第二十話 憑炎蒼龍ヤオキア
投稿が遅れてしまって申し訳ありません!
一章は次回で終わると思います。
傷だらけの状態で馬車に入ってきたヘルメスを支えるように、私は踏み出した。
「大丈夫?」
「私自身は無事だ……回復薬が効いてる。ただ、武器が壊れてしまってな……」
そう言ってヘルメスが取り出したアルケヴル・キーは、石のように変化してしまっていた。
「一時的に武器を使えなくするデバフだ。こんな技を使ってくるなど、報告にはなかったのだが……」
「今はシダが抑えてくれている。いち早く戻りたいのだが、なにか代わりになる武器はないだろうか」
「シ、シダが……? 大丈夫なの?」
「ああ……彼女は強いからな。正直、彼女がなぜ戦闘職でないのかが疑問でならない。少なくとも、時間稼ぎは私よりもうまくやるだろう」
シダって本当に何者なんだ……。まあ緊急事態なので今は置いておくけど。
代わりになる武器。そう言われて最初に思い浮かんだのはニュイ・エトワーレだった。
しかし、ヘルメスが使っていたアルケヴル・キーの武器種は大剣。夜想剣ニュイ・エトワーレは直剣に分類されるものなので、代わりにはならない。
一応イグニスプラーガは大剣に分類されるだろうけど、あの必要STRをクリア出来るとは思えず、というかそもそもシダに渡したのでこの場になかった。
他に何か作ったっけと考えて、ふと、一つ見落としていたことに気づく。
……あれ? ヴィドランゼって大剣?
慌てて確認してみると、予想通り武器種は大剣だった。つまり、これなら代わりになる……けど……。
聖騎士に魔剣渡してもいいのかな……。
システム的には問題ないけど、なんというか、ここまで見てきただけでも結構ロールプレイを重視するような感じに見えるので少し不安ではある。
……まあ、他に武器もないし仕方ない。早速実戦に投入できると考えよう。
「武器種大剣だと、これしかないけど」
そう言って、私はヘルメスにヴィドランゼを譲渡した。
「STRとか、足りてる?」
「ギリギリ足りないが、ボーナスポイントを割り振れば大丈夫だ」
「良かった……。それ、今の私が作れる一番強い武器だから。作ったばっかりだけど、思いっきり使っていいよ」
「すまない、有り難く使わせてもらう」
礼を言って、彼女はすぐに外へと駆けていった。
『早速実戦投入だ』
『聖騎士が魔剣持っていいの?』
『光と闇が両方そなわり最強に見えるな……』
「そこは私も気になるけど……ちょっと外で見ようか」
カメラを持って外に出た私を、肌を刺すような熱気が襲う。このエリアの名前は蒼炎火山アンティシアだったから、ここも当然火山なのだろう。
辺りを見渡してみれば、炎や溶岩が至る所から噴き出し、その熱によって陽炎が揺らめいていた。
そして、そんな地獄にも似た極限の環境の中で、一際目を引くものがある。
魔剣ヴィドランゼを持って立つヘルメスの先に立ちふさがる、青い炎に包まれた謎の生物だ。
生物……というのも違うかもしれない。
炎に包まれてなお焼け焦げることのないその身体は、例えるなら生肉のようで。所々から突き出した骨のようなものも含めて、この生物が生きているようにはとても見えなかった。
その分、それを覆う蒼炎ははっきりとドラゴンのように形を変化させていて、むしろ此方が本体なのではないかと思うほどだ。
[エリアボス 憑炎蒼龍ヤオキア]
意識を向けることで、モンスターの名前が表示される。
憑炎蒼龍……炎が龍に憑りついているのか、龍が炎に憑りついているのか。どちらにせよ、その龍から発せられる圧は、仮想世界のものとはいえ私の身体を竦ませるには十分だった。
「シダ、無事か!」
「私は大丈夫です、ギリギリですが……! というか、そう言うヘルメスさんはもう大丈夫なんですかっ」
「ああ、武器はどうにかなった。代わりになるものを……と思っていたのだが、むしろこれはアルケヴル・キーよりも格段に良い」
ヘルメスが剣を構えると同時に、ヤオキアは大きく口を広げた。
同時に、薪が爆ぜるような音が幾重にも重なって響いてくる。恐らく、これがヤオキアにとっての咆哮なのだろう。発声器官とかなさそうだし。
咆哮の後襲い来る、連続する突進と吐き出す業火。その全てを僅かな動きで避けていき、ヤオキアへ肉薄したヘルメスは、両の腕で剣を握って力強くヤオキアの肉を切り裂いた。
地面が水を吸うように、剣に付着した返り血は滴るでもなく消えていき――それと同時に二種類の光が放たれた。
濁った濃い緑がぼんやりと刃を覆い、白く柔らかな光が辺りを照らす。その光は一瞬のもので、私にはそれが何なのかは分からなかったけど、ヘルメスはその様子を見て、何やら頷いていた。
そんなヘルメスの姿を見て、龍は爪のような炎を地面に突き立て、大きく息を吸い込むように仰け反った。
非戦闘職の私でもわかる、何か大きな攻撃を放つときの予備動作だ。
普通なら安全な場所まで退避するべき攻撃なのだろうけど、ヘルメスはむしろ大剣を担ぎ上げて見せた。
「分かっていれば同じ手は食らわん――《聖導旗剣》!!」
スキルの発動と同時に、勢い良く振り下ろされる剣。
その軌跡には白い旗の様なオーラがたなびいて、ヤオキアが大技を発動するよりも早く、その身体に剣が到達した。
そのまま縦一文字に斬り裂かれ、しかし尚も動こうとしたヤオキアだったが、その直後に傷口から溢れ出た目も眩む程の光に灼かれ、遂に動かなくなったのだった。
『めっちゃ強いやん』
『ガチ勢怖い』
『てか、聖騎士って盾使う職業じゃなかったっけ……?』
『基本使うよな。回復もできる強いタンクで、普通は片手で使える剣と盾を持つ感じなんだけど』
『この人は使わないんだよな……前線組だから何回か見たことあるけど、この人攻撃避けるんだよ』
『角人族の聖騎士でそんな戦い方出来んのかよwww』
『現に出来てるのがめちゃくちゃ怖い』
コメントの反応を見ずとも、ヘルメスがめちゃくちゃなことをやっているのは分かる。
人よりプレイ時間が長いだけとか言ってたけど、明らかにそれだけじゃないよね。
地獄の様な空間に魔剣を持ってたたずむヘルメスの後ろ姿を見て、そう思わずにはいられなかった。