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第77話

「二人ともー、喧嘩はダメだよー。まぁ、何にせよ、この四人なら、あたしでも翡翠姉に上手く説明出来る気がするよ。ね? 諒花」

 ギスギスとした言葉を交わす零とシーザーをやんわりとなだめた後、紫水は改めて姉の説得に意欲を燃やしながら話を振ってくる。仕方なく後ろからの紫水の振りに応えることにした。


「あぁ。まずはこの四人で滝沢家との問題を終わらせようぜ」

 ──そうすれば、きっと歩美を助ける方法も……


 歩美とは戦いたくない。誰でもいい、殴る以外の解決手段を教えてくれ。そんな渇望が出てならない。何か最良な方法が欲しいことこの上ない。


「シーザー。あなたのことだから、本当は私達と行動する以外に何か別のことを企んでるんじゃないの?」

「ハアっ!? んなことねえよ。青山の女王と組んで黒幕を全員でとっちめようってんなら、面白ェ話じゃねえか。ま、ついでにちょっと()()()()()()はいるがな」

 紫水の声は一応届いてはいると思われるものの、零は因縁深いシーザーに訝しげな眼差しを向け、シーザーも零に向かってニッと悪戯な笑みを浮かべていた。


「誰? それは」

「昔、競ったヤツだよ。ま、このオレの敵じゃねえけどな。バーッハハハハハ!!」

 零から逃れるように得意気な顔で悠々と階段を降りていくシーザー。その背中を忌々しい目で見る零。その先はまだまだ下へと続いている。


 ビルを上る際は急いでいたのもあり、普段冷静な零も含めて誰も気にも留めなかったが、ビルのスタッフなどに見つかったら色々と面倒なことになる。それを察したのか、自然と四人は足早に降りていく。

 歩美の壊したバリケードがまだ26階の階段に残されていたのが目に映り、レストランのあるフロアに戻ってきたことを実感させる。バリケードの奥から外に出てしまえばもう大丈夫だろうと息をつきながらレストランフロアに出た。


「……ふーう、戻ってこれたねー。朝ご飯あまり食べてないからお腹すいちゃった」

 出た途端にそう口にしたのは紫水だった。気がつけば時計も十一時を過ぎてお昼も近い。

「なあ、試験だったんだろ? 空腹だと頭働かねえか?」

 諒花の場合は試験前でも必ず腹は満たす。腹が減っては戦は出来ぬというもの。が、成績は直前に零や歩美と勉強してこそ出せるものであり、満点には届かないことの方が多い。


「遅くまで勉強して寝坊しちゃってさー、朝はイチゴジャムの食パン二枚しか食べてなかったんだー。ねえ、青山行く前に下で何か食べてかない?」

「賛成。行った先で何があるか分からない。今のうちに休むのは良いと思う」

 紫水の提案に真っ先に賛同したのは零だった。

「オレも怪我を回復させてェ……肉が食いたくなってきたぜ」


 シーザーは腹を抑えてそう言った。すると奥に広がる、ガラスの先に広がる空間を指差す。

「なあ、お前ら。ここのレストランじゃダメなのか?」

 天井には煌びやかな黄金のシャンデリア、白いテーブルクロスの敷かれたテーブルが各所に置かれており、それらが見る者全てに高級感をもたらす。


「そこは高いからちょっと嫌だね……」

 紫水は苦笑する。


「アタシも飯食うなら他の場所がいい。下で何か探そうぜ」

 右に同じ。という風に同意した。そして下へ行くことを促す。


 お金の問題もそうだが、あえて避けた最もな理由がもう一つあった。それは遠い記憶の彼方にある、ある夜の出来事。

 最初はあのレストランを初めて見る場所だと思っていた。が、それは時の流れに伴う忘却による記憶違い。先ほどの戦いの直前まではぼんやりしていたものがやがて形を成した。


 眼前に見える、夜景の広がるビルのレストランで食事をしたあの日の懐かしき記憶。

 今はとてもではないが、今すぐ目の前にあるその思い出の場所へ立ち入る気がしなかったのだ。



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