第二十五話 薬品、うず高く
いつも感想ありがとうございます!
全てに返信するのは難しいですが、しっかり全部読んでます!
ブルームーンを作ってから、私は更にいくつかの武器を作った。
武器種は色々。とは言え意識しないと刃物をつくりがち。
店をやるにあたってリクエストを受けて武器を作るっていうサービスをやっても良いかもしれない。そうすれば普段作らないようなものも作る必要が出てくるし、結果的に作れる幅が広がる気がする。
まあ、その場合も剣が人気なんだろうなとは思うけど。剣だけでも片手剣、直剣、大剣、両手剣などがあるし、刃物というジャンルならナイフやダガーだってある。
なんというか、冷静に考えると大剣と両手剣の違いがよくわからなかったり、直剣というジャンルがあるのに曲剣というジャンルがなかったりとかなりめちゃくちゃな気もするけれど、武器とスキルの仕様上こうなってしまうらしい。
「さてと。ある程度数は揃ったし、店に並べてみようかな」
鍛治スペースと同じく一階にある販売スペースに移動して、一旦持ってる武器をインベントリから取り出してみる。
今回作った武器の他にも、夜想剣ニュイ・エトワーレや鮫戦棍ギムリアなどがあって、一応これらを並べておくだけでもそれっぽくはなりそうだ。
「そういえば、イグニスプラーガってもう売れたかな」
「簡易ショップで売ってみてるんですけど、まだ残ってますね。配信で宣伝すればよかったかもしれません」
『買おうと思ったけど見つけられなかったぜ』
『簡易ショップ、結構使いにくいからな』
『生産職を潰さないように意図的に格差つけられてる説はある』
『なるほどね』
「じゃあ、イグニスプラーガもここに並べようかな」
店内のレイアウトを変更しながら、良い感じに商品を並べていく。
大きめの武器は壁にかけるような形で設置し、その他の武器は棚に並べる。武器の数が少ないので少し寂しいけど、今は仕方ない。
現状の目玉商品である夜想剣ニュイ・エトワーレは店に入ってすぐに目に付く場所に置いておいた。見た目的にも結構気に入ってるし、おしゃれ装備として買われる可能性はあると思う。
そんな感じで一通り武器を並び終え、私は入口に立って店内の様子を眺めてみた。
「うーん……いい感じ? よくわからなくなってきた」
『いいと思う』
『ファンタジーの武器屋って大体こんな感じな気がする』
『店のレイアウトとか難しいよな』
武器は今までにたくさん見てきたので自分の中での基準があるけど、店のレイアウトは気にしたことがなかったからどう判断すればいいのかよくわからないな。
やっぱり他の店とかを見たほうがいいのかもしれない。
「ちょっと他の店も見てこようかな。この大通りにどんな店があるのかも気になるし」
――――――――
というわけで、私は一度配信を切りあげてから店を出た。
シダと一緒に見て回ろうかと思ったけど、活動資金を稼ぐためにやることがあるらしく、今は私一人での行動だ。
店の扉には[CLOSE]の札を提げてある。防犯対策とかは流石に大丈夫かな。流石に武器盗むとかはできないと思うし。
で、この大通りにはいろいろ店があるみたいだけど、まずはやっぱり目の前の防具屋に行ってみようと思う。
名前は『黒檀防具店』。結構シックな感じの外装で、おしゃれな珈琲屋のようにも見える。
早速入ってみよう。そう思って店の前まで行ったところで、ドアに[閉店中]という札がかけられていることに気付いた。
「まだ開いてないか」
普通の店なら開店している時間だけど、これはプレイヤーが経営する店だ。開いているかどうかはプレイヤーのログイン状況に左右されてしまう。
これに関しては自分も考えなくてはいけないところだ。現実世界での生活がある以上、流石に四六時中ログインし続けるというわけにもいかないし、どうしても店を開けられない時間は長くなってしまうだろう。
NPCとか雇えないのかな。出来たらそれが良いのかもしれないけど、金銭的依存からの脱却を目標に掲げた手前、頼りにくさもある。
まあ、結局のところどうしたらいいのかは全く思いつかないし、それをシダに相談してしまったら私がログインしていない間彼女が自発的に店番をしはじめるだろうから胸の内にそっとしまっておくけど。
とりあえず、今日は別のところを見てみることにしよう。
黒檀防具店から数軒挟んだ先にある、「薬」とだけ書かれた謎の店。薬屋なんだろうけど、もう少し
外装の色合いも紫とか深緑とかでまとめられてるし、薬屋というよりも魔女の工房って感じだ。
正直入りにくいけど……仕方ない。意を決して、私はドアを開けた。
