第四十一話 亡き王国の忘形見
三本連続武器回。
武器を購入した人の反応は随所に入れていこうと思います! 番外編みたいな感じで、実際にその武器を使ってモンスターを倒すような話も書くかもしれません。
「…………ぅ、腕が震えてきた……」
『がんばれがんばれ』
『なんかイライラ棒みたいになってんね』
『これ他に方法ないんかwww』
いま、私は三つ目の武器を作っている。
条件は『宝石で装飾したゴージャスな槍。性能より見た目重視で』というもの。
今まではスキルも含めて一つのコンセプトとして作ることが殆どだったので、見た目だけを重視するというのはこれまでにない試みだったりする。
ちなみに、槍と言ってもいくつかの種類があるのだけど、今回作るのはランスに分類されるものだ。
歩兵が持つものであるスピアとは運用方法から異なって、馬上で構えて突撃して敵を突き刺すというのが主な使い方となり、刃は付いておらず、先端が円錐形になっている。
有名なところだと、モンスターをハントする某ゲームでのランスがまさにそれかな。
馬の機動力が無いとまともに使えない騎兵専用の武器ではあるけれど、その辺は筋肉でどうにでもなるらしい。
……と、そんな感じの無骨な武器をゴージャスな見た目にするというのはかなり難しいオーダーだけど、その分やりがいはある。槍だけに。
「ふふっ」
『どうした』
『え、何に笑ったの?』
『遂におかしくなったか……』
……さて、今行っているのは三段階目、全体の調整をする工程だ。普通ならこの工程はさほど時間が掛かるものではないけど、今回はむしろ一番時間のかかる工程となっている。
透き通った白が美しい白妙結晶で形作られたランスに対し、私が選択したのは金による模様付けだ。
かなり初期の時点で出来そうな素材を見つけていたのでいつかやってみたいなと考えていたし、ちょうど良いと思ってたのだけど…………
「腕がつる……」
手順としては、まず金鉱石を持ちやすい形状に加工して、一部を強く変質させることで軽く溶けた状態にし、ペンのように武器に模様を描いていく……というやり方でやっているわけだけど、多分探したら筆みたいな道具あるんだろうな。
このやり方はシンプルに素材が重くて狙った形に線を引くのが難しい。あとやっぱり加工が上手くいってなくて持ちにくかったりもする。
まあ今回はこれでやり切るつもりだけど。
同時に青色の鉱石で同じことをやりつつ、苦戦しながらもどうにかやり遂げて、ひとまず円錐部分はいい感じになった。
「はあ……まだ終わってないけど凄い疲れたな」
リクエストにもある通り、ここから宝石を装飾に使う必要がある。
素材の説明を見る限り、宝石系素材は魔力が関係する武器に使うべき素材のようだけど、今回は気にしなくていいのでいい感じに並べてしまおう。
ちなみにキャパシティ値に関してはオーバーしてもその分のスキルが付与されなくなるだけで武器を作ること自体は問題なくできる。
というわけで、見た目だけ考えて柄に宝石を並べていくことにした。
大きい宝石を目立つように配置するのではなく、小さめの宝石を並べて模様のようにしていく。
「デコるって言うんだっけ」
『久しぶりに聞いたわwww』
『死語だよな』
「wで笑いを表すのも死語って聞いたけどね……」
何故かE-Vaultのコメント欄には何十年も前のネットスラングが残り続けている。これまであまりネットに触れていなかったから、私にとってのネットスラングはこのチャット欄そのものなのだけど、基本的に死語らしいので他では使えない。
まあ、ゲームとかネットとかのスラングに古い言葉が使われてるというのは結構あるみたいだけど。友達が言っていたのだと、格ゲーの「フレーム」って概念なんかが未だに残ってるらしい。
格ゲーとか全然知らないからよくわからないけど、ゲームをディスプレイでやるのが主流だった時代の言葉なのだとか。
調べれば色々出てきそうだな。
「よし……で、ここには黄色を並べて……こんな感じかな」
『めっちゃいい感じ』
『なんかゴテゴテしすぎてなくて良いな』
『なんか円卓の騎士が持ってそう』
『名前は?』
「宝石のバランスが難しかったけど、上手く行ってよかったよ。名前は宝槍エヴルコーズにするつもり。フレーバーテキストは……任せた」
『崩落した遺跡の最奥に封印されていた槍』
『古の王国にて代々受け継がれてきた儀式用の槍』
『強欲な貴族が造らせた曰く付きの槍』
『永きに渡って至宝と讃えられたその輝きは今もなお衰えない』
「毎回コメントが来るまでの速度が速いんだよね……作ってる最中に考えてるの?」
もういっそフレーバーテキストデザイナーみたいな感じで雇うべきか。
――――――――
宝槍エヴルコーズ
必要STR:42 武器種:槍
攻撃力+21、貫通強化+3、火属性強化、水属性強化+2、光属性強化
古の王国にて代々受け継がれてきた儀式用の槍。
時代の流れの中で王国は滅んだが、至宝と讃えられたこの槍は今もなお衰えることなく輝き続けている。
――――――――
「とりあえず三つ作れたし、一旦これで区切ろうかな」
リガーラットワース、叛く鉄の薔薇、宝槍エヴルコーズ。
どれも今まで作ったことのなかった武器種で、使った素材もこれまでとは毛色の違うものばかり。
新たな課題も見つかったけど、それもまた成長だと思う。
「というわけで今回の配信はここまで。私はこれから筆を買いに行ってくるよ……」
『おつ』
『乙〜!』
『おつカリ』
「おつカリ〜。……いや、おつカリって何?」
『なんかあるよね、こういう文化』
『配信者の名前もじる感じのやつ』
「そうなんだ。エボニーなら……おつエボ的な?」
『おつエボは却下されました』
『あっちでは「お疲れ様で御座います、お嬢様」って言ってる』
『完全に主従だよね』
「生配信で主従プレイしてるの?」
恐るべし、エボニー。
まあ彼女のことなので多分視聴者が勝手に言いだしたんだろうけど。
そんなことを考えながら配信を切り、一旦ログアウトして休もうかなと思ったところに来客を告げるベルが鳴った。
今はちょうどシダがいないので、何か買う感じなら私が接客しないといけない。幸い、店頭に並んでいるものにはすでに値段が設定されているので、私でも問題なく受け答えできる。
接客は敬語の方がいいのかな、などと考えながら販売スペースに移動しようとすると、私がドアノブに手をかけるよりも早くドアが開いた。
「ご機嫌ようユーカリ。私が遊びに来てあげたわよ」
外行き用の綺麗な衣服に身を包んだエボニーが、腕を組みながら堂々とした態度で現れた。
「あ、主従プレイの人」
「主従? 何よ藪から棒に……というか、今は配信していないの?」
「うん。ちょうど終わったところだから暇だよ」
「そうなのね。配信に関連する話をしようと思っていたのだけど……いえ、むしろこれは配信外の方が良いかもしれないわね」
そう前置きしてから、エボニーは私の手を掴んで言った。
「私たちでコラボ配信してみない?」