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第69話

 望まぬ互いの刃による火花の散らし合い。歩美は一刀の剣だけで零の二刀の黒剣に遠慮は一切なく切り込んでくる。

 

 ──本当は戦いたくない。だが監視対象に危害を加える以上、戦う以外の答えはない。零は戦いの中で考えを巡らせる。


 シーザーの攻撃を避けて背後に現れたのも、鎧のチカラだろう。普段の歩美にそんな身体能力はない。先ほどは障壁で紫水の技を無効化し、シーザー相手には背後に瞬時に移動して不意打ちをかけた。

 もはや、素の戦闘力も無い素人の普通の人間が、異能武器(ゼオプロ)を装備し、例えば炎や氷、稲妻といった個々の武器に宿るチカラをただ行使して戦う域を超えている。他者を殺めたこともない人間が拳銃やナイフを握っているのでもない。

 いや、あの鎧はそこらのよくある異能武器(ゼオプロ)ですらないのかもしれない。装備するだけであのような飛躍的な身体能力を会得できる時点で異常だ。


 一口に異能武器(ゼオプロ)と言っても銃弾や相手を殴る棍棒、剣だけでなく、中には防御に秀でた盾やプロテクターの形をしていたり、腕飾りや杖の形といった一見、武器とは思えない形状をしたものもある。個体によって様々なチカラを秘めた異原石(ゼムライト)の数だけ、様々な形状とチカラを持った異能武器(ゼオプロ)が生まれる。だが装備するだけで得られるチカラなどたかが知れている──はずなのだが。


 斬った相手から異源素(ゼレメンタル)を吸収する剣も、鎧とはまた違う異原石(ゼムライト)を使って生まれた特別な剣、異能武器(ゼオプロ)なのは想像がついた。

 しかし相手の異源素(ゼレメンタル)に干渉し、戦いの中で溢れるそのチカラの源たるエネルギーを吸収して消耗させてくる代物は零すらも見たことがなかった。


 異人(ゼノ)がチカラを発動するためのエネルギーは無限ではない。その内に宿る異源素(ゼレメンタル)によるものだ。時間が経れば回復するが、それを攻撃によって吸収するのだから、戦う相手は斬られれば斬られるほど、傷の数だけいつも以上に弱っていく。やがてチカラも行使できないほどに。 


「くっ……!」

 歩美の素早い剣さばきがこれほどだったことを痛感する。両手で振り下ろされるその太刀筋は紛れもなく本物だ。こんな変わり果てた姿でも。

「零さん、もういいでしょ? 諒ちゃんの異源素(ゼレメンタル)をちょうだい」

 距離が空いた所で歩美がそっと口を開いた。


「歩美!! もうやめてくれ!!!」

 背後から聞こえるのは戦いたくても戦えない諒花の制止の声。鎧を纏った歩美もピクリと反応し、微かな面影が垣間見える。


「どうしちまったんだよ! その鎧も剣も、お前が欲しくて手に入れたのか!? アタシにはお前がこんなことするとは思えない! 聞いてんのか歩美!」

 本当は殴りたいのだろうが殴れない。その分、言葉で攻めていく諒花。零も望んだ答えが彼女から返ってくることに期待して。しかし。


「違う。これはわたしが望んで手に入れたもの。この剣に異源素(ゼレメンタル)を集めれば、わたしの望みが叶う。わたしがやらないといけないの」

「アタシや零だけでなく、関係ないシーザーや紫水にも手を出して、そうまでして叶えたいものってなんなんだよ!!」

「わたしの大切な人、湖都美(ことみ)お姉ちゃんを生き返らせるためだよ。そのためなら、諒ちゃんでも容赦しない」


 ──え、誰それ?

 突き刺さったその名前は零にとっては初めて聞く名であり、同時に初めて判明した事実をそのままに物語っていた。


「湖都美さんを!? それ、本当なのか……?」

 諒花は顔をこわばらせている。その名前、そしてそれが誰なのかを既に知っているようだった。部外者の紫水とシーザーはともかく、一緒に時間を過ごした零だけを置いて、当たり前のように二人の間で繰り広げられるやりとり。


「うん。死んだ……一か月前に……」

「……!」

 湖都美という人物については全く知らない。具体的に歩美とどういう関係なのか、全くさっぱりの初耳だ。

 しかし一つだけ。記憶の中に歩美について心当たりがある。一か月前の彼女の──



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