第二十一話 斯くして聖剣は産み落とされた
窓の外を流れる岩肌が殺人的な速さで後方へと進んでいき、揺れを吸収する特殊な馬車でもなお吸収しきれない程の揺れが、工具をカタカタと揺らす。
ヘルメスとシダがヤオキアを倒してから、私たちは王都レオーネに向かってアンティキアを下山していた。
見た感じ、敵はいないらしい。精霊馬で蹴散らしているのかもしれないけど。
シダは相変わらず御者台にいて、ヘルメスは私と一緒に馬車の中にいる。
私は相変わらず武器を作……ろうとしていたけど、ヴィドランゼを作った後というのもあってアイデアが浮かばず、コメントを読んだりしていた。
そのあとは特に何かを話すでもなくぼーっとしていたのだけど、そんな中、不意にヘルメスが口を開いた。
「ところで、提案なんだが……」
彼女は机上に置かれたヴィドランゼを見ながら言葉を続ける。
「先客がいないのであれば、この剣、私に売ってくれないか?」
彼女の口から出たのは予想外の申し出だった。
ヴィドランゼに関しては確かに思い入れはあるけれど、武器は使われてこそというスタンスは変わらない。
当然、断る理由もないので快諾することにした。
「もちろん。特定の誰かのために作ってたわけじゃないし……というか、むしろこちらからセールスしようかと思ってたくらい」
「そうか、それなら良かった。値段は?」
「その辺りはシダに丸投げしてるから、交渉してみて」
「分かった。レオーネにつき次第、聞いてみるとしよう」
実際、ヴィドランゼの材料費ってどのくらいなんだろう。結構いい値段すると思うけど……トッププレイヤーなら平気か。
「ちなみに、この剣は何という名なんだ?」
「ヴィドランゼって名前。特に元ネタはないけど」
「ヴィドランゼ……聖剣ヴィドランゼか。良い名だ」
「うん…………うん?」
聞き間違いかな。
「えっと、聖剣?」
「ああ。……聖剣ではないのか?」
「いや、およそ聖剣には見えない外見だと思うんだけど」
「武器は見た目で判断するべきではないと思うぞ」
「それはそうなんだけど、ステータス的にも闇属性強化とか吸血とか付いてるはずだし……」
そう言いながら、私はヴィドランゼの武器ステータスを開いてみた。
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必要STR:58
攻撃力+39、斬撃強化+5、闇属性強化+2、出血付与、吸血武器、吸血効果『毒付与』、吸血強化『聖属性』
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「……え?」
痆鬼の角は闇属性強化、出血付与は波打つ大角。吸血武器は啜血球で、残った夜魔の翼は必要STRを減らす役割を持っている。
だから、その辺りは分かるんだけど……最後の二つ、何?
『シナジーね』
「シナジー?」
私が疑問を口にするより早く、コメント欄の誰かが補足した。ID的にエボニーだ。なんかもっとわかりやすく識別できないかな。
『特定のアイテムの組み合わせで、本来は発動しないはずのスキルが発動することがある。それがシナジー』
なるほど……。ということは何かの組み合わせでこのスキルが発動しているわけだけど、何が原因なんだろう。
まあシナジーを発生させた素材のうち一つは確実に啜血球なんだけど、もう一つ、聖属性を持つものがないとこうはならないはず…………あっ。
「聖墨血かー……」
『啜血球なんて使ったことないから知らなかったけど、こういうシナジーもあるのね』
聖墨血という名前で気づくべきだった。もう遅いけど。
「事情はよく分からないのだが、とりあえずこの剣には聖属性が付与されている。聖剣で問題ないと思うのだが」
「いや、でも魔剣のつもりで作ったし……」
「…………」
「……聖剣、ヴィドランゼです」
『敬語wwww』
『ユーカリ、折れた!』
『圧が凄かったね……』
『こうして魔剣は聖剣になったのだった』
いや……うん。こういうのもありだよね。聖騎士が聖剣だと言ったらそれはもう聖剣だよ。ちょっと悲しい顔してたし。
それに、聖属性強化が付いたのは事実だし、明らかに外見が魔剣なのに聖剣というのは、それはそれで良い感じに物語性が生まれる気もする。
フレーバーテキストをどうするかも思いついたし、今回は屈することにしよう。
さて。やがて馬車の揺れは収まっていき、数分の後、シダの声がかかった。
「着きましたよ! 王都レオーネです!!」
馬車を降りた私を迎えたのは、身の丈の数倍はある巨大な門で。
活気に満ちた大通りや、遥か先にそびえる白亜の城を見つつ、私はこれからのことに想いを馳せていたのだった。
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聖剣ヴィドランゼ
必要STR:58
攻撃力+39、斬撃強化+5、闇属性強化+2、出血付与、吸血武器、吸血効果『毒付与』、吸血強化『聖属性』
かつては闇より生じ、血を啜る魔剣であったが、一人の聖騎士のもとに魔は聖へと裏返った。
その漆黒の様相とは裏腹に、悪しき者の血を聖なる力に変換する能力を持ち、浄化の剣とも称される。
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第一章完結です!
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