第82話
「おう! 随分遅かったじゃねーか。どこ行ってたんだよ」
「どうしたの? 体の調子でも悪くなった?」
通話を終えて、零と二人で店に戻ってくるとそこに座っていたシーザー、紫水が迎えてくれた。
「いや、違うんだ。ちょっとな……」
諒花は頭の後ろをかいた。正直、どこから話そうか言葉を選ぶも出てこない。
「二人とも、これから重要な話があるから聞いてくれる?」
横にいる零がしっかりとフォローしてくれた。花予に隠し事があることを白状させ話を聞こうとしたのはいいものの、それをする前に笹城姉妹とその周りに関わるとても複雑な話になると念を押された。
人々の行き交う店の外、それも道路沿いの柵に座って通話でやりとりをするのも限界に感じると一旦切り上げ、二人でこうして戻ってきたわけだ。
「なにィ!!? 歩美がああなったことに繋がる重大な手掛かりを見つけたァ!?」
手短に説明すると返ってきたシーザーの仰天とした反応に、そっと二人は頷き、零が続ける。
「知っての通り、歩美は私たちの友達。どうして女騎士になったのかはまだ分からないけど、そこに近づける可能性が出てきた」
「本当なのそれ!? 女騎士誕生の秘密ってやつ?」
紫水も驚いた反応をしていた。通話を切ってここに戻るまでの約1分で零は頭の中で作戦を組み立てていたと言わんばかりに続ける。
「知ればこの事件の裏側が見えてくるかもしれない。そこで二人に頼みがあるんだけど、私たちはその手掛かりを追うから、先に青山へ行って待ってて欲しい。すぐ追いかけるから」
「歩美の問題はアタシの身内も絡む複雑なことなんだ。歩美がああなった原因に近づく手掛かりをアタシの親が知ってたんだ」
零だけに任せておくわけにはいかない。ちょうど良い所で諒花も事情を補足する。
「おいおいおい。待て待て待て。それじゃこの事件は結局お前らの内輪もめか? 黒幕もその関係者の中にいたりするんじゃねえのか? 例えばお前らの家族やちょっとした親戚にあたる別の奴とかな」
話を一通り聞いたシーザーは訝しげに言った。
「その線もある。滝沢翡翠と会う前にハッキリさせておきたい。もしかしたらこの事件の根底は私と諒花の近くにあるのかもしれないから」
普段は見えなくて、案外近くにいるのかもしれない。それを解明したい。
「それなら見過ごせないよね。さっきの案にあたしは賛成かな。先輩がどうして女騎士になったのかに繋がる情報もあるかもしれないから。なるべくデカイ情報持って翡翠姉に会った方が早く解決するかもだし」
「黒幕がどこにいるのかも考えつかねえしな。そのお前の親が黒幕の手掛かりを知ってるかもしれねえ」
その後、再度四人でその場で軽く打ち合わせをした。分かれて行動する以上、連絡の取り合いは必要不可欠と踏んだ一同は各々連絡手段の確認をした後、段取りを整理した。
諒花と零は電話で花予から話を聞いている間、シーザーと紫水は先に青山へと向かう。滝沢家の本拠地である滝沢邸の最寄駅である青山一丁目駅の近くに紫水オススメのカフェがあるとのことなのでそこを集合場所とすることとした。小さいがトリュフと紅茶が美味しいようで、高級住宅の並ぶ青山の知る人ぞ知る癒しスポットなのだという。
さすがに紫水とシーザーだけでは青山の女王を説得するのは厳しい。刺客を大勢送ってでも向こうが会いたがっている諒花、零も一緒に行かなければ意味はない。ということで一致した。
「それじゃまたねー! 青山で会おう!」
「黒幕について何か分かったらすぐ教えろよ」
打ち合わせが終わり、シーザーと紫水は先に席を立つ。先に青山へと向かっていくのを見届けると。
「諒花、やろう」
「ああ。湖都美さんと歩美について、ハナから全部聞こう」
強く頷き、互いに向き合い、テーブルの上にはもう実は飲み干している飲み物の類を置いてあくまで会食していることを装い、スマホを出して早速、花予に繋いだ。