「わぁ……」
店内に足を踏み入れた私は、まずその異様さに圧倒された。
まず目にしたのは、陳列された大量の小瓶と壁を埋め尽くす無数の引き出し。その全てが寸分の狂いなく綺麗に配置されている光景は、ファンタジー世界ではなかなか感じることのできない無機質さがあった。
とりあえず、目の前の棚に置かれた小瓶を手に取ってみる。
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幺蛇毒 [素材]
若い蛇から抽出した毒を精製したもの。
老いた蛇のものに比べると有毒性は弱いが、他の素材と掛け合わせることで効果を発揮させることができるため、素材として用いられることが多い。
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薬って大きく書いてある店で最初に手に取ったのが蛇の毒って。
まあ毒薬も薬のうちなんだろうけど。
「あ、いらっしゃいませ」
不意にかけられた声に驚いて店の奥の方を見てみると、椅子に腰かける一人の少年がいた。
店員の姿が見えないと思っていたけど、棚によって死角になっていたらしい。
「置いてあるものは全部商品なので、自由に見ていってください、はい。欲しいものが置いてなければ作れます、はい」
独特な喋り方の彼は、言い終えると机のほうを向いて何やら作業を始めた。恐らく薬を作っているのだろう。
どういう感じで作っているのか気になったけど、ちらっと見えたのが何かの根のようなものと拳大の大きさの甲虫をすりつぶしている様子だったので見ないようにした。
まあ、それはともかく。プレイヤーの作る店がどのようなものなのか、その一例を知ることができたので目標は達成したと言えるだろう。
ただ、それとは別に、私の興味は薬を武器に使うことはできないだろうかというところにシフトしていた。
グリップに液状の毒薬を装着して、それが刃の内部を通って切っ先から滲み出すことで敵に状態異常を与えるナイフとか結構面白そう。できるのかどうかはよくわからないけど、マニュアル操作で行われる鍛冶の自由度を考えるとできそうな気もする。
毒薬でなく回復薬のようなものを使う場合は……どうだろう。正直あまりいい案が浮かばないな。
アンデッドに回復薬を使うとダメージを与えられるというのはファンタジーだとよくあることだし、そういう方向なら活かせるとも思ったけど、結局この使いかただと毒薬と同じか。
回復させるという性質は、武器には合わなそうだ。
面白そうな薬はないかと片っ端から効果を見てみつつ、そんなことを考えていた私だったが、ふと製作者の名前が目に留まった。
これらの薬を作っているのは、どうやら『ケルベラ=ロンド』というプレイヤーらしい。
この店唯一の店員っぽい彼のことなのだと思うけど、どこかで聞いたことのある名前だ。
数秒考えて、思い出す。
「あー、シダが使ってた毒薬の人か……」
「シダさんを知ってるんですか?」
店の奥から、再度声がかかった。
心の中で言ってるつもりだったけど、どうやらいつの間にか声に出していたらしい。
「知ってるというか……支援者みたいな?」
「支援者……そういえば、確かシダさんは誰かのパトロンになると言っていましたけど、もしかしてあなたですか?」
頷いて肯定すると、彼はなるほどとつぶやいた。
「シダさんと知り合ったのは一年くらい前に他のゲームでなんですけど、その時からずっとお気に入りの武器を探しているような人でした、はい。そんな彼女が一人のプレイヤーを支援するというのは……あなたの作る武器がよほど気に入ったのでしょうね」
「そうだったんだ」
「はい。……あの、良かったらこれ使ってみませんか?」
そう言って、彼は一つの小瓶を手渡してきた。
中身は普通に薬のようだったけど、他のものと違うのは、名前の横に[武具生産用]と書かれていることだ。
「使用者がいなくて持て余してるんです、はい。お代はいらないので、使ってみた感想など教えてくれたらありがたいです」
「ありがたいけど……良いの?」
「在庫だらけですからね、はい。それに、あなたが薬を使って良い武器を作ることができれば、間接的にシダさんの手助けにもなりますから」
大きなボックスの中から取り出した大量の小瓶を並べながら、彼は言った。
「……うん。じゃあ、ありがたく使わせてもらいます」
「はい。役に立ててくださいね」
思わぬところで出会ったシダの知り合い、ケルベラ=ロンド。
彼とフレンドになった私は、貰った大量の小瓶をインベントリに収めて、大通りを歩くのだった。