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第81話

「ハナ、それどこからの情報なんだ?」

『さっき蔭山さんから電話が来て、教えてくれたんだよ。黒い車が徒党を組んで同じ方向に走っていくのを見たんだってさ』

 黒い車というと諒花も見覚えがあった。昨日、漆黒の車体で統一されたそれらを飛ばし、住宅街でしつこく追撃を行ってきた連中。夜道で遭遇した、あの滝沢家の構成員達を。


「蔭山さんはそっちにいるのか?」

『いや、いないよ。ここからは伝言なんだけどさ、蔭山さん、仕事が一段落したみたいだからこれから渋谷から車でそっちに駆けつけてくれるって言ってたよ』


 渋谷から三軒茶屋へは車で10分程度。この二つの駅の間にあるのは池尻大橋(いけじりおおはし)駅だけだ。都心なので道は整備されている。電車よりも早いかもしれない距離。


「ちょうど良かった! ちょっと今色々あって、三軒茶屋での用事は終わったんだ。これから青山に行くことになったんだけど車出してくれるかな?」

 蔭山も加わってくれるなら頼もしいことこの上なかった。昨日の時点で助けに来れるかもしれないと言っていたが、花予に言ってたことを守ってくれたようだ。

『あたしから蔭山さんに伝えておくよ。……どうやら、三茶で何かあったみたいだね。今すぐ敵の本拠地に乗り込まないといけない何かが』

 こちらの事情を察したのか、花予は反対もしなかった。これまでも娘──いや、姪が異人(ゼノ)である以上、戦いの場に行く背中を送る状況は何度も見てきた花予。そして諒花はいつも無事に帰ってきた。


 諒花と零は有事の際は蔭山に連絡するよりもまず花予にしている。理由は単純で連絡を入れても蔭山はまず電話に出ないことにある。窓際刑事とはいえ、警察側としてXIED(シード)に関わる仕事をしているために忙しく、二人に構う時間がとりづらいからだ。

 そこでいつからか、自宅にいる花予が一肌脱ぐ形で蔭山からの連絡を二人に伝達する係を自然と担うようになった。花予の自室にはパソコンやスマホ、タブレットまで連絡手段は多数ある。逆に蔭山の方から直接諒花や零にかかってくることもあるが、その殆どは花予が伝言で伝えるようになっている。


『絶対に零ちゃんと帰ってくるんだよ』

「あぁ、必ず帰ってくるよ。歩美も一緒に」

『歩美ちゃんに何かあったのか?』

 ──しまった。うっかり口を滑らせてしまった。


 その時、そこで横に誰かいる気配がして、自然とその方向を向いた。

「諒花、誰からの電話?」

 そこに立っていたのは零。太陽光で銀髪が輝いている。離席したことを不可解に思って追いかけてきたのは明確だ。


「ハナからだ」

 耳からスマホを少し離し、囁く。

「──! それなら──変わって」

「後で話すよ。それよりハナ、零が今、話したがってるから替わるな」

 追及から逃れるように零にスマホを渡した。こんにちは花予さんと挨拶を交わした後。


「花予さん、一つ訊きたいことがあります。よろしいですか?」

 その内容は諒花も察しがついていた。零の持つスマホの近くに耳を傾ける。

『なんだい? 零ちゃん』

 スマホの裏から微かだが花予の声が聞こえてくる。


「笹城湖都美さんのこと、詳しく教えてくれませんか?」

『──えっ? ちょ、な、なんで零ちゃんがその名前を……』

 その名前を聞いた途端、冷や汗をかきながら焦る声で花予は動揺した。

「歩美から聞きました。ちょっとこちらで短くは説明出来ないトラブルがあって、今、凄く大変なんです」

 零の声が次第に大きくなる。これまで隠し通してきた相手に、隠していた名前を出された由々しき事態にもう花予はどうしようもできない。


「笹城湖都美さんは歩美のお姉さんだと聞きました。どうして私にずっと隠していたんですか? 諒花に確認したら、私を傷つけるかもしれないから黙ってたって聞きましたよ? 普通、名前出さなくてもお姉さんがいるぐらいサラッと教えてくれたっていいのに、どうして存在を今まで隠していたんですか!」

 追及から次第に強く訴えかけるように続ける零。普段は冷静な彼女が滅多に出さない響く声。


『そ、それは……』

「花予さん、私達も知らない情報を握っていますよね? 笹城湖都美さんに関して、知られてはまずい情報を」

 もはや完璧で言い逃れは出来ない。少しの沈黙の後、

『……零ちゃん、すごいね……』

 優しく我が子を褒める母親のように、花予は降参してそっと口を開いた。


『ふっ……その通りだよ。あたしは湖都美さんの秘密を知っている。でもそれは諒花にも黙っていたことで零ちゃんにも知られたらまずいものなんだ。もう今となっては隠す意味もないけどね』

 

 諦めた様子の花予。こちらが勝手な推測を並べて思い込みをしていたというわけではなかった。予感は的中したのだ。花予はこちらに黙って大きな隠し事をしていた。それは紛れもない真実であった。



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