第三十四話 ランクアップ
前回の話で魔剣士や武器匠を上級職としてましたが、正しくは中級職でした。
ギルド区域へワープして数分。
職人ギルドを訪れた私は、係の人に案内されるがまま手続きを終えて、無事に武器匠へランクアップしたのだった。
「なんか思ったよりもあっさりだったなあ……」
武器職人のレベル上限は20で、私のジョブレベルも20。いつのまにかカンストしていたらしい。
武器を作ってる時にレベルアップすることが多く、そうなると後ででいいやと思って通知をスルーしてしまうことがほとんどで、更には一度スルーすると存在そのものを忘れてしまう……という負の流れがあるので、それのせいで全く気付いていなかったのかな。
『一瞬でランクアップしたな』
『生産職は大体そんなもん』
『生産はレベルも上がりやすいからね』
『プレイヤーレベルと職業のレベルって別なのか』
『武器匠って中級職?』
『レベル上限が20なのが下級職、30なのが中級職って感じ。その次まで行ってる人は多分いないけどNPCには上級職のやつがいる』
聖騎士とか魔剣士とかは中級職なんだっけ。始まったばかりだから中級職もそこまで多くはないみたいだけど、その上もあるらしい。武器匠の上ってどんな名前になるんだろう。
まあそれはともかく。
「とりあえず……スキル見てみようかな」
武器匠に上がった段階でいくつかスキルが追加されている。
相変わらずパッシブ系のスキルばかりだけど、その中に一つ、パッシブとアクティブ両方の性質を持っているらしいスキルがあった。
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《魔導回路構築》
魔導回路が必要な武器を作ることが出来るようになる。
マニュアルモードでは、魔導回路が可視化され、MPを消費することで操作できるようになる。
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『これ?』
『これじゃね?』
『これやんけ』
「うん、多分これだ」
魔導回路。字面から言って、魔力の通り道を作るようなものかな。
対象は魔剣と限定されているものではないけれど、同じようなシステムの武器種が他にもあるのだと思う。
とにかく、これを使ってもう一度先ほどの魔剣を作ってみることにしよう。
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そんなわけで、工房に戻ってきた私は早速焔耀魔剣バーナードを作り始めた。
材料を並べた段階で、とりあえず新しいスキルを使ってみる。
「えーっと……《魔導回路構築》」
……特に何も起こらない。不発?
MPも減ってないし、使うタイミングが違うみたいだ。気になって開いてみたスキルリストには、調整段階で使えるスキルだと表記されていた。最初に読めばよかったな。
まあ、調整段階までは先ほどと変わらないようなので、そこまでは普通に作っていくことにしよう。
とは言えさっき作った物と同じようなものを作っても面白くないので、少し形状を変えたりしてみつつ、調整段階まで作ってみる。
「こんな感じかな。で、《魔導回路構築》」
完成間際の武器に対しスキル名を唱えると、剣の上に青く発光する丸いマークが現れた。
今度は成功したらしい。
同時にポップアップしてきたウィンドウには、このスキルの具体的な説明が書かれていた。
要約すると、発光するマークをつなぎ合わせることで魔力の通り道を作れるらしい。
繋ぎ方によってはわざと魔力の通りを悪くしたり、複数箇所を連動させたり、様々な組み方ができるのだとか。
「と言っても、今回は一本繋げるだけみたいだけど」
柄から刀身へ、一本のパスを繋ぐ。矢印で表示された通り道の向きは問題なさそうだ。
今はこの部分だけだけど、将来的にもっと複雑なものを作ることになったらこの工程もかなり複雑な感じになりそう。
というわけで、これで完成だ。
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焔耀魔剣バーナード
必要STR:40 武器種:大剣/魔剣
魔導武器【魔剣】、攻撃力+17、斬撃強化+2、火属性強化+2、
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「よし、できてる」
名前が最初から表記されているので、レシピから作るものと同じものであるとシステム的に判定されたらしい。最初に作ったショートソードもこんな感じだったっけ。
なんとなく要求される素材やSTRの割に武器スキルの強化値が低いような気がしたけど、どうやら魔剣は通常時はかなり能力的に弱くなるらしい。その代わり、《魔剣解放》を使用すれば大幅に威力が上がるようだ。
魔導武器【魔剣】というスキルの説明には『解放中はMPが減り続ける代わりに武器スキルが強化される』と書いてある。
具体的な数値については書いていないけど、同様にMP消費量についての記載もないので、多分消費するMP量に応じて能力の強化倍率が変動するとかそういう感じかな。
そういえば、STRに関してどのくらいまでいけるのかとか聞いてなかった。大剣持ってたしある程度のSTRは確保しているだろうけど、MPが必要な関係で純粋な物理特化というわけではないだろうし、あとで聞いておこう。
さて。魔剣の作り方がわかったとこで、武器匠になった段階で会得した別のスキル――《武器試用》を活用してみることにする。
これは自分が作った武器を装備し、使用感をチェックすることのできるスキルだ。装備に要求されるSTRなどは無視することができるし、その武器を使った基本的なスキルも使用することができるようになる。
これが戦闘にも使用できれば武器匠は大人気職だっただろうけど、流石に《武器試用》状態ではダメージを発生させることができない。それでもハッタリとかに使えそうではあるけれど。
装備メニューからバーナードを装備し、ポップアップされた魔剣のスキルリストから、解放のスキルを発動させてみる。
「《魔剣解放》」
瞬間、剣を覆うように赤いエフェクトが煌めいて、それから炎が燃え盛った。しっかり魔剣としての能力は有しているらしい。
演出的にも名前的にも、バスタブが使っていた水湛魔剣ウォータードと同じシリーズの武器かな。シンプルでオーソドックスだけどかっこいい。
『おおー』
『カッコいい』
『†炎の魔剣士ユーカリ†』
『†に悪意を感じる』
『魔剣士良いな』
『植物の方のユーカリは引火性の物質を放出してるらしい』
「そうなんだ。まあ戦うのすごく苦手だから魔剣士になることは一生ないだろうけど」
ソロ用のゲームでスライム相手に数十分の死闘を繰り広げた苦い記憶が蘇る。後から結構難易度の高いゲームであることを知ったけど、あの経験はトラウマのようになってしまってたり。
まあ、仮にその辺のセンスがあったとしても武器職人やってたと思うけどね。
焔耀魔剣バーナードと同じシリーズには、鉄旋魔剣バスタード、水湛魔剣ウォータード、雷轟魔剣サンダード、爆撃魔剣ボンバードなどがあります。