第十五話 二日目の配信
カメラ、よし。
鍛治道具、よし。
配信ページ、よし。
髪型……よし。
色々と確認してから、私は配信ボタンを押した。
「配信出来てるかな」
『わこつ』
『映ってる』
『初見です〜』
『ログインしたらちょうど配信始まった』
配信開始ボタンを押すと、少し間が空いてコメントが流れ始めた。
なんとなく前回の放送よりもコメントの総量が多いような気がする。視聴者数に関しては……まだ配信開始直後なので前回のピークよりは少ないか。
「なるほど、こうやって配信しているのか……」
カメラや配信画面を見て、ヘルメスは珍しそうに言った。
「配信の様子を見ていてもいいかな。少し興味があるんだ」
「いいけど、武器作るだけの配信だよ」
「充分だ。というか、武器職人を本職にしているプレイヤーを見るのは初めてだからな。むしろそちらの方も気になる」
「武器職人ってそんなに少ないんだ……」
「武器職人というか、生産職全体だな。生産職をやってる人間もメインは戦闘職というのが殆どだ」
もっと増えてもいいと思うんだけど……まあ、まだ始まったばかりのゲームだし、最初は戦闘職を選ぶのが定石というのも理解できる。
なんて考えていると、コメントがヘルメスに言及し始めた。
『知らない人がおる』
『見ない顔ですね』
『いや、見たことあるぞ』
『最前線の人じゃん』
「ほう……私のことを知っている人もいるみたいだが、一応名乗っておこう。私はヘルメス=ヴィングレイス。蒼炎火山を越えるために雇われた者だ」
『強い人なん?』
『一級廃人クラン【セフィロト】のメンバーよ』
『マジじゃん』
『これシダPの人脈?』
『どうやってあのエリア越えるんだって思ったけどこの人ならいけそう』
チャット欄が一気に盛り上がってきた。結構有名なプレイヤーだったらしい。
名前が出てたセフィロトというのはいわゆるケテルとかマルクトとかのあれだろうけど、クランとなるとよくわからないな。そもそもクランのシステムがあったこと自体初耳だった。チュートリアルスキップしてるから仕方ないけど。
「有名な人だったんだ」
「人よりプレイ時間が長いだけだ。それに、前線にいれば嫌でも名が知れる」
『人より長い(睡眠時間不明)』
『調べると大体いる』
『セフィロトのメンバーは基本的に生身の身体を捨ててるんじゃないかって言われてるからな』
「そういう話の九割は都市伝説だ、気にするな」
「一割でも事実だったらヤバいと思う」
せめて睡眠時間はちゃんと確保したほうがいいと思う。
人のプレイスタイルだから私が何か言うようなものでもないんだけどね。
まあ、それはそれとして今回も武器を作っていくことにしよう。
「じゃあ今回は、折角だから聖属性の武器作ってみようかな」
『待ってました!』
『Foooooo!!』
『イエエエエエエイ』
『ジュースしようと思ったらまだ開放されてなかったから応援するぜ!!!』
「テンションの上がり方えぐいな。もしかしてこれから先ずっとこうなの?」
『早く血を見せろーー!!!』
「そこまで行くともうただの暴徒だよ」
コメントが盛り上がってるってことだから別にいいんだけど。やっぱりみんな武器作るところ観たいんだね。
「やっぱ作るなら聖剣かな。そういえばヘルメスの武器も聖剣?」
「ああ。聖属性強化を持っているから、聖剣と呼んでもいいだろう」
そう言って、ヘルメスは武器ステータスのウインドウを開いて私に見せてきた。
————
アルケヴル・キー
必要STR:50
攻撃力+30、斬撃強化+6、聖属性強化+3、麻痺付与+2
————
「レアモンスター『アルケヴルの天使』から直接ドロップしたものだ。単純な攻撃力なども要求STRの割に高いが、何よりも聖騎士に必要な聖属性強化があるのが良い。現段階でそれを持つ武器は、それこそ武器職人に頼むぐらいしか入手手段がないからな」
「なるほど……レアなんだね、聖属性って」
『基本属性に光属性があるけど、聖属性はそれとはまた違う奴だからな』
『制限が多い分光属性よりも強いって感じ』
『このゲーム属性多いよな』
『基本属性以外は希少な感じだからそんなにみないけどな』
「となると、聖属性強化が付きそうな素材も少ないのかな」
とりあえず、素材箱を見てみることにした。
素材として使用したときに付与される装備スキルで検索することは流石にできないようなので、とりあえず名称検索で「聖」と入れてみることに。
すぐに検索結果が出てきて、そこから使えそうなものを見てみる。
「これなんか良いかも」
[カルジール純聖銀]
カルジール洞窟で採掘できる銀。カルジールに埋葬された聖人の力によって聖なる力を宿している。
かなり柔らかく変形しやすいため、武器や防具に単体で使用することはまずないが、その分他の金属系素材と融合させやすいという性質も持つ。
何か別の金属と組み合わせることで武器に使用することが出来るという素材らしい。
いわゆる合金のような感じになるんだろうけど、割合とか考え始めると止まらなくなりそうだな。
というかむしろこれ単体で武器を作ってみたりもしてみたい。今は大人しく合金にするけど。
「合わせるのは、毎度お馴染みフィール輝鋼かな」
外見的には、白をベースに金色を使ったミルキーウェイに近いような感じになるかも。アクセントとして青色を入れるのも良いかもしれない。
とりあえず、今回も性能は後回しでやって行くことにしよう。
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