動くところまで見てもらえれば、心を掴むこともできるはずだし、あわよくばそのまま武器職人になるプレイヤーも出るかもしれない。
そう思わせるだけのカッコ良さがあったし、それだけに、不安もある。
「……でも、これ作れるの?」
「それについてはこれから話すわ」
エボニーがインベントリからいくつか結晶を取り出して、机に並べた。
結晶はそれぞれ五百円玉程度の大きさで、淡く光を放ち、透き通っている。手にとって角度を変えながら見てみると、時折なんらかの図形がその内部にチラついて見えた。
「これ、その撃盾に付いてるのと同じ?」
「ええ。受けたダメージをどう出力するかは、これで決められるらしいわ。クエストでもらったものだから、どう作るのかまでは知らないけれど」
「クエストって?」
「ああ、言ってなかったわね。この撃盾は防具職人に関連するサブクエストで知ったのよ。それで、作るには武器職人の技術も必要と言われたから貴女に頼もうと思ったのだけど、折角だから配信に活かしたいと思ってコラボを企画したの」
「なるほど。そうだったんだ」
「ええと……ごめんなさい、もっと早く言っておくべきだったわね。利用していると思われてもおかしくないことだから……」
「大丈夫。むしろ、エボニーにもメリットがあってよかった」
コラボと言ってもエボニーの方が登録者数は多いわけだし。
これで対等……とは行かずとも、こちらから提供できるものがあるのはいいことだと思う。
「ありがとう。貴女が武器職人で良かったわ。……じゃあ、続きを話すわね。撃盾は受けたダメージを何らかの形で出力し、攻撃に転用する装備なのだけど、出力の種類はいくつかあって、例えばこの紫の結晶を使えば受けたダメージを魔力に変換することができるみたい」
「魔力に……ってことは、魔法使いが盾を?」
「魔法使いと聞いて想像するような職はステータス的に盾を装備できないから、これは少し特殊なジョブが使うことになるでしょうね。魔力で自己強化しながら戦う物理戦闘職というのも聞いたことがあるわ」
「そういうのもあるんだ……」
このゲーム、やっぱり職業の数が多い気がする。
戦闘職に関する知識は少ないから、もしかしたらこれがスタンダードなのかもしれないけど。
「ちなみにさっき見せたのは変形タイプで、この赤い結晶がベースなのだけど……変形する機構を作る必要があるようだから難易度は高いわ。少なくとも私には作れないわね」
「ラーニングなら行けるかな」
そう考えて、ラーニングを試してみる。
エボニーに撃盾を譲渡してもらってラーニングを使ってみると、目の前に[ラーニングに必要な条件を満たしていません]という表示が現れた。
「ダメみたい」
「やはり一筋縄ではいかないようね。まあ、そうだろうとは思っていたけれど」
そう言いながら、エボニーは並べたコアの内の一つ、青い結晶を摘み上げ、テーブルの中央に置いた。
「そこで、今回はこの『流動』のコアを使おうと思っているの。効果は変形と似ているけど、これは名前の通り流動するように変化するから変形機構を組む必要がない。条件として盾モードと武器モードで同じ素材を同じ量使う必要があるようなのだけど、逆に言えばそれだけ守れば作れるということでもあるし」
同じ素材、同じ量。
確かに、それならさっきのものよりかは製作のイメージがしやすい。
流動するような変形についてはよくわからないけど。
液体金属みたいな感じかな。
「いいと思う。早速試作品とか作る?」
「いや、撃盾はぶっつけ本番で作るつもりよ。その方が協力している感が出るもの」
「えっ」
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「——と、説明は大体こんな感じね。ちなみに事前の打ち合わせはほとんどしていないわ」
「色くらいは決めると思ってたけど……本当に何もなかった。これ大丈夫?」
『本当にぶっつけ本番なのかwww』
『放送事故は放送事故で美味しいからセーフ』
『セーフ?』
『イメージがつかないな』
「まあ、完成したものを見ればわかるわよ。……完成すればだけれど」
撃盾が未知すぎて本当に完成しない可能性があるのが怖い。
せめて撃盾として形になるようにしようと意気込みつつ、結局はいつも通り「まあどうにかなるよね」と考えながら製作に移るのだった。