第三十二話 魔剣士
ちょっと投稿が開いてしまいました、申し訳ありません!
前もって設定しておいた鈴の音が工房に響き、私に来客を告げた。
「客かな?」
「ちょっと見てきますね!」
「あ、私も行く。初めての客だし」
一応、今日から正式なオープンということで、店の前に看板のようなものを設置したりしてある。
とは言え置いてある武器はまだ少ないし、武器の注文があれば積極的に受けていきたい。そうなった時に求める武器の詳細について詳しく聞く必要もあるし、生の声を聞くというのは大事だと思う。
「というわけで、一旦ミュートにするから」
『乙』
『了解〜』
『初の客?』
『りょ』
『俺も行きたいな』
工房の位置的にカメラには映らないだろうけど、恐らく声は入る。
なるべく配信には映りたくないというプレイヤーも多いだろうし、店を開くならその辺は考慮しておくべきところだ。
そんなわけで、シダと一緒に売り場まで出てみると、カウンターの前でガタイの良い男性が腕を組んでいた。
手の甲や首、頬に鱗のようなものがあることから、彼がリザードシッカーという種族なのだとわかる。
基本的に蜥蜴人というものはトカゲが二足歩行しているようなものが多いけど、このゲームにおいては見た目的には特定部位に鱗が付いているだけでそれ以外は一般的な人類と変わらない。
種族特性である【異化】を使えばよりトカゲらしくなれるらしいけど。
「いらっしゃい」
「ああ。アンタがユーカリか」
「うん、そうだけど」
「俺はギュスターヴ。前に一度話したことがあるんだが、知ってるか?」
そう言いながら、彼は手を差し出してきた。
前に話したことがある?
パッと思いつかないけど、えっと、確か……
「………………まあ、はい。ははっ」
「覚えてないなら覚えてないって言ってくれ……まあ実際に会ったわけじゃねえし覚えてなくて当然なんだけどよ。アンタ、ちょっと前に初心者用のスレッドでパトロンがどうのって質問してたろ? あの時に詐欺かも知れねえって忠告したのが俺だ」
「あー……そういう人がいたのは覚えてる、かな?」
「そうか。まあ、実際は詐欺じゃあ無かったようだが」
「ええ、正真正銘パトロンですから!」
「それも謎だがな?」
その感想はもっともだと思う。
「ところで、見たところあまり武器は無いみたいだが、オーダーメイドは受け付けてるのか?」
「うん。受け付けてるけど……まだしっかりシステムとか決めてないんだよね。だから少し手探りになると思う」
このあたりのシステム、全く考えてなかったな。
ある程度予算とかはあるだろうし、聞かないといけないことは多そう。
「とりあえず、職業は?」
「魔剣士って職業だ。『魔剣』ってジャンルの武器を使って戦う戦闘職だぜ」
「魔剣? そういうジャンルがあるんだ。どんな武器なの?」
「簡単に言えば、魔力を流すことで強化される剣だな。実際見た方が早いか」
そう言って、彼は背負った大剣を手に取り、呟くようにスキルを発動させた。
「《魔剣解放》」
その瞬間、その刀身に沿うように青く水のエフェクトが流れた。水は循環するように流れ、やがて切っ先から滴り落ちていく。
「水湛魔剣ウォータードっつって、MPを消費し続ける代わりにかなりの水属性強化が付くって魔剣だ。これは今挑んでるエリアボスの弱点を突けるんで、ウチの武器職人に作ってもらったんだが、まあ素材を集めればオートで作れる既製品だな」
なるほど、そういうコンセプトの武器種か。
結構出来ることの幅が広そうな気がする。
「ちなみに、どういうのにして欲しいとかはある?」
「そうだな……折角の魔剣だ。面白いのにしてくれ」
「面白い……面白い?」
「ギミックとか能力とかな。マニュアルなら多分色々出来るんじゃないか? 色々見てきたが、既製品はそれぞれのギミックは良いんだがどうにも活かし方が想像できるファンタジーの範疇というか……それも悪くはないんだが、もっと面白いものを見てみたいんだ」
うーん……難しくない? まだ魔剣がどういうギミックを仕込めるようなものなのか分かってないんだけど。
まあ、確かに魔力を流すことで何かが動作するというのはかなり面白いことが出来そうな仕組みではある。
魔剣士という職業があるぐらいだから、恐らくこの職業以外で魔剣を使える職業というのはほとんどなさそうというのが残念だけど、普通の武器ではできないようなことができるかも知れない。
「属性は水?」
「ああいや、属性は必要ない。メイン武器にしたいからな。あとは出来れば物理寄りで作って欲しいってぐらいか」
「なるほど。じゃあ、武器種魔剣、無属性、物理寄り、面白いギミック……っていうのが条件かな」
「ちなみに予算はどれくらいですか?」
どこからか取り出した算盤を片手にシダが聞く。
「そっちの言い値で買うぜ。一応これでも金持ちではあるからな、金に糸目は付けねえ主義なんだ」
「なるほどなるほど。まあ魔剣用素材は取引額も高いですからね。前例も無いですし、試作も必要と考えると…………一応の予想はこのくらいです!」
「ほう……なるほどな。相場がどんなものかは分からねえが、オーダーメイドだ。その価値はあるだろ」
どのくらいの値段になったんだろう。まあ金に糸目はつけないと言ってるので好きに作っても大丈夫そうだ。
「それじゃ、頼んだぜ」
「ん、任せて」
店を出ていく彼の背中を見送りつつ、私は早速魔剣の構想を練り始めたのだった。