第四十三話 1.0.1アップデート
久しぶりすぎて投稿時間を失念してました
ようやく色々と済んだので、この章終わるまではせめて毎日更新できたらなと思ってます
エボニーとコラボの話をしてから、現実時間でおよそ一週間。
私はネット上の反応を眺めながら、アリフラのメンテナンスが明けるのを待っていた。
今日はゴールデンウィークの始まる日であると同時にアリフラの1.0.1アップデートが入る日でもある。
メンテ時間は大体一時間ほどらしい。追加される内容からすると長いような気もするけれど、初回ということもあってある程度余裕をもっているみたいだ。
まあ、予定通りなら午前中に終わるので全然問題ないけど。
「とりあえず告知はしておこうかな……」
メンテが明け次第配信をするという旨の告知をSNSですると、真っ先にシダからリプライがついた。
相変わらず反応速度が怖い。多分メンテ中で暇なんだろうけど。
その後、シダに続いていつのまにか九千人ほどにまで増えていたフォロワー達が告知に反応していく。
最近はチャンネルの登録者の増加も落ち着いてきた……と思っていたらまた謎の経路で増え始めていたりする。
私が作った武器を使っているプレイヤーが有名になって、その使用武器に関する話になると私の名前が出るので、それでじわじわと伸びているという感じらしい。
まあ、確かに三日くらい前のあれは凄いかっこいい写真だったけど。
敵の真芯を捉えた薔薇の鉄鎚と、スキルの赤いエフェクトがこれでもかというレベルでマッチしていて……その上、相手がユニークモンスターという。
狙って撮れるものではないというか、奇跡の一枚というか、とにかくそんな写真がコミュニティで話題になったことによって、登録者数や、私の店に舞い込むリクエストの量は増えつつあった。
「次は何を作ろうかなー……っと」
現実世界での一週間は、VR空間内での三週間。それだけあれば、ゲーム内でも色々な出来事が起きる。
例えば、王都レオーネから続く三つの都——闘技の都エスコルピオ、魔法の都ラバロンス、星教の都パルテノスのそれぞれへと繋がる最短ルートが開拓されたこととか、アリフラがVRMMOでの何らかの最高記録を更新したとか。
後者はともかく、前者は割と私に関わってくる話でもある。単純な話、多くのプレイヤーが新しいエリアに行けば、それだけ新しい素材が流通するし、相場も下がっていく。
今まではどうしてもその素材の価値を遥かに超える値段でしか売っていなかったり、そもそも市場に乗らないから手に入りようがなかったりで、レオーネ以降のエリアの素材はほとんど使ってこなかった。
まあ、当然だけどシダの資金も無限な訳ではないし。
確か、シダは素材の取引で手に入れたお金を元手に、カジノで一気に増やしているらしい。
廃人たちとのコネがあるから最新情報は人よりも早く仕入れられるし、その情報から次は何が必要になるのかを分析できれば上手い具合に稼ぐことが出来る……と言っていたけど、正直話を聞いてみても私にはできる気がしなかった。
そういえば、素材箱の中にいくつか大量の在庫がある素材があって、それがいつのまにかほとんどなくなっているということがあったけど、今考えるとあの素材箱は取引のために一時的に保管しておく場所という役割も持っていたのかもしれない。
……と、そんなことを考えていると、不意にベッドの側に置いてあるヘッドギアが青く明滅した。
メンテが終わったタイミングでゲームから通知が送られてくるシステムによるものだ。
今の時間は11時46分。12時終了予定だったので少し早めに終わったらしい。
すぐにヘッドギアを装着し、ベッドに横たわる。
メンテ明け直後は結構混んだりするのかもしれないけど、とにかくログインだけでもしておこう。
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[〈Alisphere Fragments〉にログインしました]
[1.0.1アップデート!]
[詳しい情報は公式サイトでご確認ください]
[https://——]
ログインと同時に、いつもよりも多くのメッセージが流れていく。
今回のアップデート内容の一部が画像で表示されていたりするけど、まあそういうのは後で配信しつつ見ていこうと思っているので一旦閉じておく。
「シダは……あれ、まだログインしてないのかな」
フレンドリストを開いてみると、シダ含め殆どの人がログアウト状態になっている。
一応、窓から大通りを見てみるとプレイヤーが確認できるのでログインは問題なく出来る状況なんだろうけど。
「まあいいや、配信始めちゃおう」
カメラをセットして、配信メニューを開く。
配信タイトルを入力し、細かい設定はテンプレートで変更して、それから配信開始ボタンをタップした。
数秒経って、徐々に視聴者が増えていく。
『わこつ!』
『わこつー』
『あれ、もうメンテ終わってるのか』
『メンテ明けと同時に配信する配信者の鑑』
『恐ろしく速い配信、俺でなきゃ見逃しちゃうね』
「どうもどうも。メンテ終わりの通知はシステムメニューの方から設定できるから、しておくと便利だよ」
『へー』
『メンテ明けって混むんじゃなかったっけ』
『アリフラはメンテ明けに軽くログイン制限かけるって言ってた気がする』
『ちょっとログインできるタイミングをずらすんだっけ』
「あ、そうなんだ」
シダがいないのは、そのログイン制限に引っかかっているからか。
まあ少し待ってれば来るかな。
「まあ、メンテ明けだしまずは更新内容を見ていこうか」
早速、公式サイトのパッチノートを開く。
見てみると、種族間のバランス調整やクエストの追加など、その辺りは事前に告知されていたものと特に変わりはなさそうだった。生産職がオート生産で作るものの能力値が上がるという調整も、そのまま実装されているらしい。
ただ、今回気になっているのは、調整内容が明確に書かれていなかった部分。一部生産職に追加される、マニュアル生産を気軽に行うためのシステムに関してだ。
下の方までスクロールしてみると、すぐに件の項目が出てくる。
「えっと、武器職人は……あるね。新スキル《ラーニング》の実装?」
『そういえば武器職人もなんかあるんだっけ』
『ラーニング?』
「ラーニングは武器職人のチュートリアルが終わった段階で習得できるスキルで、効果は……既存の武器のパーツをラーニングすることでテンプレートを作成し、任意の素材を消費することで同じ形状のパーツを作ることができる……らしい。え、すごい便利だね、これ」
言ってしまえば、例えばこれまでマニュアルで剣を作る時に絶対に必要だった金属を打つような工程をスキップできるというスキルだ。多分。
当然、普通にマニュアルで一から作るよりも作れる幅は狭まるだろうけど、これからマニュアルに手を出そうと思っている人にとっては良い橋渡し的な存在になると思う。
私はまあ、基本的には一から自分の手で作っていきたいとは思っているけど、既存の武器には今の技術では無理だと思う形状のものがあったりするので、結構活かしようがある気がする。
「良いね……これ、コラボの時に実演したら結構やってくれる人増えるんじゃないかな」
『コラボ?』
『お嬢とのコラボやで』
『その辺KAIYUUで告知あるからフォローするべき』
『あ、そっちにアカウントあったのか』
「なんか……私の登録者がどんどん増えてるのって、みんながすぐに誘導してくれるからなのかもね」
こういう光景、いろんなところで見るんだよね。
しかもなんか鬱陶しがられないように結構さりげない誘導が多いし。
「じゃあ、早速ラーニングとか試してみようかな」
使うかどうかはともかく、宣伝をするならコラボ前にある程度は私自身でラーニングについて習得しておかないといけない。
コメントと会話をしつつ、早速準備に取り掛かることにしたのだった。