第三十六話 連鎖する剣
二章完結です!!
「よう。意外と早く出来たみたいだな」
メッセージで連絡をしてから約三十分。今回の依頼主であるバスタブ=アドルフは、少し身体に傷を残した状態で来店した。
「うん。……え、なんでボロボロなの?」
「少しグラカム山以降を探索してたからな。星教の都パルテノスって言うんだが……まあそれはいいか」
そう言いながら、彼は回復薬をあおった。緑色に輝くエフェクトが出て、徐々に彼の身体の傷が回復していく。
装備の傷は直らないのかな。まあ回復薬で装備まで直るわけないか。多分修理屋とかがいるんだと思う。
……と、そう言えば一応聞いておくことがあるんだった。
「メッセージに書いたと思うけど、配信に映るのは大丈夫なんだよね」
「ああ、むしろオレから出させてくれって言いたいくらいだからな。どうだ、カッコよく映ってるか?」
『本物じゃん』
『初めて見たわ』
『グラカム山突破したってマジ?』
『昨日言ってたな』
『リザードシッカー強いよね』
『一級廃人』
「おー……コメントの勢いが凄い。流石有名人」
「アンタも大概有名人だと思うけどな。まあいいや、依頼した武器は出来てるんだったか」
彼の言葉にうなずいて、私はインベントリから武器を取り出し、カウンターの上に置いた。
鈍い銀色でまとめられた、およそ一般的な剣とは形状から異なる武骨な魔剣。
私が連鎖剣と名付けたそれを見て、バスタブは感心したように唸った。
「へえ。なんつーか……重機みたいだな?」
「あ、割とそんな感じ。解放してみたらわかると思うよ」
「ほう……《魔剣解放》」
剣の柄を両手で握り、彼はスキル名の宣誓とともに魔剣を解放した。
瞬間、ブォンと低く唸るような音が鳴って、その魔剣に並ぶ無数の刃が動き始める。刀身の形状に沿って動くそれは徐々に勢いを増し、それに応じて魔剣から発せられる音も高くなっていく。
「おぉ、すげえな……! これ、名前はあるのか?」
「うん。無数の刃が連鎖して、悪鬼羅刹を断ち切る剣……則ち、『連鎖剣』」
『やっぱチェーンソーじゃねえか!!』
『確かに武器として使われることはあるけども』
『ヒャッハー!』
『かみがバラバラになるな……』
『チェンソー!最強!最高!』
『サメの歯で作ったのってもしかしてそういうことなのか……?』
焔耀魔剣バーナードとか水湛魔剣ウォータードとかを見てたら思いついただけなんだけどね、チェーンソードって。完全に言葉遊び。
でもまあ実際チェーンソーって殺人鬼が使う武器として有名だったりするし、そこまで突飛でもないと思う。能力的にも結構強そうだったし、強さと面白さの両立は出来てるはず。多分。
「なるほどな。まさかチェーンソーを作ってくるなんて……」
「気に入った?」
「ああ、文句無しだ。男に生まれてチェーンソーに憧れない奴はいねえ」
そうなの? グラップラーみたいな感じなのかな……まあカッコいいとは思うけど。
「金はアンタに払えばいいのか」
「はい!! こちらお値段です!!」
「おう。……なんだ、この性能にしては安いな。もっととって良いんだぜ、人件費って名目で上乗せするとかよ」
「ウチは適正価格がモットーです!! ……と、先生が言うので」
必要以上に取るのは良くないかなって。
正直なところ、多分能力面は詰めればもっと伸びるだろうし、そういう意味ではゲーム的な武器としては完全とは言えないと思う。だからと言って原価そのまんまというのは後続がついて来れなくなるだろうし、ある程度はもらっておく必要がある。
あくまでも適正価格で、というオーダーをしているのはそういう理由からだ。
さて、バスタブがシダへ武器の料金を払い終えたところで、彼はこちらに向き直って口を開いた。
「一応聞いておくが、ウチのクランに入るつもりとかないか?」
「うん」
「即答かい。まあそうだろうなとは思ったが。アンタ、その辺のしがらみとか嫌いそうだしよ」
「まあ、武器作りたいだけだから。生産職用のクランとかなら検討するかもしれないけど」
「生憎ウチは廃人の群れだからな。断られるのは想定内だが……だからと言ってこんな有望株を野放しにしておくわけにもいかない。っつーわけで、俺からも援助させてくれねえか?」
彼の口から発せられたのは、思いもよらない申し出だった。
「こんな俺でも一応廃人達の頭領だ。最新の情報は勿論、まだ市場に出回らねえような素材なんかも手に入る。クランの財源になるから当然タダって訳にはいかねえが、優先的に回す程度ならどうにでもなるぜ」
「それはありがたいけど……あの、そっちの要求は?」
「支援って言ったろ、別に取引って訳じゃねえ。いずれまた別の武器が必要になるだろうからな。その時もアンタに依頼するつもりだし、これはまあ、一種の投資ってやつだ」
「投資……」
何というか……それは恵まれすぎじゃない?
