第二十二話 新店地
首都レオーネについてから、私はアリフラからログアウトした。
いつの間にか夜遅くなっていたし、明日は平日だ。
学生なので平日は当然のように学校に行く。二年生になったばかりで学校をさぼってゲームとかは流石にする気になれないし。ゲームは好きだけどリアルも大事だよね。
そんなわけで、風呂に入ったり明日の準備をしたりして、私はベッドに横になったのだった。
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翌日。四限までの授業を終えて帰宅した私は、早速ゲームにログインすることにした。
一応見なきゃいけない映像授業とかもあるんだけど、それはいつ見てもいい奴だし、今は置いておく。
[〈Alisphere Fragments〉にログインしました]
私がログインし、システムメッセージが出てから十秒程度でシダから連絡がかかってきた。早すぎるでしょ。
『もしもし! 今から会えますか!?』
「うん、私は大丈夫だけど……シダは平気なの? 一応月曜日だし、なんか用事とかないのかなって思ったんだけど」
『別にサボってるわけじゃないですよ? 私のところは今日は休みってだけです!』
「そっか。それならいいんだけど」
私の為に学校をさぼるとか普通にしそうなのが怖い。まあ、流石にそういうのはしないでねって言っておけば大丈夫だと思うけど。
『今どの辺にいます?』
「えっと……ゴルドー広場ってところの近くかな」
『でしたら、ゴルドー広場で集まりましょう! すぐ向かいますね!』
というわけで、私はシダと合流するために待ち合わせ場所に向かうことにした。
首都というだけあって現在訪れることのできる都市エリアの中で最も巨大なエリアらしく、西洋ファンタジーと聞いて誰もが最初に思い浮かべるようなオーソドックスな街並みには、MMOらしく様々な装備を身に着けたプレイヤーが溢れていた。
最前線の都市だけあって、これまでの都市に比べるとプレイヤーの装備の質が高くなっているような気がする。ヤオキアとか倒す必要があるから当然だけど。
シダと合流してからは、既にこの都市のことを把握している彼女に連れられて、主要施設の集まる区域やギルド区など、レオーネの様々な場所を巡ることにした。
これまでの都市は自分で訪れたエリアにしかワープできなかったけど、レオーネは広すぎるためか最初からある程度のワープが解放されているようで、それを利用しながらの探索だ。
正直、これがなかったら移動がしんどいなと思うくらいには広かった。一応大通りとかは馬車で移動することもできるみたいだけど。
そんな感じでレオーネを見て回って、最後に訪れたのはプレイヤー居住区だった。
ここはプレイヤーが家を買うことのできる区域のようで、今までのようなオーソドックスな街並みとは打って変わってかなり個性的な家が立ち並んでいる。
居住区というだけあって当然買った家に住むこともでき、おしゃれな家を作って公開する人もいるらしいけど、ここの使いかたはそれだけじゃない。自分の店を作ることもできるのだ。
人が良く通る大通り周辺は地価が高く、そこに店を作って収入を得ることを前提としている節があり、実際、大通りには既にプレイヤーが作った店がいくつかあった。
とは言え、生産職がレオーネまで来てること自体が稀らしく、店は数えるほどしかなかったけど。
「店かー……生産職のあこがれだよね、自分の店を作るって」
「そう言うと思って、既に購入してありますよ!」
「……え、マジで」
「はい! ここですよ!」
シダが手を広げて示した先には、売約済と書かれた紙の貼られた建物があった。
二階建てで、馬車庫も備え付けてあるしっかりとした建物だ。この辺りは他の建物にも共通しているようで、店によってはある程度作り替えられたりはしているけれど、大体は同じ感じだ。これがベーシックらしい。
……え、ていうか本当にここ私の店なの? 生産職のあこがれ、ゲーム開始数日で手に入れちゃったんだけど。
冗談みたいな話だけど、シダの言うことなので冗談には聞こえない。
「なんか唐突すぎて全然感情が追い付かない……とりあえず何したらいいんだろう」
「そうですね。まずは店の外装を変えるとか、名前を作るとかですかね」
「外装と名前……店の見た目はそれほど興味ないしこのままでもいいんだけど、店の名前は決めたほうがいいかな」
店の外装はデフォルトの状態で普通にいい感じなのでこのままでいいとして、流石に店の名前くらいは決めないといけない。
とは言っても、店の名前ってどういうのが良いんだろう。
武器の名前を決めるのとはわけが違うし、ちょっと思いつかない。他の店を参考にしてみようかな。
そう思って、大通りの店を見てみる。
左右には店の入ってる建物はないようだけど、向かいには『黒檀防具店』という店があった。
ライバル店になるのかなと一瞬思ったけど、防具なら競合する心配はないし、むしろ相乗効果を生みそうな気もする。あとで挨拶がてら見に行ってみるのもいいかもしれない。
それ以外だと、『きゅーと♡ぷりずむの館』とか、看板に『薬』とだけ書かれた店とかがあった。なんか全体的に参考にならないな。
……いや、むしろ店名は自由でいいってことなのか。そう考えると何でもよくなってきたし、直感で決めてしまおう。
「じゃあ、『武器屋 ユーカリの葉』で」
「わかりました! 早速登録しますね!」
シダが手元のウインドウを操作すると、何も書かれていない看板が店の入口上部辺りに現れ、それから『武器屋 ユーカリの葉』という文字が表示された。……大きく角ポップ体で。
「……とりあえずフォントは変えようかな」
店のデザインにはそれほど興味はないとは言ったけど、流石にこのフォントはダサいので変えることにしたのだった。
居住区には既に家っぽいオブジェクトが立ち並んでいる状態で、プレイヤーがその土地を購入することで家の外観などをいじれるようになっています。
なので大通りにはしっかり店っぽいものが並んでいる状態ですが、実際に機能している店はプレイヤーが作ったいくつかの店のみ、という感じです。