第四話 迫る影
武器生産のシステムは理解しなくても読んでいけるようになっています。
さて……とりあえず武器生産についてもう一度確認してみようかな。
第一段階では、まずベースというものを作る。素材を並べ、整形していくことである程度の形を作っていく段階だ。
ベースとなる素材に重視されるのはキャパシティ値というもので、これは次の工程でいろいろな能力を付与していくために必要となる。
第二段階では、素材を使ってベースに効果を付与していく。
ある程度の武器種は第一段階で決まるけど、そのうえでの細かい分類はこの段階で使ったアイテムによって決められるらしい。
効果付与に関しては、素材ごとに様々な効果が存在していて、それらはベースに存在するキャパシティの範囲内でつけなくてはならない。
ここで付与する効果というのは、敵を状態異常にするような効果だけではなく、武器そのものの攻撃力なども含まれている。
で、第三段階。
ここは最終調整という感じで、主に造形面での微調整をする段階。
wikiによると、一応ここでも攻撃力の上昇などの効果が発動する可能性が僅かながらあるらしい。
さっき作ったショートソードについても、最後に持ち手に皮を巻いたことによって装備するために必要なSTRが10から9になったみたいだ。
ベース作成、効果付与、最終調整。これらの工程を経て、ようやく武器が完成する。
現実の鍛冶とは全く違うけど、これはこれで面白くていいと思う。というか生産がメインというわけでもないのにここまでこだわれるのはシンプルにすごいな。
というわけで、出来上がったショートソードを納品することにする。
「出来たよ、ショートソード」
「おう。だいぶ長いこと叩いてたみてえだが、形でも気に入らなかったか?」
「なかなか自分の納得いく形にできなくて。はいこれ」
インベントリからショートソードを取り出して、グルードに渡す。
彼は一通りショートソードを眺めて、それから感心したように頷いた。
「ほう……ハンマーだけでここまでやるか。シンプルだが、美しい造形だ。流石は鍛紋族ってとこか」
「どうも。試験は合格?」
「ああ、当然だ。つーか、職人ギルドは基本的に人手不足だからな。拒む理由がねえ」
生産職はあまりいないっぽい。まあ、無理もないか。
生産職を経験しないプレイヤーは多いだろうし、やるとしても必要に迫られて転職するような形がほとんどだろうし。
まあ、それはそれで競合相手が少ないということでもあるので私としては特に問題はないけど。
「報酬の200リィンとアイテムだ、受け取りな。んで、もう登録も済ませたから、今後は職人ギルドの設備は自由に使ってもらって構わない。当然ここ以外の街の職人ギルドでも平気だ」
「ありがと。ちなみに、作ったショートソードはどうするの?」
「ああ、作った奴はうちで売ることになってる。欲しけりゃやるが……」
「いや、ちょっと気になっただけ。売ってもらえるなら大丈夫」
渡されても私は使わないし。せっかく作った武器なんだから、使える人に使ってもらいたい。
というわけで、これで武器生産の基本的なやり方については理解した。
結構奥の深そうなシステムで、やりごたえがありそうだ。
さて、このあと更に武器を作ってみてもいいけど……ちょっとこのゲームについて調べたいこともあるし、今日は少しだけ街を見てからログアウトすることにした。
◆□◆□◆□◆
ユーカリがログアウトしてから少し経って、職人ギルドに一人のプレイヤーがやってきた。
薄く紫がかった白の髪をツインテールにした少女は、ギルドに足を踏み入れるや否や、ギルドマスターであるグルードのもとへと駆け寄った。
「こんにちは!! 今日の分ってもう並べてます!?」
「おう、アンタか。今から並べようとしてたとこだ」
テンションの高い少女に対し、グルードは慣れた様子でカウンターから少女が求めているらしい物を取り出した。
「これが今日の分だぜ」
取り出したのは、数本のショートソードだった。
それぞれ、新たに職人ギルドに所属することになったプレイヤーが、最初のクエストの課題として作ったものである。
少女はそれを受け取って礼を言い——
「わっ、えっ……うわーッ!!!?」
その内の一本を見た瞬間、大声をあげて一瞬固まった。
「うわっ、急に叫ぶなよ」
「なッ、なんですかこれ!!! えっ、これ誰が作ったんですか!?」
「あ? ……それは確か、ユーカリって鍛紋族の娘が作ってたな」
「何処に行ったとかわかります!?」
「いや、それは流石にしらねえけど。また明日にでもここに来るんじゃねえか? だからまた明日出直して――」
「それだと入れ違いになりそうなのでここで待ちます!!」
「はあ……そう言うと思ったぜ。あまり新入りを驚かせんなよ?」
「了解です!! あっ、代金これで足りますよね!!」
どさっと音を立てて、袋がカウンターに置かれる。
グルードがそれを開いてみると、中には大量の金貨が入っていた。
「いや……これ定価の千倍くらいあるぞ」
「めんどくさいんで場所代ってことで受け取っといてください!!」
少女はそう言って、ユーカリの作ったショートソードを抱きかかえながら椅子にちょこんと腰掛けた。
「ユーカリさん……早く会ってみたいです!」
楽しそうな少女の声とグルードのため息が、人の少ない職人ギルドに響いたのだった。