会う人会う人みんな良い人で、正直私の方から何か返せてるのかなって不安になってくる。
「……どうした? オレなんか変なことでも言ったか」
「いや……良い人だなって思って」
「そりゃあ、ゲームの中だぜ? 現実とは違うんだ。どれだけ“良い人”でいたって懐は痛まねえし、割りを食う事もねえからな」
「……そっか。確かにそうかも」
「つーかあれだ、別に見返りを期待してねえってわけでもないしな。MMOなんて、対人関係が嫌で引退する奴もいるくらい人との関わりが重要視されるジャンルだぜ? こうやって適度に恩を売るのも作戦の内ってわけだ」
それならまあ、良いのかな。
「ま、押し付けるわけじゃねえし必要なときに頼ってくれ。オレもたまに遊びに来るからよ」
「武器、ありがとうな」と言い残して、彼は店を出て行った。
すごいコネクションが繋がったなと思う一方、また施されてしまったという複雑な気分が渦巻いている。
……まあ、何はともあれ、私にできるのは武器を作ることか。初仕事も終えたわけだし、これから恩を返していくためにもどんどん武器を作って行こう。
「お疲れ様です、先生!!」
「うん、シダもお疲れ。料金計算ありがとうね」
「経営面は私の仕事ですから!!」
シダの純粋な笑顔が眩しい。
彼女は本当に……いつまでも変わらないで欲しいな。いつまでも私の癒しでいて欲しい。流石にそれは縛りつけすぎだと思うけど。
「ここから店が軌道に乗るといいな」
シダと一緒にいる為に、武器職人として安定した収入を得なくては。
まだ店は出来たばかりだけど、バスタブ=アドルフという有名人の武器を作った経験は、きっと明日へと繋がるだろう。
そう考えて、私は武器職人としての熱意を一際激しく燃やしたのだった。
……しかし、その時の私はまだ知る由もなかった。
ヘルメスとバスタブという有名プレイヤー二人による宣伝の真なる効果を——。
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連鎖剣
必要STR:40 武器種:大剣/魔剣
魔導武器【魔剣】、攻撃力+15、斬撃強化+2、連撃強化+2、出血付与、裂傷付与
高速回転する切れ味の悪い刃で敵をズタズタに切り裂く魔法剣。
「伝説的な殺人鬼が使用した」「神を殺せる」「永久機関を作れる」「サメの天敵である」などの噂話に近い伝承が付き纏う曰く付きの武器だが、そのどれもが事実とは程遠いとされている
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というわけで連鎖剣はみんな大好きチェーンソーでした。チェンソー最高!イェイイェイ!
あともう既に分かってると思いますがこの小説に出てくる主要キャラはユーカリを筆頭にみんな面倒な性格してます。
それと一応ここが一つの章の区切りですので、よろしければ評価とかしていただけると嬉しいです!!