第三十九話 聖なる森を守護る弓
いつも感想ありがとうございます!
結構立て込んでて返信ができていない状況ですが全部読んでます!
「さてと……弓の解説とかした方がいいかな」
配信をやる以上、視聴者にわかりやすく解説しておくことも重要だと思う。
自分の中で情報を整理するということにも繋がるので、やっておいて損はないだろうし。
「と言っても私も専門家というわけではないんだけど。まず、今回作るのは弓の中でも特に短弓に分類されるもので、ゲーム的な位置づけとしては結構小回りの利く使いやすい遠距離武器って感じなのかな。コンポジットボウって呼び方もあるけど……まあこれは別の区分みたいな感じ」
『小さいやつね』
『なんか……数字の3みたいになってるやつか』
『アーチェリーで使われてるやつだっけ』
『それコンパウンドボウ』
「複合と化合。複数の材料で構成されている弓が複合弓で、滑車とかてこの原理みたいな技術を使って作られている弓が化合弓。ゲームシステム的に単一の素材で作ることはないだろうから、生産で作るのは基本複合弓に分類されるかな」
ドロップする武器ならともかく、生産の場合はスキルを付けるために色々素材を重ねないといけないし。
「で、短弓についてだけど、長弓に比べると連射速度や携帯性に優れていて、攻撃力も充分。どこまでゲームシステムに反映されてるかはわからないけど、長弓と差別化するなら射程の長さがまずあって……あとは攻撃力で差をつける場合もあるかも」
『短弓の方が必要STR低いんだよね』
『長弓の要求STRが高すぎるってのもある』
『大剣と同じくらいあるよなあ。その分威力も射程もヤバいけどさ』
「なるほど……あれだね、まだゲーム内での武器の特徴まではカバー出来てないから、その辺はコメントで教えてくれるとありがたい」
リアルな武器をそのまま実装するとバランスが取れないだろうし、ゲーム的な面白さを優先するのであれば当然分かりやすくしたり差別化を図ったりする為の誇張とかはあると思う。
「さてと……とりあえず、今回作る武器のコンセプトは森人の弓って感じかな。必要STRに関しては勝手が分からないから低すぎたり高すぎたりするかも知れないけど、まあ今後弓は作っていく必要があるだろうし、同じようなコンセプトでいくつか作って調整してみるつもり」
喋りながら、選んだ素材を並べていく。
まずベースとして用いるのは捻樹の若枝。二本の細い枝が絡み合うように成長し、一本の枝となっているもので、キャパシティ値が高く、実際に触ってみるとある程度しなる。
柔らかすぎても良くないけど、このくらいなら問題なく使えるレベルだ。
次に重要なのが弓の弦。これに関してはとりあえず刺蜘蛛の糸という素材を使うことにした。
木の繊維を束ねて弦にするのが普通な気もするけど、素材一覧にそれらしき物が無かったので、今回はこれでやってみようという感じ。
木の皮みたいな素材はあったので、もしかしたらその辺を加工することで繊維を作り出すことができるかもしれない。中間素材って言うんだっけ。その辺の加工は武器職人にもできるのかな。
まあ、何はともあれまずは捻樹の枝を加工していこう。
枝の一部分だけを金床にのせて出力を軽く上げ、弓の形になるように曲げていく。
『え、そうやって作るのこれ』
『金床で弓……』
……うん、正直これ合ってるのかなって気分になってくるけど、素材を曲げるような加工は金床が最も適しているのでこれが正解だ。
マニュアル生産はオートに比べると難しいとはいえ、流石に現実と同じような作り方は求められない。
究極、その形でさえあれば武器種は勝手に決定づけられるし、その武器種として扱えるように勝手に調整される。全く研がれていない剣でも形が剣なら剣になるし、装備すればしっかり敵を切断できる武器になる。
だから、弓の本来の作り方を理解していなくても弓を作ることは可能だ。というかそうじゃないと本当に誰もマニュアルで作らなくなる。
私も一応原始的な弓の作り方くらいは理解しているけどそれ以上の知識は無いし。
「……このくらいかな。」
形は上手い具合に作れたので、次は弦を張っていく。
弦をかけるための溝を作り、刺蜘蛛の糸をかける。
