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第85話

 電話に向かってブチまけられるその怒号は周辺の客の視線も集めた。


『ごめんよ、諒花。落ち着いたら話すつもりではいたんだ。でもテスト勉強とか色々あって忙しかっただろ? だからどこかで話そうとは思ったんだが──』

が、その当人である人狼少女は花予の言葉に更に厳しくなり、お構いなしに続ける。


「そんなことはどうでもいいんだよハナ!! 零にだって、姉がいるとだけ教えても良かったじゃねえか。なんでアタシ達を差し置いて歩美と二人だけで隠し事してたんだよ。おい……!!」

『……!』


「話してくれればアタシや零だって、力になってたかもしれないのに……もしかしたら湖都美さんを助けることも出来たかもしれない。どうしてアタシ達のこと、信じてくれなかったんだよ、ハナ!!!」


「諒花、行こう……!」

 突如後ろに強く引っ張られる。それは他の利用客の視線を気にした零だった。引っ張られ、自然に体が動き、早々にその場を後にした。


『あたしはさ、二人も守りたかったんだ。これまでも、そして零ちゃん来てからも異人(ゼノ)だからって理由で色々大変なことがあっただろ? 諒花の友達でいてくれる零ちゃん、歩美ちゃん含めて三人とも大切なんだ。みんなが笑顔なら、あたしも同じく幸せなんだ。それだけだったんだよ……』

 零に体を引っ張られている間も花予の悲痛な思いの言葉がダイレクトに伝わってくる。


『……なのにどうしてだろうね? 湖都美さんに自分の存在は隠すように頼まれて口止めされても、遠回しに諒花や零ちゃんに相談すれば良かったのかな……?』

「そうだよ!! ハナって水臭い時があるよな!! 家族なのに!!」


 これまでも、自分が稀異人(ラルム・ゼノ)であることやメディカルチェックのこととか、その一つ一つを初めて知って、たとえ躓いても苦しくてもその現実を受け入れようともがいた過程には花予も絡んでいる。いつも大事な所で大切なことを教えてくれてなかった。辛く悲しい思いをさせたくないがために。

 今のこの状況も、空回っていても、一つ分かることがある。それは決して意地悪とかではなく、花予なりの優しさであることが。だが、今回は手遅れだった。


「アタシ達がいたら歩美があんなおかしな鎧纏った騎士になることだけは事前に阻止出来たかもしれないんだ!! 母さんの二の舞にならないように脳みそ絞って、零の知恵を借りてでも、湖都美さんをどうにか助ける方法、見つけられていたかもしれない……!」


『そうだな……その通りだ。その可能性に気づけて、もっと行動していたら変わっていたのかな……? 諒花、歩美ちゃんがああなったのはあたしの責任だ。もっと歩美ちゃんに寄り添っていれば……』


「寄り添う──葬儀で一週間半も家を空けていたのは葬儀だけでなく悲しむ歩美を励ますためでもあったんだろ?」

『そうさ。歩美ちゃんが立ち直るまで大阪にいたんだ。気晴らしに水族館や遊園地に遊びに行ったり。最終的に元気を取り戻したから安心してたけど、それでも彼女の心の闇を浄化出来なかったみたいだな……』

 マグドを出て再び人々の行き交う街中に出ると、適当にその辺りの歩道を歩きながら、今さっき屋上で起こった出来事の全てを花予に説明する。零もその隣を一緒に歩き、こちらと周りの様子をうかがって見ていた。


『諒花、歩美ちゃんはどうやって湖都美さんを生き返らせようとしてるんだい?』

「その方法はまだハッキリとは分からねえ。けど剣で斬った相手の異源素(ゼレメンタル)を吸収しまくって、賭けてみたいって言ってた。嫌な予感しかしねえ」

『それは真っ当な方法じゃないな。歩美ちゃん一人で危険を冒して、到底実現出来る事とも思えない』


「なあ、ハナ。一度死んだ命が生き返ることはないんだろ?」

 小さい頃、微笑む亡き両親の写真を前に、二人が死んだことを花予に優しく聞かされたことが脳裏に蘇った。


『当然だよ。たとえこの世の表社会の影に隠れて、色んなチカラが存在しているとしても、そんな蘇生方法があったらヤバい代物でしかないと思う。歩美ちゃんは何か勘違いしているか、その鎧を着せた誰かに騙されているに違いないよ。それに剣で容赦なく二人に襲ってくるとか、本来はそんな事をする()じゃない』


「アタシと零も同じくそう思ったハナ。あれはいつもの歩美じゃない。何かあると思ってる」

 花予の出した答えはこちらと考えは同じ。あの歩美があんな所業をすることが信じられない。それは諒花や零以上に歩美を見続けてきた花予だからこそ、同じでも特別重く響く答えだった。


『こっちから歩美ちゃんに連絡しても一向に繋がらないのはそのためだろうな。いや、二人が三茶行ってる間、一緒にお昼でもどうかって誘おうと思ったんだけど』

 もしもこうして秘密を暴かなければ、そこで二人でしか出来ない話をするのは想像できた。今までもそうやって二人で秘密を共有してきたに違いない。


「青山に行けば、もっと分かることがあるかもしれない。ハナ、零と一緒に、アタシが必ず歩美を連れて帰るから待っててくれ。じゃあな」

『あ──』

 花予は何か伝えようとしたのかもしれないが、後でもいいだろう。もうやるべきことは明確だ。


 もうすぐ蔭山が到着するかもしれない。今は行かねばならない。滝沢家の根城、青山へ。



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