第三十七話 武器作るってレベル
二章が完結した効果かVR日間2位になってました!ありがとうございます!!
——その日、久しぶりに見た夢は、懐かしい思い出をなぞるものだった。
小学校の休み時間。
私は机に広げた紙に、思い思いの武器を描いていく。
或いは紙そのものを武器とするか。
剣、斧、ハンマー、大砲、杖、弓、槍。
美しいかと問われれば、断じて否。
所詮は子供が描く絵だ。バランスが悪く、色もめちゃくちゃで、何より実用性に欠ける。
それでも私は、この絵を楽しんで描いていた。ひたすらに美しく、強く、子供心の全てを注ぎ込むに値する物だと確信していた。
……ただ、そんな言語化された思いは、気持ちの流動を文字にする為の能力を得てから付け足された後付けでしかなくて。
だから今でもたまに考える。
私は何の為に武器を作っていたんだっけ?
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バスタブ=アドルフの依頼を終えた翌日。
用事をこなしてからアリフラにログインすると、待ち構えていたかのようにシダがやってきた。
「あ、先生! ちょっと凄いことになってるんですけど!!」
「ん……シダ、おはよう」
「おはようございます! ……ではなくてですね!? とりあえず来てください!」
シダに連れられて、私は販売スペースに向かう。ドアから覗いてみると、沢山の客が集まっているのが見てとれた。
「え……え?」
これ全員客? なんで?
いや、多分バスタブが宣伝してくれたんだと思うんだけど……ここまで影響力があるなんて。
ヘルメスがSNSで宣伝してくれたときはこんなことにはならなかったし、油断してた。
……いや、そういえばヘルメスは店の場所とか言ってなかったかも。ヴィドランゼ作ったのも馬車の工房でのことだったし。
「ちょっとこれは……どうしよう、人手が足りないかも」
「話を聞く限り、皆さんそれぞれ武器を作ってもらいたいみたいです……」
「だよね……」
「それに、店が混雑してるのを見て帰っていく人も沢山いるので……」
「あー…………」
これ、普通にやったら無理じゃない?
————
というわけで、急遽依頼に関するシステムを決めることにした。
まず、依頼はメッセージで送ってもらう。
武器種や使って欲しい素材、つけて欲しいスキルなど武器に関するものや、現時点でのステータスなどを書いてもらう感じだ。
ちなみに、値段に関する指定は対応出来ないと事前に明示しておく。料金に関しては、出来上がってからシダが材料費などから計算して値段を付けるシステムだ。
値段の計算をしながらやるのがめんどくさいというのが理由ではあるけれど、ゲームだから金策の手段なんていくらでもあると思うし多少高くなっても大丈夫だとは思う。
まあ何回かに分けて払ってもらってもいいし。
で、私はそうやって届いたメッセージの中から気になったものを選んで実際に作る。
そうして武器が出来上がったら依頼主に連絡をし、購入の意思があるかを確認する。
細かいオーダーに応えるのが難しいので、出来上がったものを見て思ったのとこれは少し違うなと感じる人もいるだろうし、そう思ったなら買う必要はない。
キャンセル料などは特に無く、買われなかった武器はそのまま店頭に並ぶことになる。
……と、こんな感じ。急遽作ったにしては良いシステムでは?
依頼というよりも、リクエストした人間に優先購入権が与えられるシステムと言ったほうが近いかもしれない。
結構独特なシステムではあるけれど、競合相手もいないし特に問題はないと思う。というかこうでもしないとやっていけない。
こちらとしてはある程度好き放題できるので良いんだけど、早く競合相手出てこないかなとも思ったり。
まあそれはともかく、ひとまず今日は武器製作以外のことをやっていこう。
配信者としてやらないといけないこととか結構溜まってたし。
というわけで、まずはカイユー(SNS)のアカウントを作ろうと思う。
一応現実用のアカウントはあるけれど、配信者としてのアカウントは未だに作ってなかった。店や配信の宣伝の為にも必要だろうし、早い段階で作るべきやつだ。
「名前はユーカリでいいとして、プロフィールとかコメントとか……まあ適当に入れとこう」
「配信ページへのリンクとか貼っておくといいですよ!」
「なるほど」
これまでも一応色々見てきていたのでネットリテラシーみたいなものはしっかり身に付いているとは思うけど、こういう部分の使い方はよくわかってない。
シダのアドバイスを受けて、私は『ユーカリ』としてのアカウントを作ったのだった。
……で、次は配信サイトE-Vault内で、『ジュース』というシステムに関する設定を行うことにした。
ジュースというのはギフティング機能の一種で、謂わゆる『投げ銭』と呼ばれるシステムの一つだ。コメントを目立たせるという使い方が多いようだけど、見てみるとそれ以外にも色々できることがありそうだった。
設定する為の条件として、登録者数や配信時間などの基準があるけど、いつの間にかそれは達成していたようだ。
ちなみにジュースと言うのは英語で『充電する』という意味の言葉らしい。俗語のようなので日本では馴染みがないし、飲み物の方のジュースを連想する人がほとんどなので『ジュースを奢ってやろう』みたいな感じで使われることが多いけど。
「これ上限金額とか設定出来ないのかな……1万円とか渡されたらさすがに怖いし」
「どうなんでしょう。自分から上限を引き下げたい人はそれほどいない気もしますし、無いかもしれませんね」
「まあ、そうだよね。……というかシダにも渡すからね、無理やりにでも。そもそも発端から考えると私が貰うのもおかしい気がするし」
何も言わないと普通に全額渡してきかねないので早いうちに牽制しておく。
案の定「私は別に良いんです」とか言い始めたので、無視して私は今日の配信を始めることにしたのだった。
三章の内容が決まってないので章タイトルは仮です