蜘蛛の糸と言うには余りにも太く、地獄の亡者を全員救出出来そうな程には充分な強度なんだけど、こんなのを吐き出す蜘蛛は…………やめておこう、怖くなってきた。
『もうこれで完成じゃね?』
「形はね。このままだと多分大したスキル付かないから、まだ色々付けていくよ」
素材台から、次に使う素材を手にとる。
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風脈樹の葉
ランガワという樹木の葉。
風の力を宿しており、凪の日にも嵐の日にも同じように揺れ動くという。
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流石にこの説明で風属性強化が付かないということはないと思うし、葉というのもとてもコンセプトに合っているので即採用した素材だ。
これはどう付けるべきか迷ったけど、とりあえず葉の根本を弓に付けて魔導コテで変質させることでくっつけていくいつものスタイルをとることにした。この辺りも金属素材と変わらないところだ。
バランスよく生茂るように、しかし照準を合わせる妨げにならないように、逐一弓矢を構えてみて調整する。
見た目だけ良くて実用性が皆無では意味がないし、この辺りの調整はしっかりと。
グリップ部分を握りやすくしたり、アクセントも兼ねて木の実みたいなパーツをつけたり、今までとは違った形での試行錯誤を経て、ようやく一つの武器が出来上がった。
「よし。最後に名前は……リガーラットワースにしよう」
『これで完成か』
『888888888888』
『なんかエルフが使ってそう』
『この弓好き』
『お疲れ様ジュース [JUICE 500!!]』
『こういう自然的な武器いいよなあ』
完成と同時に一気にコメントが増える。ついでにいくつかジュースも貰った。今回は普通にジュースくらいの金額が多いみたい。
「カルボネリさん、レモンジルドレェさん、猫猫猫猫さんジュースありがとうございます。精神的負担を考えるとこのくらいの金額が一番ありがたいね……」
さて、めぼしいコメントに返信したところで武器の方を見ていく。
短弓、リガーラットワース。要求STRは18。メッセージによると、15以上19以下という条件なので一発で上手く行ったようだ。
完全に偶然なので他にもいくつか作って大体のSTRの把握をしておきたいところだけど、今回は一旦置いておこう。
風属性強化が付いている弓という条件もクリアしているし、武器種も短弓。
一応店売りの弓とかを調べてみたけど、スキル的には同じくらいのSTRの弓と比べてもかなりいい感じになっている。wikiに載ってたレアドロ武器と同等くらいか。
剣の感覚で見るとどうしても攻撃力低いなって感じてしまうけど、弓は遠距離武器であることや連射力などもあるのでこんなものなのだと思う。
「あ、そうだ。フレーバーテキストのやつやろうか。みんなそれっぽいこと書いてって」
『森の一族に代々伝わる宝』
『神域を荒らす不届きものを射貫く法の弓』
『空を舞う種族によって一方的に狩られる人族を哀れんだ神が齎らした原初の弓』
『二つの枝が堅く絡み合う特殊な構造は戒律の下の結束を表す』
『弓使い、不遇職にされがち』
「相変わらずそれっぽいこと一瞬で書くよね……準備してるの?」
最後のはフレーバーテキストというかただのあるあるだけど。
そんなわけで、出てきた内容からいくつか抜き出してフレーバーテキストとし、これにて今回の武器は完成だ。初めて作った弓だけど、自分でも満足のいく仕上がりになったと思う。
流れるコメントに返答しつつ、なるべくいい感じに写るように気をつけながら写真を撮って、購入の意思があるかを聞くメッセージとともに依頼主へと送ったのだった。
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リガーラットワース
必要STR:18 武器種:弓/短弓
攻撃力+9、風属性強化+5、速射+3、貫通力+3、命中精度+2
聖域と称される森を守護する一族が使う弓。
二つの枝が堅く絡み合う特殊な構造は戒律の下の結束を表し、掟を破る者を容赦無く貫き穿つ。
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