第二十三話 [兎の翼]
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「というわけで、店ができました」
『!?』
『?????????』
『どういうわけで?』
『順を追って話してくれ』
「うん、気持ちは分かるけど私もまだ認識が現実に追い付いてないんだ……」
人間、急に何か与えられると思考が止まってしまうんだなって。
シダが馬車を動かしてくると言って去ってしまったので、私はとりあえず配信をすることにした。
現実時間では平日の14時くらい。流石にこの時間ではまだ視聴者の数は多くはない……はずなんだけど、この前の配信の平均視聴者数と同じくらいいる気がする。
みんな暇なのかな。それとも、多少なりとも私が人気になったと考えるべきか。エボニーがコメント欄に出没したとかそう言うのもあって、ちょっと掲示板でも話題になってたみたいだし。
まあ、人が増えるのは良いことだと思う。
『どこで店やってるの?』
「えーっと、レオーネの居住区でいいのかな。固有の名前があるのかは分からないけど、大通りに面してるところ」
『一番値段高いところじゃん』
『シダP、マジで何者?』
『馬車とどっちが高いんだ?』
『ぶっちゃけ馬車。あれが一番ヤバい』
始めたばかりなのでシダの資金関連のヤバさが正確に把握できていなかったんだけど、コメントの反応も含めて徐々に理解しつつある。シダの資金源が本当に謎なんだけどどうやって稼いでるんだろう。
契約してから稼いでるっぽいところは見てないけど、そこはまあ私をここまで連れてくるっていうのがあったから何もやってないだけだろうし。
考えれば考えるほど謎だし、考えても意味ないんだろうな。案外めちゃくちゃ力業で稼いでいるかもしれない。
「まあそれはともかく、今日の配信は何しようか。武器は作りたいけど、まだ新居だから鍛冶の設備とか整ってないんだよね。シダが言うには、馬車の内部空間と店の工房をリンクさせられるみたいなんだけど」
『武器作れないのかー』
『レオーネの散策とか? 俺まだツヴィリングだからどんな感じなのか気になる』
「散策はさっきしてきたところだからね。居住区のお店とかは見て回りたいところだけど、配信しながらっていうのは難しそうだし」
『そんなに配信に映りたくない人もいるだろうしね』
『生産職とか大体妙なこだわり持ってるからめちゃくちゃ配信嫌ってる人とかもいそうだな』
『じゃあ普通にNPCの店とかならいいんじゃね?』
「NPCの店か」
よくよく考えると、店って一度も行ったことない気がする。
店をやるならレイアウトとか考えないといけないだろうし、そういう意味でも一度店を見てみるのは良いかもしれない。
「じゃあ武器屋とかかな……いや、もしかして生産職用の装備が売ってる店もある?」
『ある』
『レオーネにはあるんだよね。他の都市だと大抵武器屋防具屋とまとめられてるけど』
『生産職のレベルが一定以上じゃないと入れない店とかあるらしい』
『何それロマン』
『まあとりあえず[兎の翼]に行ってみるといいんじゃね? wikiにレオーネの生産職用の店で一番デカいって書いてあるし』
「なるほど。情報ありがと。せっかくだし行ってこようかな」
メニューからマップを開き、エリア名検索で[兎の翼]と検索すると、クロムフィード商店街というエリアの中にあることがわかった。近くに並ぶ武器屋や防具屋と比べると小さい気がするけど、生産職用の店という専門性の上でこれくらいの大きさなら大きいほうなんだろうな。
シダに連絡しておき、忘れずにカメラを持ってから、私は商店街エリアへとワープしたのだった。
――――――――
「いらっしゃいませ! [兎の翼]へようこそ!」
ドアを開けた私を出迎えたのは、うさ耳の少女だった。
そういうお店?
「本物の耳?」
「はい! 兎人族なので!」
そういえばそういう種族もあるんだっけ。
確か獣人族と言って、いろいろな生物の因子を取り込んだキメラ的な祖先から派生した様々な種族がある……みたいな説明を読んだ気がする。
設定上は様々な獣人族がいるらしいけど、プレイヤーが選べるのは四大氏族である猫人族、爬人族、兎人族、鳥人族だけなのだとか。一応NPCにはスパイダーシッカーとかドルフィンシッカーとかもいるらしい。
以上、武器のフレーバーテキストを作るにあたってある程度ゲーム内設定は知っておいたほうがいいと思って、丁度読んだ資料に書いてあったことでした。
さて、うさ耳の店員さんに自分が武器職人であることを伝えると、彼女は武器職人用の工具が集められたコーナーに案内してくれた。
広い店だけあって、様々なものが置いてある。
多種多様な工具を前に、私の胸は躍る……と思っていたんだけど。
「なんかどれも馬車で見たな……」
いい感じの工具は大体馬車で見たものと同じものだった。まあ店で買える最高の装備揃えてるとか言ってた気がするし。
『シダPならここにある工具全部買うとか普通にしそうだもんな』
『というか実際やってると思うわ……』
『金策の方法教えてほしいわ』
「うーん……あ、そうだ。最近新しく入荷した工具とかある?」
「最近入荷した工具だと、こちらのハンマーですね!」
そう言って、彼女はあるハンマーを指さした。
透明なケースに収められたそのハンマーは、一見普通のハンマーのように見えて、柄の底の部分からコードのような線が伸びていたり、金庫のダイヤル錠のようなパーツがついている。
見た感じ、サイズのバリエーションはないらしい。自分は結構使い分けるタイプなので、できればいろいろなサイズがあったほうがいいんだけど。
「こちらのハンマーは、炉から魔力の供給を受けることで威力を調整させることのできるものなのです! 従来のように複数のハンマーを使い分ける必要がなく、慣れればとても繊細に使うことができるようになりますよ!」
「へー……便利そう。おいくら?」
「結構高額な商品ですので、値段に関しては店長と話していただくしかないですねー。多分50万くらいはかかると思います」
「50万……」
今なお金銭感覚の備わっていない自分でもわかる。明らかに高い奴だ。
50万っていうと、シダがクラーケンを倒すときに使っていた金額も確か50万だった。いや、薬品の分の金額も入れるとさらに高くなるかな。
じゃあつまりクラーケンを倒すために必要な費用よりも安いのか……ん?
「……あれ? もしかして安い?」
『高いよ』
『高ぇって!!』
『www』
『狂っちゃった?』
『おい誰だよ初心者にヤバい金銭感覚植え付けたヤツ』
『シダPは正常な金銭感覚を盗んでいきました』
「ひどい言われよう」
そろそろまともな感覚を身につけないとまずいなと思いつつ、私はいつの間にか合流していたシダと一緒に[兎の翼]で色々なものを買ったのだった。